マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ 古内一絵

●マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ 古内一絵

 路地裏にあり見つけにくいマカン・マランはドラァグクイーンであるシャールが営む夜食カフェ。そこに様々な悩みを持つ人間が客として訪れる。

 以下の4編からなる短編集。

 

春のキャセロール

 城之崎塔子は広告代理店に20年務めるキャリアウーマン。しかし会社は早期退職制度を作り希望者を募集し始める。できない上司からの要請を受けつつ仕事をこなす塔子はある日倒れてシャールに助けられマカン・マランへ。その後店に通うようになった塔子だったが、上司の不正が発覚し塔子は昇進することに。しかし塔子は会社を辞める選択をする。

 

金のお米パン

 中学校教師柳田敏は生徒三ツ橋璃久の親から相談を受ける。璃久が親の作る料理を全く食べなくなったということだった。しかし璃久はその理由を一切話さなかった。柳田は同級生だった御厨ことシャールのマカン・マランへ璃久を連れて行く。璃久が得意とする虫の話で盛り上がるが、やはり璃久は出された料理を食べなかった。後日シャールに言われ柳田は再度璃久を店に連れて行く。そこでシャールが出したカレーを璃久が食べ始める。柳田は璃久に食事を食べなかった理由を聞く。

 

世界で一番女王なサラダ

 安武さくらはフリーのライター。大手出版社から依頼された隠れ家レストランの記事を書いており、マカン・マランを取材しようと探すがなかなか見つからない。やっとたどり着いた店もカフェではなく、おかまたちのファッション専門店だった。その後それこそが求めていた店だと聞き、マカン・マランへ取材に行く。しかしシャールに断られてしまう。クライアントと会ったさくらは企画が飛んだことを告げられ、店をまた訪れる。

 

晦日アドベントスープ

 マカン・マランで働くジャダはシャールの人間性に惚れ込んでいた。しかし店に地上げ屋である小峰幸也が訪れ店を買い取ろうとする。じゃだは幸也を追い払うが、彼はしつこく店を訪れることに。ある日店を訪れたジャダはシャールが幸也と話し込んでいるのを見て逆上、幸也と取っ組み合いになる。それを止めようとしたシャールが倒れてしまう。ジャダはシャールから店の権利について話を聞く。借地権しか持たないシャールは店を売ることを決意していた。悲しむジャダだったが、意外な救世主が現れることに。

 

 アマゾンお勧めの一冊。全く知らずに読んだのでシャールの登場シーンでは少し驚いた(笑 食堂、カフェ、レストランが舞台となるシリーズものは数多く読んで来ているが、久しぶりに新しいシリーズを読んだので、1話ごとに主役が変わっていくのはとっつきにくさもあったが、新鮮だった。

 しかしこのそれぞれの話の主役が良い。キャリアウーマン、中学教師、フリーライター。皆が仕事に疲れている。若くても若くなくても今の時代、働くということは疲れることなのだというのがとてもリアルに描かれている。だからこそシャールの料理に癒されるのだ。

 

 少しずついろいろなことが明らかになっていく展開も良い。シャールが健康を考えた料理を作る理由。シャールの過去と病気。店に来る不動産屋を皆が嫌う理由。謎といえば2話目の中学生璃久が人が作った料理を食べない話もミステリじみていてなかなか良かった。久しぶりに震災の話が出て来て、まだまだ忘れてはいけない話なのでと実感する。

 ミステリじみているといえば、最終話のラスト、地上げ屋を撃退するエピソードも良い。さりげなく何度か登場していた老婆が最後に胸のすく活躍を見せてくれる。一方、最終話ではシャールの病気も明かされ一転暗い気持ちにもなるが、ジャダと幸也のやりとりがそれを払拭させてくれる。

 

 なかなか良い話だった。特に希望を持たせるラストが良かったと思ったが、ネットで調べたらこの本は1冊完結ではなく、シリーズ物として続きがあるようだ。なんだ、また新しいシリーズを読んでいかなくちゃいけないじゃないか(笑