あきない世傳 金と銀3 奔流篇 高田郁

●あきない世傳 金と銀3 奔流篇 高田郁

 五鈴屋四代目が亡くなり、惣次が幸を嫁にすることを条件に五代目となることに。惣次は5年後には江戸に出店することを夢見て、五鈴屋の改革に乗り出す。幸も惣次を助け始め、五鈴屋は順調に発展していくように見えたが…

 以下の12章からなる。

 

1章 十三夜 1741年

 幸 鞘豆売りの少女の工夫を聞く

 幸 十三夜、惣次の嫁になることを受け入れる

 

2章 帰り花

 惣次 五鈴屋五代目徳兵衛となることを仲間に報告

 惣次と幸 祝言の日を迎え、母房、妹結と再会

 惣次 江戸を目指すと幸に告げる

 幸 鉄漿(おはぐろ)をする

 

3章 改革

 惣次 年明けから、大節季払いから五節季払いに、手代に割当を、と宣言

 幸 お梅から菊栄の店、紅屋が左前になっているという噂を聞く

 

4章 それぞれの年の瀬

 幸 智蔵に届け物をした際に、本の印刷、頁の隙間について話を聞く

 幸 賢吉が反物を巻く練習をしているのを見かける

 

5章 知恵の糸口 1742年

 惣次 五節季払いと手代への割当を始める 

 惣次 手代を心配する幸に「季節の行事や人生の節目にこだわるな」

 惣次 五節季払いを知らせるため、引き札(チラシ)を検討するが、幸が助言

 幸 治兵衛に撞木杖を届け、惣次の言葉の意味を教えてもらう

 

6章 再会

 惣次 智蔵を店に呼び、五鈴屋の名を本に印刷してもらう方法を聞く

 富久 幸を人形浄瑠璃へ連れていくが気分が悪くなる、菊栄と再会 

 菊栄 新しい鉄漿を入手、世間に広める方法を考えていた

 

7章 鴛鴦

 本の影響で五鈴屋の売り上げが伸びる

 惣次 都鄙問答を修徳先生から借りてきて、幸へ渡す

 惣次 五鈴屋のさらに広める手段、呉服の仕入れの流れを変えることを検討

 

8章 名を広める

 幸 富久に店の名前を広める方法を尋ねる、富久は幸を歌舞伎へ連れて行く

 歌舞伎の中で菊栄の店紅屋の新しい鉄漿が紹介される

 富久 昔五鈴屋が名を広めるために、傘に名を入れたものを作ったことを話す

 幸 惣次に傘の件を話し、惣次はすぐに新しい傘を注文、大評判となる

 

9章 商いと情と 1744年

 幸 20歳、結婚して2年経つが子供はできず

 惣次 丹後縮緬仕入れることを検討 幸 江州で織物を作ることを提案

 末七が米忠から婚礼の注文を取ってくるが、店の経営悪化がわかり惣次は断る

 富久 米忠へ20年前の借りを返すために嫁入り衣装を送ることに

 

10章 吉兆

 惣次 江州へ通い始める

 幸 治兵衛を見舞い、女子の着物の意味を教えてもらう

 惣次 鮒鮨を土産に帰宅 幸は呉服切手を提案し笑われる

 

11章 郷里へ

 幸 11年ぶりに故郷津門村へ賢吉を連れて帰り、文次郎と再会

 

12章 布石

 惣次 江州で絹織を作る手はずが整ったことを店の皆に報告

 

13章 大阪商人 1745年

 幸 治兵衛を見舞い、惣次が銀を持ち出したことを相談、江州の人柄についても聞く

 江州波村の亮介から羽二重が届く

 惣次 山崎屋の預かり手形を持って江州へ

 米忠での祝言があり、女房が店に晴れ着の礼にくる

 

14章 千変万化

 惣次 江州から羽二重12反を持ち帰る

 両替商山崎屋が潰れたと知らせが入り、幸は江州の心配をするが惣次は聞き入れず

 店に江州の仁左衛門たちがやってきて、惣次との取引をやめると言い出す

 幸 羽二重だけでなく縮緬を織ることを提案

 仁左衛門は惣次との取引はしないが、幸が店の主人ならば考えると話す

 

 

 惣次が五代目となり、幸は惣次の嫁となる。惣次は四代目がガタガタにしてしまった店を再建するため、支払い方法の変更、手代の割当制を導入する。さらに店を広くしっtもらうために、宣伝を考え、草子への広告や名入りの傘などを実施。それらは成功し、店は順調に売り上げを伸ばす。惣次はさらに仕入れのルートを変えるため、江州へ通い、新たな織物を独占販売する道筋を作り上げるのだが…

 

 3作目となる本作で、やっと幸が商人としての力を発揮し始める。広告や商品の仕入れルートなどを、現代では当たり前のことだが、この時代では目新しいことをして、店は順調に成長していく。やっと「それ」らしくなってきたかと思いきや、最終章で惣次の商売に対する考え方が原因で、大きな落とし穴にハマってしまう。

 それでも幸が考えていた案が起死回生の一撃となるか、というところで本作は終了。相変わらず、次の作品への期待を込めた終わり方。こんな終わり方をされたら、次を読みたくなってしょうがない(笑

 

 本作もこれまでの本シリーズと同様、短い章をつなげることで1冊となっている。3作目なのでこのスタイルにも慣れてきたが、「みをつくし」シリーズで著者にハマった人間としては、やはり違和感が残っている。その理由を本作を読みながら考えていたのだが、「みをつくし」シリーズにあって、本作にないものに気づいた。「みをつくし」では1冊の中に必ずと言って良いほど、人情話として泣かせる話が入っていた。しかし本シリーズにはそれがない。

 1話1話が短いのがその理由かもしれないが、どうも著者は「みをつくし」のような感動話を本シリーズには持ち込まないつもりなのではと思ってしまう。そう感じるほどに、純粋に商いを通じて成長していく幸や五鈴屋を淡々と描いていっているだけ、と思うのは私だけだろうか。

 それでも先に書いたように、話の展開は面白く次の作品も期待してしまうのは間違いない。この先、読者を感動させる話が待っているのだろうか。