八つ墓村

●672 八つ墓村 1996

 26年前の殺戮シーンから始める。

 昭和24年神戸。石鹸工場で働いていた辰弥は上司からラジオで辰弥が探されていたとの知らせを受け諏訪法律事務所を訪ねる。そこで身の上話を聞かれ背中の傷も確認される。母鶴子の父、丑松が田治見家の代理で辰弥を探しに来ていたが、丑松は辰弥の前で血を吐いて死んでしまう。丑松は毒殺、普段飲んでいた薬に毒が含まれていた。警察で取り調べを受けるが、美也子のおかげで疑いが晴れる。家に戻った辰弥だったが、八つ墓村には帰ってくるなという脅迫状が届いていた。

 辰弥は美也子とともに八つ墓村へ向かう。辰弥は母が生まれた場所を見たかったと美也子に話し脅迫状を見せる。美也子は田治見家のことを説明する。20代当主の要蔵は26年前に死亡、当主の久弥は肺を患い病床におり、腹違いの姉の春代は出戻り、そのため大叔母の小竹小梅の双子が家を取り仕切っている。要蔵の弟である九野医師、要蔵の弟の子供里村慎太郎、典子のことも話す。辰弥は田治見家に着き、皆に紹介される。

 辰弥は春代に離れへ案内される。そこには鍵の扉や窓に枠を取り付ける穴などがあった。そこへ濃茶の尼が現れ辰弥に祟りが起こるから帰れと騒ぐ。

 金田一八つ墓村へ現れる。郵便局も兼ねる宿へ入るがそこへ久弥が殺されたと村人が知らせにくる。金田一は田治見家へ。等々力警部がきており、丑松、久弥ともに毒殺されたことから九野医師を疑っていた。

 美也子は慎太郎と会っていた。里見家は戦後田畑を失い慎太郎は石灰岩ばかりの土地をなんとかしようとしていた。そこへ典子がやってきて久弥の死を知らせる。

 辰弥は小竹小梅の双子が蔵へ入っていくのを目撃する。彼は村を歩くと村人からの視線を浴びていることに気づく。辰弥は八つ墓明神へ。そこで美也子と会い、明神の説明、400年前の悲劇を聞かされる。

 久弥の初七日が行われ、金田一も呼ばれる。濃茶の尼もやってきて美也子を呼び出す。美也子は尼に金を渡し帰らせる。九野医師は法事の場で皆金が欲しいんだと話す。その夜、尼の家。何者かが忍び込み、尼を絞め殺す。

 辰弥は蔵から双子が出てくるのを見て、一人蔵へ入る。そこで抜け道を見つけ洞窟へ。鎧武者を目撃し、村のはずれの出口から出る。そこは尼の家のそばだった。辰弥はそこに慎太郎がいるのを目撃、彼が去った後尼の家を覗くと尼が死んでいるのを発見。翌日等々力警部たちが尼の家へ。金田一もやってくる。等々力警部は美也子に尼に金を渡した理由を尋ね、美也子は法事に呼ばれないことで文句を言ったためと答える。巡査は尼の死体のそばに鎌が三日月に見え、それが甘子の紋章に似ていることから祟りではないかと騒ぐ。金田一は祭壇の絵に注目する。

 田治見家で辰弥は琴を弾いていた典子と会う。それを知った春代は里見家の人間とは仲良くしない方が良いと忠告する。双子がよその家に養子に出た次男が成功したのを妬んでいるためだと。それならばなぜ里見兄妹をこの家に住まわせているのかと辰弥は尋ねるが、それは久弥が決めたことだと春代は答える。

 金田一は田治見家関係者の家系図を書いていた。

 美也子の家に慎太郎が訪ねてきて、何か困ったことがあれば力になると話す。美也子はマフラーを慎太郎に渡す。そこへ金田一がやってきて、田治見家の財産相続のことを美也子に聞く。美也子が知らないので金田一は辰弥に聞くことに。辰弥は村から出て行こうとしていた。辰弥は脅迫状や洞窟の鎧武者のことを話し、3人で洞窟へ。そこに春代がやってきて鎧武者は父要蔵だと話し、26年前の惨劇のことを語る。要蔵は村人32人を殺したが、原因は鶴子が逃げたためそれを探そうと狂ってしまったのだと。

 郵便局に戻った金田一、そこへ巡査が九野医師が行方不明だと言いにくる。辰弥もやってきて、離れの屏風の中に何かあると金田一に話す。金田一が屏風の中を確かめると写真が出てくる。鶴子と陽一という二人が映った写真だった。その時小竹の蔵から出てきて小梅が襲われたと話す。金田一は一人で洞窟へ。小梅が鎧武者のそばで死んでおり、さらに九野医師の遺体も見つかる。九野のそばには食べかけのおにぎりがあった。

 金田一は写真のことを知る人を探し相生町へ。時計屋の主人に事情を説明したところ、鶴子の書いた手紙が見つかる。

 田治見家では小梅を失った小竹が騒いでいた。小竹は要蔵を殺したことなどを話す。400年前田治見家の当主庄左衛門は落ち武者を殺した後狂ってしまい7人を殺し自害したこと、その後田治見家の当主は100年ごとに狂ったこと、要蔵は400年目の当主だったことなど。

