銭形平次捕物控 人肌蜘蛛

●705 銭形平次捕物控 人肌蜘蛛 1956

 嵐の中、海の中を男2人が泳いで逃げる。それを日を持った追っ手たちが探している。男の一人が撃たれて死んでしまう。

 翌朝川で土左衛門が発見され三ノ輪の親分が調べる。その死体には蜘蛛の刺青があり、東海道の三島宿の錦絵を持っているのが見つかる。

 焼き物の行商人新次郎は茶屋で休んでいる時に川べりにいる女性を見かけ声をかける。女性は上総屋のお絹、しかしお絹は何者かから逃げている様子で、新次郎に一緒に逃げて欲しいと頼む。

 江戸の町は祭りで賑わっていた。一方米不足は深刻な状況だった。

 平次は笹野から、平次が以前捕まえた松五郎と新吉が島抜けをしたこと、平次は2人の黒幕まで追い詰めようとしたが北町奉行の指図で捜査が打ち切りになったこと、2人と関わりがあった医師宝井草庵が土左衛門として上がったこと、を告げられる。さらに三ノ輪の親分が草庵にも新吉にも背中に蜘蛛の刺青があることから、新吉を草庵殺しの下手人だと考えていることを告げられる。2人の事件に関わりがあったのは、尾張屋、伊勢屋などだった。

 新吉は恋人である芸者染吉に会いにくる。

 上総屋、尾張屋、伊勢屋、板倉屋の旦那たちは集まり、新吉が島抜けしたことで相談していた。島抜けをした2人は以前あった大火事に関係していた。彼らは2人に罪を被らせる代わりに、2人の身内の面倒を見る約束をしていたが、その約束を反故にしており、それを知った新吉が島抜けをして大店の旦那たちに復讐をしようとしていたのだった。新吉は染吉が止めるのも聞かず、一人で飛び出して行ってしまう。

 その頃尾張屋が伊勢屋が殺されたと言って戻ってくる。二人は一緒に帰る途中だった。伊勢屋も錦絵を持っており、背中には蜘蛛の刺青があった。

 平次は笹野とともに南町奉行に会っていた。今度こそ事件の真相を突き止めたいと願うが、奉行の月番代わりまで1日しかなく、以前の北町奉行の調べに異を唱えることは平次や笹野の首が飛ぶかもしれなかった。それでも平次は1日で真相を突き止めると宣言する。 

 新次郎はお絹を連れて宿を探すが、祭りのためどの宿もいっぱいだった。やっと見つけた柊屋で女中部屋を借りることができ、新次郎はお絹をそこへ泊め自分は取引先の尾張屋へ泊めてもらうことに。その後新次郎は尾張屋に商売の話をしに行った。

 翌朝柊屋へお絹を迎えに行くが、宿の人間たちは新次郎のこともお絹のことも全く知らないと言い出す。それを偶然知った平次は新次郎とともに尾張屋へ。しかし尾張屋でも新次郎を昨夜泊めたことは認めなかった。平次は上総屋のお絹のことを八五郎に調べさせるが、上総屋はお絹という女中はいないと言ったとのことだった。さらに上総屋の仙台の娘が死んだという話を聞いた平次はその葬儀屋へ向かう。

 葬儀屋に変装した平次や新次郎は棺桶の中に生きているお絹がいることを発見する。その頃上総屋と板倉屋は相談をしていた。板倉屋は一味から抜けたいと話す。彼らは材木奉行だった松下下記と手を組んで火事で大儲けをしたが、松下が御蔵奉行となったため、今度は米の買い占めで儲けようとしていた。松下の義兄は北町奉行であり、前回の大火事の際は、その北町が月当番の奉行をしていたため、罪を逃れていた。一味は同じ罪を犯したことをバラさないように揃いの蜘蛛の刺青を背中に入れていた。

 平次たちの変装がばれ、大麻を飲まされ気絶させられてしまう。祭りが始まり町は賑わう。地下に捕らえられていた平次と新次郎は意識を取り戻す。そこへ上総屋の女中がやってくる。彼女はお絹が新次郎に惚れたため、外出を禁じられていたお絹を外へ出してあげたが、新次郎が上総屋の娘だと知ったお絹を殺したのだと勘違いしていた。

 平次たちは女中に助けられ、葬儀が行われている寺へ。棺桶の中を確かめるとそこには板倉屋が入れられていた。その場から逃げた上総屋を平次たちは追う。上総屋の寮に行った平次たち。そこで金を持って逃げようとしていた上総屋を見つける。上総屋はお絹の後をつけ、宿屋に泊まったことをなかったことにしてお絹を連れ返したが、彼女が新次郎に惚れていたので、大麻を飲ませて気絶させた。そしてことがバレそうになり、板倉屋とお絹を入れ替えたのだった。追い詰められた上総屋は短銃を取り出し平次を殺そうとしたが、意識を取り戻したお絹の銃に撃たれてしまう。

