銭形平次捕物控 女狐屋敷

●709 銭形平次捕物控 女狐屋敷 1957

 海で祭りが行われ観客は船に乗ってそれを楽しんでいた。八五郎は知り合いのお半が船に乗っているのを見て喜ぶが、その船がひっくり返ってしまい、八五郎はおはんを助けるために海へ飛び込む。しかし八五郎は泳げずお半に助けてもらう始末だった。

 藤間勘美津の社中大さらいが行われる。美濃屋の娘もそれで出ていた。その裏で美濃屋は天心教の赤座と話をしていた。天心教教祖がご託宣をしており、祭りでの水難を予言していた。さらにご託宣では剣難の相が出ているとのことだった。

 舞台では芸者染次が師匠勘美津と一緒に踊りを披露する。しかし踊りに使われていた鎌が本物だったため、染次は死んでしまう。

 同じ頃豆腐屋六兵衛は持病で苦しみ始める。しかし天心のお水を飲めば不思議と治るのだった。妻おさつは水をもらいに行き、娘おみよは六兵衛を見守る。

 その頃三ノ輪の親分が染次殺しの現場を調べ勘美津を殺しの下手人としてえ捕まえようとしていた。女目明しのお品も現場へやってきて、当日楽屋に出入りした人間としておさつとおみよがいたことを聞き出す。六兵衛はおさつが貰ってきた天心の水を飲み、回復する。

 天心教本部。六兵衛は赤座に対し、お水を飲めば症状は良くなるが、一向に病気が治る気配はない、お布施として出した金を返して欲しいと訴える。しかしお布施を返してもらえないと知り六兵衛は怒って帰っていってしまう。一方教祖はご託宣として、染次殺しは君香の仕業だと話す。

 六兵衛が川で死体となり発見される。お品と卵之吉は死体を調べ、心と書かれたの鏡を発見する。その頃、君香が毒を飲んで自殺する。しかしそれはご託宣通りだと皆は信じ驚かなかった。お品と卵之吉は夜道で男たちに襲われ、六兵衛が持っていた鏡を寄こすように言われる。争いになるが、そこへ平次が現れ男たちを一蹴する。

 美濃屋の主人が具合が悪くなり店に帰るなり床につく。勘美津は君香が犯人だとされたため釈放され、事情を聞く。しかし勘美津は君香が犯人だという話に疑問を持つ。六兵衛の葬式が天心の大宮司お滝により行われる。おさつは感謝するが、娘おみよは天心が父親を殺したと考えていた。

 平次は八五郎と将棋を指していた。そこへ美濃屋の娘がやってきて、父親が天心教教祖に二十六夜の月の日に龍に噛まれて死ぬというご託宣を受けて弱っていると話す。美濃屋は商売が上手くいかず奉公人も返した時、教祖がやってきて材木を買い占めるように話しその後江戸に大火事があり美濃屋はそれで息を吹き返したため、美濃屋は天心教のために屋敷も建てた間柄だとも話す。しかし平次は何も言わずに美濃屋の娘を帰してしまう。そこへお品がやってきたため、平次は頼み事をする。

 平次は天心教のことを調べたいと笹野に話す。笹野は采配違いもあるが、大奥のお蓮の方が天心教を信仰していると話す。天心教の屋敷では教祖がお蓮の方と酒を酌み交わしているのをお滝が盗み見ていた。お滝は教祖に惚れており嫉妬するが、それを聞いた赤座はお滝を戒める。

 勘美津がお参りをしていると平次がやってくる。そして染次殺しについて話を聞こうとすると男たちが二人を襲う。平次は戦いなんとかその場から逃げる。

 その頃天心教の屋敷へ八五郎へ信者のふりをして潜入していた。八五郎は倒れそうな老人が屋敷の奥へ行き、帰りには元気になっている姿を目撃する。男たちから逃げた平次と勘美津は船に乗り話をする。勘美津は対馬国武家の娘だったが、父親が目をかけた浪人に殺されたため仇討ちのため江戸にきている、相手はご法度である芥子で薬を作っておりそれを咎めた父親を殺し殺し逐電した、浪人の名は赤間新兵衛という。

 ご託宣の二十六夜がやってくる。平次は美濃屋の屋敷の守りを固めその時を待っていた。しかし美濃屋は女中おもとが薬を入れた水を飲んでしまい、時が来て叫んで龍の絵が描かれた屏風に突っ込んで死んでしまう。平次は女中のおもとを捕まえる。

 その頃天心教の屋敷では赤座が蓮華往生の儀式を行なっていた。選ばれた老人が蓮華の中に入ると下から槍で刺されて死んでしまう、という儀式だった。

 平次は笹野に会いに行くが、天心教が大奥へ参内することが決まり、それを止めに笹野が行っていて留守だった。平次は家へ戻り、お静に簪を渡し出かけて行く。お静は平次の覚悟を感じて取っていた。

