遠まわりする雛 米澤穂信

遠まわりする雛 米澤穂信

 

 神山高校1年生の折木奉太郎は、姉の勧めもあり、同級生である千反田える福部里志伊原摩耶花たちとともに古典部に入部する。奉太郎は自身の身の回りで起こる不思議な事柄の謎を解いていき、いくつかの事件を解決する。奉太郎高校1年の1年間で起きた様々な事件が描かれる。

 以下の7編からなら短編集。

 

やるべきことなら手短に

 高校入学当初。奉太郎は里志から女子が音楽室で経験したという七不思議2の話を聞かされる。それを聞いたえるが七不思議2について語り出す前に、奉太郎は七不思議1である女郎蜘蛛の会のメモについて話し出す。えるの興味がそちらに変わり、3人は校内の掲示板でそのメモを探し、見事に発見するが…。

 

大罪を犯す

 6月の授業中、奉太郎は隣のクラスでえるが教師と口論をしているのを聞く。部室でそれが話題となり、えるは教師が授業の進行具合を別のクラスと間違えた理由を知りたが理、奉太郎がそれを推理する。ポイントは英文字の小文字。

 

正体見たり

 夏休み。古典部の皆で摩耶花の親戚が経営する民宿へ合宿に行くことに。そこで民宿の娘たちから実際に客が自殺した話を聞く。翌朝えると摩耶花が首吊りの影を見たと騒ぎ出す。奉太郎はえるとともに宿の中を調べ真相に気づく。ポイントは宿の姉妹、姉の浴衣。

 

心あたりのある者は

 11月。部室で奉太郎はえるから推理力を賞賛される。奉太郎はそれを否定しようとし、えるはその時流れてきた校内放送の理由を推理し始める。ポイントは偽札事件。

 

あきましておめでとう

 初詣に行くことになった古典部。神社を運営する十文字家の娘かほから酒粕を取ってくるように頼まれた奉太郎とえるは納屋へ入るがそこへ閉じ込められてしまう。誰にも見つからずそこから脱出しなければいけなくなった二人。奉太郎は落し物が巫女のバイトをしている摩耶花に届くことに気づき、里志にはわかるあるモノを壁の隙間から外へ落とすことに。ポイントは、金ヶ崎の退き口。

 

手作りチョコレート事件

 バレンタインデー。摩耶花が里志に手作りのチョコをプレゼントすることに。部室にチョコを置いて里志が取りに来るのを待っていたえるだったが、ちょっと部室を留守にした間にチョコが盗まれてしまう。部室はそこへ行くための2つの階段の状況からちょっとした密室となっており、奉太郎は部室と同じフロアにいる天文部に話を聞くが、チョコは見つからなかった。奉太郎は必ず犯人を見つけるとえるに告げ彼女を帰すが、何もせず里志と一緒に帰宅の途につくが…。

 

遠まわりする雛

 1年生の終わりの春休み。奉太郎はえるに頼まれ、生き雛祭りに参加することに。祭りのルートの途中にある長久橋が工事のため通行できなくなってしまっており、それが連絡の行違いがあり、何者かが祭がありながら、工事の許可を出したことが判明する。祭が終わり、えるは奉太郎に事件の真相究明を頼む。奉太郎とえるが考えていた犯人は同じ人だった。ポイントは時期外れの満開の桜。

 

 

 シリーズ4作目。ここまでの3部作はまるで最初から3部作とすることをあらかじめ考えて作られたような展開であり、それでいてどの作品も単体としても面白かった。メインとなる文化祭が3作品めで終わり、次はどのような展開となるのかと楽しみにして本作を読んだ。

 本作は1年間を舞台とした短編集。これまでの3部作の前だったり後だったり。3部作のメインキャラ4人も出会ったばかりだったり、時が経過してその関係性に進展があったり。ミステリとしてももちろん面白いが、各人の関係性の進展の方が読み応えがある作品となっている。

 「手作りチョコレート事件」では、これまで明らかにされてこなかった里志の摩耶花に対する正直な気持ちが描かれ、「遠まわりする雛」では奉太郎がえるに対する自分の気持ちに気づいてしまうシーンが描かれる。その奉太郎が「手作りチョコレート事件」で里志の取った行動に共感するところまで。

 あぁ高校生だなぁ(笑 前作「クドリャフカの順番」で犯人?の動機はまだしも行動は理解できない、と書いたが、本作の里志の行動は理解できる。高校生の時は同じように思っていたものなぁ。ラストの奉太郎がトンチンカンなことを話してしまったのも同じ、高校生があんな場面で『出来た返し』を言えるはずがないって(笑

 

 ミステリとしても、「心あたりのある者は」はあとがきを読まずとも、「9マイルは遠すぎる」が思い出され思わずクスッとしてしまった。「女郎蜘蛛の会」なんてそのまま「黒後家蜘蛛の会」だし(笑 「あきましておめでとう」の『金ヶ崎の退き口』もその前の「正体見たり」に伏線があり、歴史に詳しくない人間にもわかるようにしてあるし。トリック?の類はそれほどスゴいとは思わないが、このようなちょっとしたくすぐりがあるのが見事。

 

 これは次の作品も期待できそうだ。