  祭りが終盤となる。祭りの行列の先頭を歩いていた尾張屋に新吉が襲いかかるがそれを平次が止める。平次は新吉と話をし、彼の弟がいることを確かめると、弟だと言って新次郎を引き合わせる。

 店に戻った尾張屋は蔵の警備を万全にするように命じる。そこへ女目明しのお品が探りにやってくる。尾張屋はお品を捕まえる。宴会をしていた尾張屋は料亭藤沢にいた松下に会いに行く。二人とも錦絵で呼び出されていた。そこへ平次が現れ、米の買い占めを辞めるように言い、二人の悪事を明かす。二人は平次を殺そうとするが、平次は反撃し二人を倒す。

 そして町方は尾張屋の蔵へ。そこには買い占められた米が山積みにされており、お品も捕まっていた。平次の活躍で米が庶民に解放されることになり皆は大喜びする。

 助けられたお品は岡っ引きからなぜ命をかけて平次の仕事を手伝ったのかと問われ、自分は家業の上の女房役だと答える。お品は父が死んで家業を注ぐ時、平次の女房になることを諦めたのだと。

 新次郎はお絹とともに平次に挨拶に。新吉も罪を認め務めに。町の衆がきて平次にお礼がしたいと話し、平次は祭りの太鼓を打ち鳴らす。

 

 間が空いてしまったが、またもBS12で「銭形平次捕物控」シリーズが放送されていたので6本目を観賞。

 以前平次が捕らえた新吉たちが島抜けをし復讐のために江戸へ戻ってきた事件と焼物師が遭遇した不思議なお絹消失事件の二つが並行して描かれる。新吉たちはある事件の身代わりだったが、その事件の黒幕を追い詰めることができずにいた平次が今度こそはと奮闘する。期限はあと1日、というタイムリミットがあるのが見どころか。

 しかし本作の見せ場はもう一つのお絹消失事件の方だろう。無理を言って宿に泊めてもらったお絹が翌朝にはおらず、泊まったこともなかったことにされる。部屋に泊まる際に突発的に破ってしまった障子も元どおりになっており、キチンと書いたはずの宿帳の記載もなくなっていた、という不思議な事件。ヒッチコックの初期の作品にも同様な話があったと思うが、観客は二人が宿にいたことを見せられているので、余計に驚かされることになる。

 

 二つの事件ともなかなか面白かったが、腑に落ちない点もいくつか。

 一つめの事件で、以前は大火事で儲け、今度は米の買い占めで儲けを企んだ大旦那衆がお互いの罪を守るために入れた背中の刺青と罪を被ることになった新吉の背中の刺青が同じだったのはなぜなのか。深読みをすれば、罪をかぶらせた新吉の背中にあった刺青を悪事を働いた旦那衆が同じ刺青を入れた、と考えられなくもないが、新吉の身内の面倒を見るのを辞めた連中がそこまでするとも思えない。観客をミスリードするためだけのもののようにしか見えないのが残念だった。

 お絹消失事件の方はよくできたストーリーだと思うが、説明が足りない気もする。結局、先代の娘を後見人である今の上総屋が新次郎のせいにして殺そうとした、ということなのだろうが、棺桶の中身を入れ替えてしまって、その後はどうするつもりだったのか。

 最後にもう一つ、よくわからなかった点。ラスト近く、祭りの行列の先頭を歩いていた尾張屋が新吉に襲われるのだが、平次に止められる。その後、別の人間が尾張屋に襲いかかるのだが、あれは誰だったのだろう。しかもその男の背中にも蜘蛛の刺青があった。そのことから旦那衆の仲間だと思われるが、その説明が一切なかった。俳優さんが昔の人ばかりなので、その顔がよくわからないが、どこかで登場していた人なのだろうか。うーん、よくわからん。

 

 他にも突然現れた感のある、女目明しお品。あっさりと尾張屋に捕まり、最後は助けてもらうのだが、これもラストのセリフ〜私は銭形平次の女房だから〜を言わせるためだけのものだったように見えてしまう。この後のシリーズにもお品は登場するので、その顔見せだったのかしら。それとも序盤にお品とお静、平次が顔をあわせるのを止めようとする八五郎の姿もあったから、お品の存在は銭形平次シリーズでは当たり前だったのかなぁ。TVの大川橋蔵シリーズではこんな女目明しはいなかったように思うけど。

 

 八五郎が朝飯をいつまでも食べられないというコメディシーンはいかにも昔の映画っぽい。あぁこの八五郎さん、堺正章さんのお父さんなのね。

 

 上記した以外で、祭りのシーンは目を見張るものがある。1956年というとまだTVが普及しておらず、映画の全盛期だったのだろうが、祭りのシーンの画面の豪華さやエキストラの数の多さは 驚かされる。長谷川一夫の人気シリーズということで相当な力の入れようと言ったところか。

 

 BS12でまだ放送は続くらしい。未見の作品は観ておこうと思う。