師匠はつらいよ 杉本昌隆

●師匠はつらいよ 杉本昌隆

 今年10月に将棋のタイトルを全巻制覇した藤井八冠の師匠、杉本昌隆八段によるエッセイ集。文藝春秋に掲載された約2年分、100本のエッセイが掲載されている。

 

 将棋に関するエッセイというと、このブログでも取り上げた川口俊彦氏、大崎善生氏や先崎学氏などが有名。一昨年あたりから藤井八冠の活躍でTVなどでもよく見るようになった杉本八段によるエッセイ。1話分が短くサクサクと読め、自虐も含めた著者の文章はなかなか面白い。TVでの会話はあまり見たことがないが、この文章を書く方ならばきっと話も面白く、だからこそTVにも引っ張りだこだったんだろうと納得。

 

 2021年春からスタートし、藤井八冠が2冠であった時から6冠になるまでの時期となる。しかし藤井八冠に関する話題は意外に少なく、棋士として、師匠としての文章が多い。それでも藤井ファン?に対するためか、将棋や棋士に関しての話では丁寧な説明付きで解説しているため、将棋素人でも読みやすいと思われる。一方で将棋専門誌などもたまに読む自分にとっても知らなかったことが多く、第7回の立会人(タイトル戦に関わる棋士)の仕事の説明は勉強になった。正副の立会人がいるのは昔からちょっと不思議だったが、それぞれにキチンとした役割があるのは初めて知った。

 

 2年分のエッセイだが、藤井八冠の活躍でテーマには困らないと書かれているご本人の言葉とは裏腹に2年目に当たる本書後半のエッセイは少し慣れてきた感が感じられるのは仕方なしか。

 それでも第62回の文章の巧みさは見事。「棋士は考えるのが仕事」から「ロダンの考える人」へ。そして「考える人に関する少年時代の思い出」を描き、「考える人が地獄の門の一部だった」と文章は繋がり、最後は「女性による棋士への門」というテーマを描いている。まさに流れるような文章だった。

 

 このブログを書くのにあたりネットで本書について調べたが、著者は本作以外にもたくさんの著作があるようだ。なるほど、やはり藤井八冠による経済効果はスゴいものがある(笑 まだないようだが、いつか藤井八冠が本を書いた日にはそれが読んでみたい。