さよならの夜食カフェ マカン・マランおしまい 古内一絵

●さよならの夜食カフェ マカン・マランおしまい 古内一絵

 路地裏にあり見つけにくいマカン・マランはドラァグクイーンであるシャールが営む夜食カフェ。そこに様々な悩みを持つ人間が客として訪れる。

 以下の4編からなる短編集。

 

さくらんぼティラミスのエール

 秋元希美は亡くなった母が憧れていた名門女子高校へ入る。学費は高かったが、父は入学を喜んでくれた。しかしバレンタインデーを境に友人たちの態度が冷たくなったと感じていた。ある日友人の一人和葉が自分を除く皆でグループラインを作っていることに気づいてしまう。さらに彼女は友人たちと出かける約束をするが、その待ち合わせ場所で友人たちが自分の悪口を言っているのを聞き嘆く。希美は一人家に帰ろうとするが、いつも通うビーズ屋で見かける男性を目撃、彼について行き、マランマカンへ。そして比佐子とともにジャダからビーズ作りを習うことになる。


幻惑のキャロットケーキ

 料亭ASHIZAWAをオープンさせた芦沢庸介はTVにも出演するようになり忙しさを極めていた。そんなある夜、SNSに書かれたメッセージに本音での反論をする。その後TV番組で店が紹介されたテープが元となり、庸介の店は非難され、SNSでの反論もありさらに炎上してしまう。店の信用を失い絶望した庸介は省吾が勤める料亭へ出向き彼に会う。そして省吾の誘いでマランマカンを訪れることに。


追憶のたまごスープ

 かつて中園燿子が暮らしていたタワーマンションで暮らす平川更紗は相変わらず同じマンションに暮らす相沢圭伊子たちと行動をともにしていた。ある時更紗は自分が妊娠したことに気づく。しかしその頃夫は浮気で家を空けることが多くなって来ていた。更紗は妊娠したことを夫に告げるが、夫は離婚歴がありもう子供はいらないと告げる。相談する相手のいない更紗は中学時代の友人、伸世に会いに行く。しかし本音を話せなかった更紗は伸世と別れた後、街中で燿子の離婚式に現れた男性を目撃、彼の後を追いマランマカンへ。

 

旅立ちのガレット・デ・ロワ

 年末シャールは仕事納めの28日に店じまいをすることにし、常連客を招待する。多くの常連客と時間を過ごしたシャールは店じまいがお開きになり、皆が帰る際柳田に大晦日に店に来るように話す。大晦日、店にやって来た柳田の他にもう一人の客がくる。それは柳田の以前の生徒であり、性同一性障害のエリックこと雪村襟香だった。学生だった雪村の水泳大会の日、柳田は雪村のため掟破りの行動に出たのだった。その頃シャールもネットで幸村の相談に乗っていた。エリックは性転換手術の同意書を両親からもらうためにアメリカから一時帰国していたのだった。シャールはエリックを見送り、これまでマランマカンに来た客たちのことを思い出す。

 

 シリーズ第4作にして完結編。それにふさわしい作品となっていると思う。

 1話目は、無理して亡くなった母親の後追いのような生活を送っている女子高生希美がゲストキャラ。その希美が友人と思っていた仲間に悪口を言われているのに気づく話だが、希美自身が発した言葉が友人たちを傷つけており、よくあるイジメがテーマの話とはちょっと異なる。シャールにより、亡くなった母親の後追いをするのではなく、自分の生きる道を探し当てるというのが救いになっている。

 2話目、3話目は前作で登場したゲストキャラの脇にいたキャラが主役となっているというひねりのある話。2話目は前作省吾の話で登場したスター料理人がSNSがきっかけでどん底を味わう。3話目は前作燿子の話で登場したトロフィーワイフに収まっていたはずの若い妻が、夫の浮気もありつつ、妊娠した自分の子供をいらないと言われてしまう。脇役でゲストキャラを引き立てるためだけにいたような存在が、シャールの言葉で救われていく展開は見事だった。

 最終4話目は、まさに完結編らしく、これまでのゲストキャラたちのその後が明かされる展開に。それぞれの生活で悩んでいた彼ら彼女らが、新しい人生を歩んでいるのがわかる。そして柳田とシャールがおそらく一番最初に関わったエリックこと雪村が登場、マカン・マランの存在理由のようなものが明らかになる。

 

 2話目3話目の展開はこのようなシリーズではある意味掟破りのようなもの。これをやってしまうとこの先いくらでも同じような話を作れてしまうので。でも完結編だからこそ著者はこんな展開を持って来たのだろうと思う。

 第1作目は少しとっつきにくいシリーズだったが、作品が進むにつれ面白くなって来た珍しいシリーズだった。同じ著者の別の作品もちょっと読んでみようか。