銭形平次捕物控 美人蜘蛛

●683 銭形平次捕物控 美人蜘蛛 1960

 伊能忠敬の日本地図が何者かに盗まれる。その際メタルの割符が2つに分けられる。外国船がやってきている時期であり、お上は地図を取り戻すことに全力を傾ける。

 峠道で掏摸の三太が居眠りをしている旅人から財布を盗む。しかしそれを女目明しである紅小町のお芳が見ており、財布を取り戻す。財布を盗まれたのは喜多八だった。

 箱根の関所に伊勢参りの一行が辿り着く。町人や武士、浪人、絵描きなどの顔ぶれだった。そこへ少し遅れて弥次郎平もやってくる。一行は関所を通ることを許され、宿へ。そこで浪人須永が女に手篭めにしようと騒ぎを起こす。喜多八が須永に斬られそうになるがそれを助けたのが弥次郎平だった。翌朝須永が自害しているのが発見される。お芳が駆けつけ調べを行う。

 一行は沼津の宿へ。弥次郎平や喜多八、三太も一緒だった。弥次郎平は絵描きと話をし彼がメタルの割符を持っているのを見る。その夜、物干し台から絵描きが落ちて死亡する。またお芳が取り調べを行う。続けて人が死んだことから一行はお芳に同行してもらうように依頼、お芳をそれを引き受ける。お芳は死んだ2人が小田原にいたことがあることを突き止め、小田原に調べに戻る。そこで奉行だった秋庭が陥れられ詰め腹を切らされたこと、それに加担した5人がいること、死んだ2人はその5人の中にいたこと、5人の中には小田原から立ち退いていることを突き止める。

 一行は蒲原の宿へ。そこで太鼓持ちが殺される。現場に用心棒殿村の小柄が落ちていたため疑われるが自分ではないと騒ぎ出し逃亡する。お芳は小田原で調べてきたことを一行に話す。一行は旅を続けるが、三太が掏摸をしたところを見つかってしまう。一行の頭である五兵衛は三太を許す代わりに、弥次郎平と喜多八の荷物を盗むように三太に話す。次の宿場町についた一行だったが、そこへ殿村が現れ騒ぎになる。その隙に三太は弥次郎平たちの荷物を盗む。

 弥次郎平と喜多八は新井の関所を通る際、手形がないことに気づき牢へ入れられてしまう。弥次郎平こと平次は一行の中に地図を持っている者がおり、自分たちが足止めを食らっている間に古市の港で売るつもりだろうと推理する。喜多八こと八五郎は慌てるが、嵐がきており一行も足止めを食らうはずだと平次は話す。そして二人は嵐の騒ぎに乗じて牢を脱獄する。その頃一行の宿に曲者が侵入し、武士夫婦が殿村に襲われる。

 その頃お芳は江戸からの文を受け取っていた。そのお芳は拝藤に呼び出され小田原に帰るよう言われるが断る。お芳は5人のうち小田原から立ち退いた2人のうちの1人、坂崎がまだ生きていると話し、それをしたのは拝藤だと明かす。拝藤はお芳を斬ろうとするが、そこへ平次が現れ助ける。斬り合いになっている最中に拝藤は銃で撃たれ死んでしまう。

 一行は伊勢にたどり着く。そこへ殿村が現れる。捕方に囲まれ殿村は捕まる。3人を殺した犯人殿村が捕まり、一行はお芳に礼を言うがお芳はまだ納得していないと話す。平次は武家の妻もよを呼び出し話をする。平次は全ての殺しは秋庭の遺児であるもよの仕業だと考えており、推理を話す。もよは否定するが、夫の銃で撃たれてしまう。

 平次は地図の受け渡しの現場へ割符を持って向かう。現れたのは一行の五兵衛だった。彼こそが坂崎であり地図を奪った犯人だった。平次は一連の殺人事件の手柄を全てお芳に譲り、地図を奪い返すことで江戸へ戻っていった。

 

 長谷川一夫銭形平次シリーズ4本目。今回は伊能忠敬(劇中では名前がちょっと異なるようだが)日本地図が盗まれ、平次と八五郎弥次喜多に扮し、伊勢参りの一行と道中を共にしながら、連続殺人を解決しつつ地図の行方を追う、というもの。

 同シリーズ18本の中の15本目の作品であり、もうお馴染みのシリーズだったからだろうが、ストーリーは結構ブッ飛んでいる(笑 

 なぜお国の大事である盗まれた日本地図を平次が追うのかもわからないが、もっとわからないのが一行の中に地図を持っている犯人がいるのが前提なところ。もう長谷川一夫弥次喜多をやらせたかっただけとしか考えられない。

 ただ道中もの、今でいうロードムービーっぽくなっているのが話を少し面白くしている。一行の中の人間が次々と殺されていく、このシリーズが得意な連続殺人ものになっているのもそうだし、一行の中の人間が様々で、しかも男女の愛情のもつれみたいなものまで描かれる。ただ現代の時代考証がしっかりとした小説や映画を見ている側からすると、町人や武士、浪人から絵描き、太鼓持ちまでが一緒の一行ってどうなの、と思ってしまうけれど(笑

 で話は連続殺人にばかり集中して進んでいき、地図はどうなったのと思うが、やっぱり最後に突然それが明らかにされ、平次が無事取り戻してシャンシャン。

 途中で突然歌が歌われたり(その途中で長谷川一夫が「ダンス」風に踊ったりしている)、セリフの中でカタカナ語(スリル、デートなど)が語られたり、驚いた時の青くなった表情や惚れて赤くなった表情をその色のライトを当てることで描いたり、と相当遊びの部分も入っていて楽しいことは楽しいけれど。そう言えばほぼ毎回変わる八五郎役が本作では三木のり平さん。他の八五郎役とは一味異なり、さすがコメディ色満載の八五郎だった。

 

 そう言えばタイトルの「美人蜘蛛」も可笑しい。結果連続殺人の犯人だった女性が「蜘蛛」と呼ばれているわけでもなく、劇中でその女性が蜘蛛を見て驚くシーンがあっただけ。その女性を中村玉緒さんが演じているが、これまで見た本シリーズではチョイ役だった玉緒さんが、本作では見事に犯人役を射止めている。これまで見た3作品が1958年製作で本作は1960年。たった2年でスターになったのかと思ったが、wikiによれば親戚であった長谷川一夫に頼み込んで女優になったのね、玉緒さん。ということは本作の犯人役も長谷川一夫の引きがあってなれたのかしら。この翌年には賞をとっているようだし、2年後には勝新太郎さんと結婚したようだし。大きく羽ばたく直前の玉緒さんだったようだ。

 本シリーズのTVでの放映は後1本だけらしい。18本目の作品のようで、楽しみに観てみよう。