鬼平犯科帳 松本幸四郎 本所・桜屋敷

鬼平犯科帳 松本幸四郎 本所・桜屋

 

鬼平、与力同心たち登場

 夜の街。本所の銕が悪漢に襲われるが、返り討ちに。それを見ていた老人が銕に声をかけ、盗賊を一緒にやらないかと誘うが、鉄は断る。

 時が過ぎ、銕は鬼平となっていた。役宅で同心たちが稽古をしていた。酒井が鬼平の活躍ぶりを述べた後、盗賊改方の頭として迎えると話す。しかし忠吾は鬼平の悪い噂を話し出す。そこへ鬼平が現れ忠吾に稽古をつけ、うさぎとあだ名をつける。その後、沢田、酒井にも稽古をつける。最後に佐嶋が申し出るが、鬼平は参ったと述べ、勝負はお預けだと言って去って行く。

 江戸郊外。盗賊たちが盗みを働いていた。

 

左馬之助とおふさ

 本所。鬼平は廃墟となった高杉道場を訪ねる。そこへ左馬之助がやってくる。二人は昔話を始める。鬼平は隣の桜屋敷のことを思い出していた。そこにはおふさという娘が住んでおり、左馬之助はおふさに惚れていた。二人は酒を飲みに行くが、それをマツケンが見ていた。二人は酒を飲みながらおふさのことを思い出していた。二人はおふさが他へ嫁に行くのを見送るしかなかった。そのためか左馬之助は未だに独り身だった。左馬之助はおふさが離縁し今は本所の服部角之助の御新造だと話す。

 

彦十登場

 鬼平は服部の家を探す。そこでその屋敷から出てきた彦十を見かける。二人は五鉄へ行き軍鶏鍋を食べ酒を飲む。鬼平は彦十に服部角之助の屋敷のことを尋ねる。服部の屋敷では博打場が開かれていた。彦十は屋敷を探ったが侍たちに見つかってしまう。それを服部の御新造と思われる女に助けられていたが、御新造は年増だがいい女だったと彦十は話す。彦十は昔のように鬼平を手伝うことに。

 

鬼平、左馬之助と松岡十兵衛との過去

 屋敷に帰った鬼平は久栄に左馬之助や彦十のことを話す。そしてかつて彦十に誘われ左馬之助と銕は盗賊の仲間になりかけたことがあったと昔のことを語る。盗人の頭に会いに行った銕たちはそこで道場の食客だった松岡十兵衛と会う。そして十兵衛に諌められ盗賊の仕事は手伝わずに済んだ。しかし十兵衛はそれ以来道場から姿を消したのだった。

 

おふさの現在と過去

 その頃十兵衛は服部の屋敷でおふさから仕事を手伝って欲しいと頼まれていた。しかし十兵衛はこの辺りには自分の顔を知る者が多い、おふさもそうだろうと話す。おふさは顔を見られてところでと言い、とっくに地獄で生きているようなものだと答える。そして寝たきりの状態の服部の姿を見せる。

 彦十はおふさが昔嫁いだ近江屋の女中からおふさのことを聞き出す。おふさは嫁いだものの子供ができず、やっと身ごもった時にも流産してしまい、夫も亡くなったとのことだった。

 

おふさの狙いと左馬之助の苦悩

 おふさは博打場で負け店の金に手をつけた近江屋の手代文六に金を貸す。その代わりに盗賊の引き込みをしてくれと頼む。文六がそれを断るとおふさはその場で借金を返すように迫り、協力させることに。彦十は文六と話をしながら店を出てきた流れ働きの盗賊蓑虫の久に声をかける。

 左馬之助が役宅に鬼平を訪ねてくる。博打場となっている服部の家からおふさを助け出して欲しいというのが左馬助の願いだった。そこへ彦十がやってきて調べたおふさの過去を話す。夫と子を亡くしたおふさは、近江屋の2代目に疫病神扱いをされ追い出されていた。さらにおふさの実家だった桜屋敷も近江屋により売り出されおふさは帰る家も失い、服部の嫁となった。さらに彦十は蓑虫の久から聞いた話として、近江屋に盗みに入ること、阿弥陀の松五郎が頭であること、阿弥陀の松五郎とは松岡重兵衛だということを聞かされる。それを聞いた左馬之助は、昔最後におふさに会った時に松岡先生が盗賊だと教えたと語り、鬼平はおふさが松岡先生を呼び寄せ、近江屋への盗みの絵図をかいたのかと話す。左馬之助は話を信じなかったが、鬼平はあとは我々の仕事だ、任せろと話す。