 辰弥は慎太郎を尼の家へ呼び出す。そこに金田一も現れる。辰弥は慎太郎が尼の死を見たはずなのに黙っていた理由を問い詰める。金田一は祭壇にあったはずの絵がないことに気づき、それが洪禅和尚のいる寺にあると聞き、寺へ。和尚は26年前に濃茶の尼が尼になった経緯を話す。金田一は絵を見つけその裏に歌が書かれているのを発見する。

 田治見家。小竹が一人蔵へ向かう。そこに何者かがきて小竹の上に駕籠を落とし殺害する。春代が蔵に駆けつけるが、何者かに首を絞められてしまう。春代は犯人の指に噛み付いて絶命する。家に戻った辰弥は物音に気づき蔵へ。そこで春代から犯人の指に噛み付いたことを聞く。

 金田一により駐在所に関係者が集められる。辰弥は新しい手紙が今朝机にあったと話す。そこには鎧武者の下に来いと書かれていた。金田一は辰弥が最初に受け取った脅迫状の文字が水で消えることを見せる。またその脅迫状の封筒には切手が貼っていなかったことから、当時村から出ていたのは辰弥を迎えに行った美也子しかいないと話す。

 洞窟の鎧武者がある場所へ金田一が向かう。そこにいたのは美也子だった。金田一は美也子が祟りを利用し7人を殺したこと、遺産相続できる人間の数を減らすことが動機だったと話す。丑松は相続には関係ないが辰弥に恐怖を味あわせることが目的、久弥が遺書を書く前に殺したことなどを告げる。美也子は自分は遺産相続に関係ないと話すが、金田一は指の怪我が証拠だと語り、このままでは慎太郎が疑われると話す。美也子は鎧武者を落とし逃げる。蔵に戻った美也子だったが、そこには警察や慎太郎が待っていた。

 美也子は九野医院から毒を盗むところを尼に見られ脅されたため殺したと話す。慎太郎は美也子のことで話があると呼び出されたと話す。金田一は絵の裏の歌が美也子が犯人であることを示していると話す。美也子は九野医師に逮捕状が出ると嘘をつき医師を洞窟へ誘い毒入りおにぎりを渡した、小竹小梅は全てを決めてしまうから、春代は小竹殺しを見られたため殺したと話す。

 そして慎太郎に恋していたが避けられ続けたこと、それでも力になりたいと今回の事件を起こしたと語る。金田一は写真、手紙などから辰弥の父が要蔵ではなく陽一という男性であることを説明する。それを聞いた美也子は毒を飲んで死んでしまう。

 事件が解決し、慎太郎典子の兄妹は遺産相続を拒否し村を出て神戸へ行くことに。巡査は美也子の出身が出雲であり甘子一族と関係あったのではと話す。郵便局では夫婦が金田一を見送るためにプレゼントを用意していた。

 

 

 

 1977年の渥美清版「八つ墓村」を観た時に本作の存在に気づき鑑賞。

 当初は、あらすじは同じであろうから2本の映画の違いのみを記載しようと考えていたが、本作のwikiに詳細な記載があることと、あまりに渥美清版とはストーリーが異なるので、あらすじを表記した。

 

 本作は市川崑監督による金田一ということで1970年代に製作された5本のシリーズの雰囲気とよく似ている。さらに渥美清版よりもミステリー作品としての完成度が高く、こちらの方が「八つ墓村」の原作を知るにはふさわしいと思われる。

 辰弥に届く脅迫状(後に犯人の決め手となる)、辰弥が探された理由(田治見の跡取り)、九野医師が疑われる理由(最初の2名の毒殺に病院の毒が使用された?)、村人が辰弥を嫌う状況(辰弥の散歩時の視線)、濃茶の尼の殺害理由(その前の金の受け渡し)、被害者の遺体のそばに残される祟りを思わせる物、家系図の登場(市川崑金田一の定番)、九野医師遺体現場に残されたおにぎり(毒殺の方法)、事件終盤金田一が村を離れる(市川崑金田一の定番)、などミステリーとして必要な事柄がはっきりと明示されている。

 さらにラストは、金田一による関係者の前での謎解きもしっかりとある。原作とは所々異なるようだが、連続殺人事件の解決としては本作の方が圧倒的にスッキリとしているのは間違いない。

 それでもwikiを読むとこれでも原作とは大きく異なる点が多いようだ。確かにNHK吉岡版で描かれた、8組の二人組の名前が書かれたメモが登場しないのは残念。これが原作でのキモだったろうが、2時間の枠に収まりきらないと判断されたのだろう。

 

 余談だが、岸田今日子さんが演じる双子の小竹小梅。今ほどCGが完成されていない1990年代の作品なので合成なのだろうが、隣に座るもう一人の岸田今日子の膝を触れるなど、ちょっとそのテクニックがわからないほどレベルの高い画面となっていた。

 

 これでやっと「八つ墓村」の原作の全体像を理解できたように思う。できれば今もう一度NHK吉岡版の「八つ墓村」を観たいが、ビデオ消去しちゃったんだよなぁ。