●あきない世傳 金と銀5 転流篇 高田郁
幸は桔梗屋を買い取り、2軒目の店を持つことに。房が亡くなり妹結を店に引き取る。幸は妊娠するが流産してしまう。幸は新たに鯨帯を売り出すことにし、話題となった歌舞伎に合わせて宣伝、爆発的な売り上げを出す。江戸への出店に向け準備を始めるが…。
以下の12章からなる。
1章 再びの「縁と月日」 1747年
五鈴屋 呉服仲間寄合で桔梗屋を買い取ることを認められる
幸 2つの店の手代入れ替え、安吉と辰吉を手代にすることを決める
幸 治兵衛と墓参りに 桔梗屋の申し出を受け入れるように言われる
2章 鈴と帰郷
幸 桔梗屋の名前を五鈴屋にすること、将来桔梗屋を引き継がせることを宣言
3章 心をひとつに
幸 江州波村へ 蚕が糸吐くところを見学
高島店の手代が2人辞める 七夕の飾り
幸 江戸へ店を出すことを鉄助、周助に話し、売上銀1000貫目が目安と智蔵に話す
4章 結
津門村から房死亡の知らせが届く 幸、妹結を引き取る
結 お竹に針仕事を教えてもらう
5章 瑞兆 1748年
幸 赤ちゃんができる
初午 波村の亮介が馬子役を 夜、亮介が帯のことを話題にする
智蔵 医者柳井に診てもらい積聚と診断される
真澄屋 江戸に店を出す
6章 おはじき
幸 帯のことでお竹に知恵を貸して欲しいと頼む
幸 帯を五鈴屋の売りとしていくことを皆に説明
幸 流産
7章 知恵を形に
五鈴屋 帯と着物の組み合わせについて勉強会を開く
結とお竹 帯売りのために手代たちについて屋敷廻りを始める
幸 智蔵が密かに反物を持ち出していることを知り、人形浄瑠璃に亀三に渡していると気づく
行商をしていた留七、伝七が帰ってくる 二人が所帯を持つと話す
亀三 新しい出し物 忠臣蔵が話題に
8章 黒白
五鈴屋 帯の売り上げが伸びるが、真澄屋が引札で帯の真澄屋と宣伝
幸 高島店に孫六を見舞いに行き、治兵衛と鯨帯のことを聞かされる
幸 鯨帯を鈴の紋様を入れて作ることを皆に話す
9章 潮目
幸 五鈴屋で作る鯨帯を五鈴帯と名付ける
亀三 忠臣蔵が歌舞伎に 五鈴屋の呉服を舞台に使用する話をつける
歌舞伎の初日 五鈴帯の宣伝を小屋の外の橋で宣伝
10章 昌運を得る 1749年
五鈴帯が爆発的に売れる
結 川浪屋から嫁に欲しいとの誘いあり、幸が話すが断る
鉄助と周助 江戸への出店話を幸たちにするが、幸は2年かけると話し、佐七と賢吉を江戸に行かせることを考えていると話す
11章 十五夜
茂作に連れられ、佐七と賢吉が江戸へ
智蔵 祭りの日の夜、幸を連れ出かけ、死んだ赤ちゃんのことを話す
江戸で忠臣蔵が話題に 真澄屋の鯨帯は昔ながらの昼夜帯と呼ばれる
十五夜の夜、智蔵は幸や番頭たちと酒を飲む
12章 東風 1750年
幸 孫六の見舞いに そこで智蔵は医者から体調に気をつけるよう言われる
江戸からの手紙が届き、智蔵は一度大阪に帰ってきてもらうことを提案
幸 木綿を店で扱えない理由を智蔵に教えてもらう
賢吉 江戸から帰り、江戸の呉服商の商売の仕方を話す
智蔵 幸に江戸へ行こうと話す
智蔵 倒れる
シリーズ5作目。前作終わりで桔梗屋を買うと宣言した幸は店を買い取り、名前を五鈴屋に改めるが、いつか桔梗屋の奉公人が独立し店を構える時には桔梗屋を名乗らせる、と語る。前作の富久に続き、幸の母、房が亡くなり妹結を店に引き取り一緒に暮らし始める一方で幸は妊娠。全てが順調に行くと思ったところで、流産。失意の幸だったが、鯨帯を五鈴屋の売りにすることを決意し、売り上げを伸ばす。江戸出店への足がかりも作り、智蔵と幸で江戸へ行こうと話していた矢先に智蔵が倒れてしまう。
前作から幸が実質店を取り仕切るようになり、商売そのものは順調である一方で、私生活で不幸が見舞い、というアップダウンの激しい展開。このシリーズには感動する話が少ない、と毎回のように書いてきたが、本作でその理由がわかったような気がする。
本作での、桔梗屋買取の際の幸の話や五鈴帯の売り出しに歌舞伎を絡めた話など、感動というよりはカタルシスを感じるような展開が多い。
桔梗屋買取の際に孫六が店の名前を五鈴屋に変えるのが当然だと話した後を受けての幸の語り。事前に治兵衛に何も言わずに受け入れろと言われていた通りなのかと思いきや、桔梗屋の奉公人に報いる言葉で彼らの心をガッチリと掴む。
五鈴帯の売り出しも同じ。智蔵が密かに人形浄瑠璃の亀三を応援していたものが実を結び、歌舞伎の衣装に五鈴屋が協力することになり、それが五鈴帯の発売の宣伝に。芝居の中でのセリフでも取り上げられた上に、芝居終わりの小屋の外での宣伝方法が芝居がかっていて見事だった。
江戸のへの出店話も本格的に始動、話はさらに大きく展開して行くと思ったところで本作は終わるが、そこで智蔵が倒れたとの知らせ。著者は相変わらず次回作を読まずにはいられない結末を持ってくるなぁ(笑
妹結も一緒に暮らすことになり、こちらも何かありそうな予感。一方本作の中では3年の月日が流れた。ずっと智蔵と幸の夫婦仲は良いままで四代目や五代目とは異なる幸せぶりが続いたが、とうとう智蔵にも著者の悪魔の手が伸びてしまいそう(笑
次の作品も読まざるを得ないな、こりゃ。