あきない世傳 金と銀11 風待ち篇 高田郁

●あきない世傳 金と銀11 風待ち篇 高田郁

 江戸本店8周年の日にお梅と梅松の結婚式が行われる。年が明け江戸が大火事に見舞われる。幸は寄合で仲間に型染めの技術を教え、火の用心の柄を売り出すことに。一方、音羽屋の陰謀で綿が買い占められたり、歌舞伎が流れたりするが、富五郎の協力で簪は売れ始める。五鈴屋に砥川がやって来て、力士の浴衣を発注、寄合仲間と協力し一斉に力士の名前が入った浴衣を売り出す。そして寄合仲間が呉服太物としてお上へ申請をすることに。

 

 以下の12章からなる。

 

1章 咲くやこの花 1759年

 五鈴屋江戸本店8周年を迎える

 来年宝暦十年辰の年に災いが起こるという噂で、正月の寿ぎを盛大に

 8周年の日にお梅と梅松の結婚式が開かれる

2章 十年の辰年 1760年

 五年前に店に来た下野国呉服問屋の商人が、綿栽培が盛んになったと知らせにくる

 菊栄 売りに出す簪が完成、4本を持ち帰る

 2月 江戸大火事に 噂が本当になる

3章 日向雨

 火事で歌舞伎小屋、日本橋音羽屋が全焼

 幸 井筒屋〜惣次に会いに 音羽屋証文が焼ける、結は無事だと聞く

 幸 五鈴屋の商品が品薄の町で倍の値段で売られていることを聞き確認に出向く

 幸 結と再会、しかし結は幸に怒りの表情を見せる

4章 英断

 菊栄 簪職人たちに火事で失った分の代金も支払うと約束

 幸 菊次郎から親和文字の存在、音羽屋が太物に手を出すこと教えてもらう

 幸 太物寄合で、型染めの技術を皆で共有し、火の用心の柄を売り出したいと話す

 お梅の飼っている小梅に子供ができる

 吉次の女道明寺の舞台が、音羽屋の横槍で流れる

5章 万里一空

 音羽屋再建、安値で木綿を売りに出す

 大阪からの手紙で、綿の不作、買い占めが行われていることを知る

 勧進相撲が行われる

 木綿不足のため、河内屋が寄合仲間に白生地を融通すると話す

6章 悪手、妙手

 霜月朔日に一斉に火の用心柄を売り出すことに しかし型染めの技術が漏れる

 霜月朔日 市村座音羽屋の型染め浴衣が披露される

 一連のことが音羽屋の仕業だと判明するが、それは悪手だと菊栄が話す

7章 錦上添花

 霜月朔日 火の用心柄が売れ始める 市村座で披露された柄も音羽屋で売り出す

 富五郎が江戸に戻り、いつかの借りを返したい、菊栄の簪を借りたいと話す

 富五郎、吉次とともに舞台で女道成寺の一幕を演じ、菊栄の簪を使う

8章 天赦日の客 1761年

 五鈴屋江戸本店9周年、いつも来る夫婦の客が店に顔を見せず 

 菊栄の簪が富五郎のおかげで売れ始める

 寄合で下野国の綿栽培が話題に 恵比寿屋が調べにいくことに

 2月 開店記念日に来る夫婦の男性がやって来て、砥川額之助と名乗る

 砥川は今年の勧進相撲の際に、力士全員に藍染め浴衣を着させたいと発注をする

9章 深川へ

 賢輔が力士の浴衣の図柄を考え始め、力士の名前を親和文字で入れることを思いつく

 書士親和先生に事情を説明し、力士の名前を書いてもらうことに

10章 土俵際

 幸 砥川に力士の名前を図柄にし、その浴衣を店でも売り出すことを了承してもらう

 幸 寄合でそのことを報告

11章 三度の虹

 梅松、誠二の型紙作りが佳境に 

 駒形町呉服商丸屋が店に客として来店

 型紙が出来上がり、染めに入る

 8月 火事で歌舞伎小屋が焼ける 五年で3回目

12章 触太鼓

 神無月十一日 力士浴衣を一斉に売り出すことが決まる

 勧進相撲が始まり、浴衣が爆発的に売れる

 寄合 丸屋が仲間に入る提案を受け、河内屋が自分たちが呉服太物仲間となることを提案

 

 シリーズ11作目。ざっくりとしたあらすじは冒頭に書いた通り。

 前作終わりでお梅の結婚が決まり、五鈴屋も型染めの太物が売れ、全てが良い方向へ進み始めた。著者の作品のファンとしては、本作でまた揺り戻しが起こるのではと思っていたら、案の定江戸が大火事に見舞われてしまう。五鈴屋は直接的な被害を被ることはなかったが、間接的に物が売れない状態に。さらに綿の入手が困難になってしまう。それでも幸はピンチをチャンスに変えるべく、寄合仲間に型染めの技術を伝授、庶民の願いを込めた火の用心の柄を売り出すことに。

 さらに毎年開店記念日に訪れていた上品な夫婦の客が、勧進相撲の関係者だと判明、力士のための浴衣の発注を受ける。賢介をはじめとした店の皆で、力士の名前入りの浴衣を作ることを思いつき、それを寄合仲間達と一緒に売り出すことに。

 

 全てがうまくいき始めた五鈴屋。一緒に頑張って来た菊栄の簪も売れ始める。

 菊栄といえば、型紙作りに熱中しすぎる梅松をお梅が非難した際に、菊栄がお梅にかけた言葉も見事だった。あまり笑いの多いシリーズではないが、この場面は流石に笑わせてもらった。

 

 そしてラストの河内屋のセリフ。仲間入りしたいという丸屋の提案を受け、呉服太物となることの申請を、と話す。丸屋のためだけかと思いきや、本作で皆のために行動を取った五鈴屋への恩返しとして、というセリフはシリーズ屈指の名セリフだった。富五郎が亡き智蔵を思って語ったセリフと双璧である。久しぶりに本シリーズで涙することになってしまった。

 

 いよいよシリーズも残すところあと2作。ラストの河内屋のセリフを読むまで、五鈴屋の呉服売りへの復帰は完全に忘れていた。これがシリーズの最後を締める大きな動きとなるのだろう。また火事にあい全てを失ったはずの音羽屋の無謀な買い占めはどう影響してくるのか。火事で店を失っても幸への敵対心むき出しだった結はどうなるのか。

 最後まで目が離せない展開になるんだろうなぁ。