麦秋

●690 麦秋 1951

 間宮紀子は父母、兄夫婦とその子供達と一緒に北鎌倉の家でにぎやかに暮らしていた。勤め先では佐竹専務の秘書をしていた。紀子は友人で料亭の娘アヤから友人が結婚すると聞く。

 家に父の兄がやってくる。彼は大和で暮らしていたが、28歳で結婚していない紀子を心配し、弟である父周吉に大和で暮らさないかと誘う。

 紀子はアヤの家で結婚した友人に会う。彼女は夫と喧嘩して家を飛び出してきたが、家からの電話であっさりと帰ってしまう。紀子は偶然店に来ていた上司である佐竹に挨拶に行く。そこで佐竹の知り合いとの縁談を勧められる。

 アヤの母が心臓を診てもらうために紀子の兄で医師の康一に会う。そこで康一はアヤの母から紀子の縁談話を聞く。家に帰った康一は父にそのことを話し相手を調べようと思うと話す。

 紀子は友人の結婚式に出席、その後結婚している友人たちと紀子の北鎌倉の家に集まる計画を立てる。康一は妻に紀子が縁談に乗り気かどうか確認するように話す。家に近所に住む矢部の母親がやってくる、矢部の母親は興信所が紀子のことを聞きに来たことを紀子の母に伝える。矢部の息子謙吉は康一の同僚である医師であり、間宮家の次男省二の同級生だった。しかし一人娘を残し妻を亡くしていた。紀子の友人たちが北鎌倉に来る日がやって来たが、結婚している二人の女性たちは都合が悪くなり来られなくなってしまう。紀子とアヤは二人で愚痴をこぼす。

 紀子が姉のためにショートケーキを買って帰ってくる。姉は高いと驚く。そこへ矢部謙吉がやってきて3人でケーキを食べることに。謙吉は紀子の縁談話を持ち出すが、紀子はとぼける。

 康一が紀子の縁談相手のことを調べて帰ってくる。相手は42歳だと知り、母親は不満を漏らす。それを聞いた康一は母に反論、機嫌が悪くなる。その時康一が買って来たものを自分たちへの土産だと勘違いした子供達が父に不満を漏らし康一は激怒する。子供達は家を飛び出し夜遅くまで帰って来なかった。皆心配し探し始めるが、じきに子供達は見つかる。

 矢部謙吉に秋田への転勤話が持ち上がる。3、4年で戻れるというが謙吉の母は不安だった。紀子は康一の病院に寄った帰りに矢部でお茶をする。そこは謙吉が亡くなった省二と一緒に来たことがある店だった。二人は省二の想い出話をする。

 矢部の家に紀子がお使い物を届けにくる。謙吉の母は紀子に謙吉のお嫁になってくれるのを夢見ていたと話す。紀子は自分でよければと答えそれを聞いた謙吉の母は喜ぶ。家に帰った紀子は兄にその話をする。その場に父母も呼ばれ皆は紀子が突然結婚すると言い出したことを責めるが、紀子は大丈夫だと答える。

 紀子はアヤに結婚することを伝える。突然話を決めた紀子を不思議がるアヤは紀子に結婚を決めた理由を尋ねる。紀子は姉と海岸へ行き、今後の話をする。

 紀子は結婚をし秋田へ行くことに。間宮家は家族の集合写真を撮る。そして父母は大和へ行くことに。家族がバラバラになることになり紀子は泣く。

 大和の兄の家で暮らし始めた父母は紀子のことを思う。

 

 「宗方姉妹」に続いて小津作品鑑賞。「宗方姉妹」の翌年、戦後6年目に製作されている。笠智衆さんが若い役どころで出演しているのが珍しい(笑

 本作は紀子が主人公。にぎやかな3世代同居の家に暮らし、専務秘書という仕事についている。共にまだ結婚をしていない友人アヤと仲が良いが、既に結婚した友人たちもおり、家族からはそろそろ結婚をしなければと思われている。専務から縁談を勧められ話が進んでいくが、ある時突然結婚を決めてしまうという話。

 ということで紀子の結婚がテーマか。物語後半、突然紀子が結婚を決意するが、それまでに描かれていたその結婚相手との会話や相手の置かれている状況があまりに自然に描かれているので、結婚を決める紀子にちょっと驚いた。

 「宗方姉妹」での「本当に新しいものは古くならないもの」という言葉が印象に残ったように、本作では紀子が結婚を決めた後、友人アヤに話す結婚相手がすぐそばにいたということに気づいたという話が印象に残る。何かを探していた時に気づけばそれが目の前にあった、という例え話。結婚とは意外にそんなものかもしれない。

 

 意外だったのは、紀子の結婚に対する母親の反応。縁談相手が一回り以上年上の男性だと知った時の母親の気持ち。さらに紀子が自分で結婚相手を決めた時の母親の反応。一回り以上年上の相手だと知った時の反応は現在でも共感できるが、結婚相手を相談もなく決めてしまったことに愚痴をこぼす反応は現在では非難されるのでは。時代の違いといえばそれまでだが、これが戦後6年の当たり前だったのだろう。

 

 「宗方姉妹」とは異なり、家族に小さな子供たちがいることで笑いも多い。少しボケが来始めている祖父の兄をからかう兄弟、父に反抗する態度を見せる弟など。しかしこの小さな兄弟が遅くまで帰らなかったことが、紀子の結婚に結びついていくのだから、さすがの展開と言える。

 この子供達のシーンも含め、現在の視点から見ると本作は昭和26年の暮らしぶりがそのまま描かれていて興味深い。未婚の妹が兄夫婦と同居していたり、ショートケーキが高額だと驚いてみたり。近所同士の付き合いもそうだし、家の中での暮らしぶりがリアルだった。山田洋次監督が男はつらいよで昭和の風景を残そうとしたのは、小津監督の影響があったんだろうなぁ。

 

 先日NHK小津安二郎生誕120周年の特別番組を放送していたが、その中で本作が取り上げられていた。番組によれば本作は亡くなった戦友を偲んで描いたシーンがいくつかあるとのことだった。この番組を見ていたのでそのシーンの意味を理解できたが、当時の観客たちはわからなかっただろうと思う。

 

 本作には珍しくカメラが移動して撮影されるシーンもいくつかあった。ラストシーンについては上述した番組で説明されていたが、それ以外にもあった2、3のシーンは何の意味があったのか。小津作品はいろいろな仕掛けがあり様々な楽しみ方をさせてくれる。