 おふさは重兵衛に近江屋の図面を見せるが、重兵衛は誰も斬らないと答える。おふさはそれはわかっている、その代わり身代を潰すほどの金を盗んでくれと頼む。

 盗賊改が近江屋を見張る。忠吾が蕎麦屋に扮し十蔵とともに見張るが、そこへ夜鷹のおりんがやってくる。しかし博打場はしばらく開かれなかった。

 十兵衛の元へ久がやってきて、今度の仕事に重兵衛と昔関わりがあった彦十が加わりたいと言っていると話す。しかし彦十は重兵衛に会えず、仕事の日に久と会うことになった。左馬之助は毎日にように五鉄を訪れていた。彦十は自分が見張られているようだと鬼平に話す。鬼平は五鉄に行き左馬之助と会う。左馬之助は鬼平が松岡先生をどうするのかが知りたいのだと話す。鬼平が先生であろうとも盗人ならば捕まえると言うと左馬之助は鬼平のことを鬼だと話す。

 重兵衛はおふさと話す。盗賊となった理由を聞かれた十兵衛は退屈だったからだろうと答える。

 

そして終盤へ

 重兵衛たちが近江屋を襲う。文禄が開けた扉から皆が侵入する。しかし蔵には鬼平をはじめとする盗賊改が待ち構えていた。鬼平は重兵衛と一騎打ちとなり斬り捨てる。そして盗賊改は服部の屋敷へ。鬼平は一人屋敷に入り、斬りかかってきたおふさと対峙し捕まえる。

 おふさの吟味が行われる。おふさは鬼平の取り調べに、近江屋を襲ったのは恨みであり、全ては自分の考えだと話す。。そんなおふさを左馬之助は影から見ていたが、おふさの前へ飛び出し左馬之助だと名乗るが、おふさは何も覚えていないと答える。

 左馬之助は夜近江屋へ。そこには彦十が待っており左馬之助を五鉄に誘う。翌朝近江屋の店先の看板が真っ二つに斬られていた。その後近江屋は看板を掛け替え商いを続けたが、やがて店は傾いた。誰かに店の証文を盗まれたのが痛手となった。

 おりんが網切りの甚五郎に服部の家が鬼平に潰され、阿弥陀の松五郎も斬られたと報告していた。甚五郎は銕が本所に戻ってきやがった、その江戸で大暴れをしてやろうと話す。そして手下にめぼしい家を嘗めておけと命じる。

 五鉄に女がやってくる。彦十はその女を見ておまさじゃねえかと喜ぶ。鬼平は川船から桜屋敷を見つめる左馬之助を見かける。そして「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」の和歌を口にする。

 

 

 いよいよ松本幸四郎版の鬼平犯科帳が始まった。1作目に選ばれたのは、「本所・桜屋敷」。吉右衛門版の同作品のあらすじなどはこちら

 吉右衛門版は第1シリーズの2話だったため登場人物などの紹介は済んでおり、本作との違いがその辺りにある。

 本作では、鬼平が火盗改の頭となり役宅に現れるところから描かれる。そこで与力や同心たちも初登場となる。佐嶋、酒井、沢田などお馴染みの与力同心たちが鬼平と立ち会う。吉右衛門版ではベテラン俳優さんたちがそれぞれを演じていたが、本作はなかなかフレッシュな顔ぶれと言える。

 次に本作のメインの話の登場人物である、左馬之助とおふさが登場。こちらも新顔である。左馬之助はこの後も度々顔を見せてくれるだろう。おふさの原沙知絵もなかなか悪女っぷりが似合っていた。

 そして彦十。吉右衛門版の印象が強いため、彦十はダメ爺さんというイメージが強かったが、まさかの火野正平。猫八は好々爺の彦十だったが、火野正平はちょっと曲者感が強い。一連の事件後に、近江屋の証文を盗んだと思われるシーンがあったが、イメージぴったり。新しい彦十の姿が描かれる予感がする。

 最後におまさも登場。本作では顔見せだけで終わるが、中村ゆりが演じるおまさも期待できる。「今夜コの字で」が良かったなぁ。

 

 で、松本幸四郎演じる鬼平。若い頃を息子の染五郎が演じたのは大正解だろう。吉右衛門版では、しばしば吉右衛門さんが若い頃も演じていたが、流石に少し無理があったと思うので。幸四郎鬼平はちょっとした演技が吉右衛門さんを彷彿とさせてくれた。血のつながりがあるから似ているのは当たり前だが、それ以上に吉右衛門さんをリスペクトしている感じが現れていてちょっと嬉しくなった。

 

 話は「本所桜屋敷」だけでなく、吉右衛門版の「第2シリーズ#18 下段の剣」の松岡重兵衛をアレンジして登場させているようだ。ラストの松平健のセリフは吉右衛門版にはない良いシーンだった。

 

 新シリーズの第1作ということで、気合いの入った90分強の作品だったが、このレベルで作品が作られていくことを期待したい。