ふたりの距離の概算 米澤穂信

ふたりの距離の概算 米澤穂信

 

 神山高校の折木奉太郎は、姉の勧めもあり、同級生である千反田える福部里志伊原摩耶花たちとともに古典部に入部する。奉太郎は自身の身の回りで起こる不思議な事柄の謎を解いていき、いくつかの事件を解決する。2年生になった奉太郎が新入部員大日向の退部の原因をマラソン大会中に考えることになる長編。

 

序章

 2年生となった奉太郎たち。古典部に大日向友子が入部するが、5月末に退部をしたいと申し出てくる。その原因がえるとの会話らしいと知った奉太郎はマラソン大会の間にその原因を突き止めようと、大日向が入部してからのことを思い出していく。

 

1章

 新入生の勧誘の日。奉太郎とえるは新入生が通る校庭で古典部の勧誘を始める。しかしえるは古典部の対面で勧誘を行う製菓研究会のテーブルに違和感を覚えそれを奉太郎に伝える。それを聞いた奉太郎は違和感の正体を突き止めようと様々なことを言い出すが、それを1年生の大日向友子が聞いており、ふたりに話しかけてくる。違和感の正体を奉太郎は突き止め、一連の話を聞いていた大日向は入部を決めることに。

 謎 製菓研究会のテーブルの違和感

 

2章

 奉太郎の家に古典部の皆がやってきて、奉太郎の誕生日を祝う。奉太郎はえるが取ったある行動を皆に気づかれないようにする。

 謎 えるの取ったある行動

 

3章

 大日向の誘いで古典部の皆で彼女の従兄弟が経営する開業前の喫茶店に行く。その店で皆で様々な会話をすることに。

 謎 大日向がつけた店の名前 

 

4章

 マラソン大会前日、部室に向かった奉太郎は大日向が部室に入りづらそうにしているのを目撃する。その後二人は部室に入るのだが…。奉太郎はマラソン大会途中にえると会い、前日大日向との間で何があったのかを聞こうとするがえるは答えない。仕方なく奉太郎はその時あったことを推理しえるに告げる。

 謎 前日部室でえるが言った「はい」は誰に対しての言葉だったのか

 

5章

 マラソン大会で奉太郎は大日向と会い、大日向がえるに対して考えていた勘違いについて話をする。全てを理解した大日向だったが、退部を取り消すことはなかった。

 謎 大日向はえるに対し何を勘違いしていたのか

 

終章

 マラソン大会のゴール前で奉太郎は里志と会う。大日向のことを聞かれた奉太郎は結果を伝えるが、退部の原因については何も語らなかった。そしてある女性の名前を言い里志が知っているかどうか確かめようとするが、それも諦める。

 

 

 シリーズ5作目。前作は「完全」な短編集だったが、本作はこのシリーズによくある短編で区切られた長編、といった感じか。

 3作目「クドリャフカの順番」が文化祭の開かれた3日間の話だったのに対し、本作はマラソン大会で奉太郎が走っていた20kmの話。実際には、奉太郎が過去2ヶ月間のことを思い出しそれが回想として描かれるのだが。

 

 これまでの作品に負けず本作の出来も素晴らしい。凝りに凝った作品ばかりのシリーズだが、本作も上記したように各章での謎を提示しておきながら、メインである新入部員が退部を決意した原因に関係する事由を散りばめてあるのが憎らしい(笑

 かと言って、各章で提示される謎も読者を惹きつけるものだから余計に悔しい。1章の「製菓研究会のテーブルの謎」は、4作目の「心あたりのある者は」と同様、「9マイルは遠すぎる」を彷彿とさせてくれるし、さらにそれが食中毒事件までたどり着くし。2章の「えるの取ったある行動」は伏線がわかりやすいので読んでいて気づいたけれど、それが第4作最終話の後日談の繋がっていて、謎とは別の意味で読者としては気になるし(笑 3章の「大日向がつけた店の名前」は奉太郎が最後に謎解きを始めたのにはいきなり感があったが、第2作「愚者のエンドロール」同様、奉太郎の推理の後に真実がわかる展開で、しかもその真実にほっこりするし。

 

 これらの謎だけでも十分読み応えはあったのに、第4章、5章で明かされる本作最大の謎は、なるほどなぁと思わせてくれた。本作ほど、読み終えてすぐにでももう一度最初から読み直したいと思った小説はあまりない。これまでの作品同様、高校生らしい動機だなぁと思わないではないが、奉太郎が最後にたどり着く推理に、必要な情報はそれまでに全て提示されていた本作の作りは本当に見事だと思う。確かに読んでいていくつかの場面でちょっとした違和感があったのは間違いない。えるが話した卒業文集を見せてくれた人の名前が突然出てきたり、里志が喫茶店で週刊誌の記事を気にしたり。固有名詞が出てくればさすがに気に止めるし、それがヒントなのは当然だが、全く気づかないヒントも多く、わざと気づかせる部分と気づかせない部分があるのは流石。

 

 新入部員の大日向はなかなか良いキャラだったのになぁ。頭も切れそうだし、レギュラー4人にも溶け込めそうな感じだったし、奉太郎との推理コンビも面白そうだったけど、やっぱりあの4人のチームが良いのかなぁ。

 

 本シリーズがアニメ化されているのを知り、そちらも鑑賞中。原作である本シリーズもスゴいが、このシリーズをあのようにアニメ化したのもなかなか。あの事件で名前を知った京アニさんだが、確かに見事なアニメ。

 シリーズもあと1作を残すのみ。楽しみに読ませてもらおう。