宗方姉妹

●689 宗方姉妹 1950

 三村節子は病院で京都に住む父が病気で余命1年だと聞かされる。父の住む京都の家に節子の妹満里子も来ていた。そこへパリから帰ってきた田代宏が訪ねてくる。

 節子は満里子と薬師寺を訪ね一緒に弁当を食べるが、父親の症状のことは黙っていた。薬師寺は昔節子が恋人の宏と弁当を食べた場所だった。満里子は節子がまだ宏のことを思っていると考える。

 満里子は奈良で家具屋をしている宏の職場を訪れる。満里子は節子の日記を読んでおり昔節子が宏に惹かれていたことを知っていた。そのことを宏に聞こうとするが、そこへ宏の友人だという真下頼子が訪ねてくる。彼女が未亡人だと知り、満里子は彼女のことを快く思わないようになる。

 節子は父親と話をするが、父親は自分が間も無く死ぬであろうと話し節子を悲しませる。節子は満里子と一緒にバーをやっており、満里子は節子の結婚相手三村の家に同居していた。しかし三村は節子に冷たく接しており、満里子はそれが不満だった。満里子は三村が節子に冷たく接するのは節子の日記を読んだからだと話す。三村は仕事もなく飲み屋で酒を飲む毎日だった。

 節子のバーへ宏がやってくる。宏は東京へ出てきていた。バーは売却されそうになっており、宏は資金での協力を申し出る。満里子は宏の宿へ出向く。そこにかかってきた頼子からの電話に宏は仕事で帰ってしまったと嘘をつく。箱根にいた頼子はそれを聞いて家に帰ることに。

 夜遊びをして帰ってきた満里子を節子は𠮟る。満里子も反論するが、節子は満里子が求める新しいことについて、古くならないものが新しいものだと話をする。納得いかない満里子は父親に相談に行く。父親は自分で考えて良いと思ったことをするんだとアドバイスする。

 満里子は宏に会いに行く。姉と宏のことを思い、彼女は宏に自分と結婚してくれと迫るが、宏は受け付けない。満里子は頼子に会いに行き、あなたのような女は嫌いだと話す。

 三村は節子にバーの資金のことを聞く。正直に答えた節子に三村は、どうして今まで黙っていたかと尋ねやましいことでもあったのかと問う。節子は反論する。そしてバーの資金の件は宏に断りを入れると話す。満里子が宏に節子と会って話をして欲しいと頼む。二人は日比谷公園で会うが、節子は資金提供の件は断り、バーは閉店することに。

 満里子が飲んでいたバーに三村がやってくる。満里子は三村に不満をぶつける。そして節子と離婚しろを話す。二人は飲んでいたグラスをバーの壁に投げつける。

 三村は節子に離婚を持ち出す。節子は反論するが三村は節子を平手打ちする。それを見ていた満里子は驚く。節子は三村と離婚すると真理子に話す。節子は宏に会いに行き。宏は節子に自分のところに来るのが良いと話し節子も頷く。そこへ三村がやってきて仕事が決まったと話し祝杯をあげようと言い出す。しかし宿に準備だけを頼み三村は去ってしまう。三村はいつもの飲み屋で酒を飲みクダを巻いていた。

 節子と満里子は家にいた。そこへ酔った三村が帰って来る。二階に上がった三村は倒れて亡くなってしまう。満里子は節子に宏と一緒になるように勧めるが、節子は三村の最期のことを考えていた。宏と会った節子は三村の死について話し、宏とは一緒にならず別れると話す。

 

 小津安二郎の作品は今年前半に5本観ており、半年ぶりの6本目。これまで観てきた作品が父と子がテーマだったのに対し、本作は男女の純粋な恋愛がテーマなので驚いた。こんな作品もあったのね。

 若い頃に思い合っていた二人がタイミングを逃し別々の人生を歩んでいたがそれが時を経て一緒になるかも、と思わせる恋愛ものの定番の展開だが、結末はそうはならない。物語はそんな展開だが、一番印象に残るのは節子が麻理子に話す「本当に新しいものは古くならないもの」という言葉。小津監督が追い求めた映画のテーマ「父と娘」のことを訴えているのか、それとも戦後5年という時期に作られた映画なので次々と変わって行く時代を皮肉ったものなのか。

 映画は夫婦のあり方と姉妹の考えの違いと描いたものだが、これだけのエピソードでもしっかりとした作品になっているのにやはり驚かされる。

 

 蛇足。宏のことを思っているであろう未亡人、頼子役の高杉早苗さんという女優さん。初めて観たが印象に残る顔立ちをしていたので調べたら、香川照之の祖母にあたる人なのね。ちょっとビックリ。他の俳優さんも皆若く驚いたが、一番驚いたのは飲み屋の女中役の千石規子さん。晩年の姿は昔よく拝見したが、こんな若い時もあったのね、って当たり前だけど(笑

 

 もう一つ。満里子役の高峰秀子上原謙に対し一人芝居を何度か見せる。声色を変え芝居がかった口調で話すのだが、このようなシーンはこの時代の映画にしては珍しいのではないか。本作はあまりコメディ的なシーンはないが、このシーンだけはニヤッとさせられる。