かもめ食堂

●691 かもめ食堂 2006

 サチエはフィンランドヘルシンキかもめ食堂という店を開いていたが、開店から1ヶ月、客は一人も来なかった。その店に日本オタクの青年トンミがやってくる。彼の来ているTシャツに描かれたアニメキャラを知っていたサチエにトンミはガッチャマンの歌の歌詞を知っているかと尋ねる。サチエは思い出そうとするが、うろ覚えで歌詞が出てこなかった。

 サチエは本屋カフェで日本人を見かけガッチャマンの歌の歌詞を知っているかと声をかける。彼女はミドリといい歌詞をサチエの前でスラスラと書いて見せる。サチエはミドリがヘルシンキにいる理由を聞く。目的のない旅先としてここを選んだと聞いたサチエはミドリを家に招き食事をご馳走する。

 ご馳走になったお礼にとミドリは食堂を手伝い始める。サチエが一人で店にいるときに男性客がやってくる。コーヒーを飲んだ彼はサチエに美味いコーヒーの淹れ方を教える。サチエは店に戻って来たミドリにその淹れ方でコーヒーを入れる。そしてシナモンロールを焼くとその香りに誘われ客が店に入ってくる。これをきっかけにして店には少しではあるが客が入るようになる。

 店にマサコがやってくる。彼女は飛行機で自分の荷物が行方不明になり困っていた。サチエやミドリは彼女に同情する。しかしマサコの荷物は見つからずその間彼女は店にやってくるようになる。

 食堂の窓の外から見つめる外国人女性が頻繁に現れる。ある日とうとう彼女リーサが店に入って来て酒を頼む。リーサは自分が飲んだ後酒をサチエやミドリに進めるが二人とも断る。偶然その場にいたマサコが彼女の酒を飲み、返杯するとリーサはその酒を飲んで倒れてしまう。店にいた皆でリーサを家まで運ぶ。そこでリーサは夫が家から出て行ってしまったことを告白する。その後リーサは店にやってくるようになる。そして日本に人を呪う魔術はあるのかと尋ねる。サチエは藁人形のことを話す。

 マサコもいつのまにか店を手伝うようになっていた。ある日3人とリーサで観光に出かける。サウナも楽しんだ4人が店に戻ると泥棒が入った形跡があった。店に入るとそこにはコーヒーの淹れ方を教えてくれた男性がいた。彼は店の前の持ち主であり、忘れ物だったコーヒーメーカーを取り戻しに来ていたのだった。サチエは彼におにぎりを作って食べさせる。ミドリやマサコ、リーサも一緒におにぎりを食べる。

 マサコの荷物が見つかったと連絡が入る。マサコは店に行き日本に戻ると話すが、荷物を受け取って中身を確認すると見覚えのないキノコがいっぱい入っていた。その件を再度連絡している時にマサコは見知らぬ男性から猫を預けられる。マサコは店に戻り、猫を預かってしまったのでもうしばらく滞在すると話し、店をまた手伝って良いかと尋ねる。サチエは了承する。

 かもめ食堂には多くの客が入るようになり、とうとう満席となる。サチエは初めて店が満席になったことを喜ぶ。店で働くサチエ、ミドリ、マサコはおしゃべりをしながら、今日も客を迎え入れるのだった。

 

 

 公開当時から話題となっていた作品だが、今回が初見。のちにCMにもなったこの食堂は独特の雰囲気があった。

 

 小林聡美もたいまさこといえば、当然「猫」。室井滋さんがいないのがただただ残念である(笑 「猫」もそうだったが、この女優さんたちは日常生活を平凡に見せる芝居が非常に上手い。本作もその通りの映画になっている。室井さんの代わり?にいる片桐はいりさんも見事。最近NHKの夜ドラ「ミワさんなりすます」で、原作にはない家政婦役を演じているのを見たばかり。原作にない設定役だったので原作を読んでいた側からすると、また原作を不必要にイヂって、と思っていたが、なかなか味のある脇役となっていた。

 

 物語はヘルシンキという日本人にあまりなじみのない土地で食堂を開いた女性が主人公。そこへ偶然出会うことになった日本人女性2人が加わり食堂を手伝うことになる。なかなか客が訪れない店だったが、日本オタクの青年やコーヒー好きの男性、店内を見つめる謎の女性客などが絡んで来て、最終的には店は満席となるほど繁盛して映画は終わる。

 一見日本人が外国で開いた食堂の成功物語であり、主人公を含む平凡な日常生活を描いた「猫」のような物語に見えるが、仕掛けも様々されているようにも見える。「自分で作ったものより誰かに作ってもらったものの方が美味しい」というセリフが2回出て来たり、最初の客となった地元青年の着ていたTシャツに描かれていたのは猫キャラで最後マサコが帰国を取りやめる理由になったのも猫を預かったからと猫も重要な役割をしていたり。

 そもそも主人公サチエがヘルシンキで食堂を開いた理由も、サチエがミドリを家に誘った理由も実は明らかにされていない(サチエは理由を話すが、それが嘘であることをすぐにバラしている)。これらの理由を理屈で考えるのも楽しいし、そのまま直感的に受け入れるのもまた楽しい。

 

 非常に不思議な映画だった。女優さんたちの持つ雰囲気がそうさせたのもあるのだろうが、原作もきっと同じような雰囲気を持つ作品なのだろう。そういえば原作の群ようこさん、名前は知っているがその作品は読んだことがない。今度読んでみよう。