聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12 山口恵以子

●聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12 山口恵以子

 佃にある「はじめ食堂」は、昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねており、姑の一子と嫁の二三が、仲良く店を切り盛りしている。店の二人と客たちの中で起きる様々な出来事を描いた短編集。以下の5編からなる。

 

 

初夏のサラダ祭り

 皐が万里の代わりにはじめ食堂で働き始め、万里は八雲での修行を始める。康平が健康診断の結果を気にする。新たな客がやってきて皐をおかまだとバカにし、一子はその客を追い出す。羽田設備工業の社員がやってきて、前川工務店の社長前川から皐が金を持ち逃げしたと聞いたと話す。その後、羽田設備工業の田澤という若い社員がやってきて事情を説明、それを聞いた山下医師は、前川工務店と取引がある飛鳥ハウスの社長に口利きをすると話す。

 

鰻で乗り切れ

 二三は夏バテ気味だった。そのためお盆休みの6連休に健康診断を受けると山下医師に話すと、その前に血液検査をやってみたらとアドバイスを受け、山下に採血してもらう。結果、何も問題はなく、ここのところ続いた厄介ごとがバテ気味の原因ではと山下に言われ安心する。

 

たまごのキノコ

 山下が9月のシルバーウィークにはじめ食堂の皆を旅行に誘う。飛鳥ハウスの社長が予約した宿だったが、用事があり行けなくなったためだった。二三、一子、皐、康平、要、はな、山下は南足柄の宿へ。昼間キノコ狩りをし、夜はそのキノコとギビエで夕食を楽しんだが、要が就寝の時間になり腹痛を訴え始め、山下は病院へ連れていく。はなはキノコが原因ではと疑うが、要の腹痛は盲腸が原因だった。はなは宿の女将に謝罪する。

 

うどんと名月

 康平と瑠美のカップルがお互いの両親に会うことに。瑠美の親は問題なかったが、後日康平の母京子が店を訪ねてきて、二人が別居婚をすることに不満を漏らす。二三と一子はバー月虹に行き、瑠美と会う。瑠美は康平の母のことに気づいており、最近康平と会っていなかった。万里が店にやってきて八雲でジビエ料理を始めると話す。

 

聖夜のおでん

 店に二三の同級生、京子と理沙がやってくる。理沙は未だに息子のことを気に病んでいたが、一子のアドバイスで表情を和らげる。康平の母がケガをし瑠美は二人のために食事を作ることに。クリスマス、瑠美が料理教室をやっているビルで男が立てこもる事件が発生、皆が心配するが何事もなく解決する。瑠美は康平と街を歩きめぐみ食堂を訪れる。

 

 前作で万里が店を出ることを決意、その代わりに皐が店を手伝うことになった。シリーズ12作目となる本作、大きな転換点を迎えると思っていたが、読んでみるとはじめ食堂は通常営業だった(笑 

 1話目こそ、皐が働き始めたことにより店に災難が降りかかるが、山下医師によりあっさりと事態は解決。その山下医師が2話目、3話目でも活躍を見せ、食堂の皆は平和な日々を過ごす。

 しかし4話目で事件が。いよいよ康平と瑠美のカップルがお互いの親に会うことになったが、康平の母が瑠美のことを気に入らずそのことが店の皆の耳にも入る。店にも二人が顔を出さなくなり、やきもきする中、瑠美の料理教室が入るビルで事件が発生、こちらも無事解決。そしてラスト、康平と瑠美はめぐみ食堂へ。

 

 元占い師が営む店、という紹介で登場するこの店だが、どうやら著者の別作品の舞台となるお店らしい。そう言えば、菊池桃子が主演しているドラマを真夜中にちょっと見て菊池桃子が主演?と驚いたが、それがその別作品だったらしい。

 

 今年の初夏から約3ヶ月間このシリーズを読み続け、いつしかはじめ食堂の常連に自分もなってしまった気でいた(笑 店で起こる様々な事柄があり別れや出会いもあり。平凡な食堂で繰り広げられるシリーズ、大きな転換点を迎えるかに思ったが、いつ来ても安心するような、故郷の知り合いの店を久しぶりに訪ねたような、そんな感じで相変わらずほっこりとさせてくれた。またしばらく時間を置いて続きを読ませてもらおう。