 天心教の屋敷にお蓮の方がきて教祖と一緒だった。それを見たお滝はまたも嘆く。それを聞いた赤座はお滝を刺し殺す。平次はご託宣をもらいたいと赤座に会う。そして一連の事件の犯人が天心教だと話し、その動機も語る。しかし巫女に化けていたお品が囚われており、平次は十手を捨てさせられ捕まってしまう。

 その頃笹野が屋敷に戻り、平次からの手紙を受け取理、事件の真相を知る。

 平次は蓮華往生の儀式をさせられる。しかし開いた蓮華から平次は無事な姿を見せる。囚われていた八五郎やお半、お品に卵之吉も含め大乱闘となる。勘美津は父の仇である赤座を倒し、教祖も自害する。そして笹野が町方を連れて天心教の屋敷に踏み込んでくる。

 事件が終わり皆で海岸で地引網を楽しんでいた。そこへ八五郎が笹野からの手紙を持ってくる。そこにはゆっくり静養しろと書いてあった。

 

 BS12で放送された「銭形平次捕物控」シリーズをこれで全て観たことになる8作目。20本近く製作されたシリーズの中盤の作品。

 本作は、ニセ宗教が敵となる、現代にも通じそうな話。御宣託(予言)が当たることをウリにしつつ、病気持ちの信者に麻薬の入った水を飲ませて一時的に症状を軽くすることで信頼を得ていく、ニセ宗教天心教。御宣託の中には、人殺しの犯人も含まれており、それも一味の手の者が工作をして…という怖い話。

 

 ネットのレビューで、「豪華な女優陣」と書かれており、確かに大勢の女優が登場する。踊りの師匠、殺される共演者、父を宗教に殺される娘、教祖の元で働く宮司、教祖に惚れ込んでしまう大奥の女性。女目明し。しかし昔の女優さんのため、いまひとつピンとこない方ばかり。

 そのため、冒頭から出てくる多くの女優さんの区別がつかず、話の展開がよくわからなかった(笑

 

 一連の事件のおさらいのためにメモ。

 踊りの師匠と共演していた芸者が、小道具の鎌が本物だったため殺される。鎌をすり替えたのは、殺された芸者が好き合っていた若旦那に嫉妬した女性、というのが犯人の筋書き。〜すり替えたのは教祖の手下の女中おもと。

 その踊りの場にもいた豆腐屋の娘の父親が宗教を信じていたが、症状は軽くなるものの病気が治る気配がないため、お布施を取り戻そうとして殺される。〜症状が軽くなるのは、麻薬入りの水を飲んだためで、病気を治療しているわけではない。

 美濃屋の主人は御宣託で死を予言され、その娘が平次に相談。平次は美濃屋の警護に当たるが予言通りに主人が死んでしまう。〜これも教祖の手下の女中おもとが毒薬を主人に飲ませたため。

 

 笑ったのは、蓮華往生の儀式。この儀式だが、信者の老人が大蓮華の中に入るが、下から槍で刺されて死んでしまうというもの。なんだそりゃ?と思うが、一応「往生の儀式」なので死んでしまっても仕方ないというものなのか(笑 さらに可笑しいのは、お品が人質にされたため捕まった平次をこの蓮華往生の儀式で殺そうとする一味。いやいや、普通に殺せば良いでしょうよ。まぁここがこの映画の見せどころなのだろうけど。

 しかし儀式をクリアした平次だが、その直前に捕まった際に十手を捨てているため、乱闘となってもある武器は銭のみ。武術らしい技で悪党どもを投げ飛ばし、トドメは銭を投げるのだが、迫力不足は否めない。

 

 このシリーズの定番として、平次が上役笹野の前で、悪人を捕らえるためには身を捨ててでも、というシーンがあるが、本作ではそれだけでは足りないと考えたのか、平次が敵の本拠に乗り込む前に、妻であるお静に簪を買って帰り、それを渡して家を出ていくというシーンがある。平次がお静にプレゼントをするというのが珍しいため、お静は平次の覚悟をそれで感じ取り涙する、というシーンへつながるのだが、本作だけここまで覚悟を決めて臨む平次、というのに観客は違和感がなかったのだろうか。まだまだ浪花節の世界が当たり前の世の中だったのかしら。

 

 一番驚いたのは、終盤の大乱闘シーンでの一コマ。先に書いたように平次が一人大奮闘するシーンが続くのだが、ある場面で平次が悪漢たちに圧倒されてしまう。と思ったらそこへ平次が助けに入る。えっ?だったら先に襲われていたのは誰?と思うのだが、それは女目明しお品の子分、卵之吉だったとすぐに気づく。あぁそうだったのね、と思ったのだが、観終わった後に調べたら、この卵之吉役の林成年さん、長谷川一夫さんの実の息子さんなのね。道理でよく似た二枚目の役者さんな訳だ。

 

 前にも書いたが、TVがまだ普及する前の昭和30年代の映画。御都合主義のストーリーや無理のある立ち回りなど多いが、このような映画が大衆娯楽作品だったのだろう。