男はつらいよ 柴又慕情

●725 男はつらいよ 柴又慕情 1972

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 いつもの時代劇でいつものストーリー。漁村で貧しい暮らしをしているさくらの家に借金取りがきて家財道具など一式を借金のカタに奪って行く。そこへ寅さんが現れ、札束を放り借金を払う。さくらがお兄ちゃんではと問いかけるが、寅さんは去って行く、という定番のお話。

 しかしいつもと異なるのは、江戸時代などではないということ。その証拠に登場する男性は髷を結っていない。寅さんもなぜかいつもの衣装。さらに特筆すべきは、寅さんが長い楊枝を加えていること。これは本作の公開年にTV放送され大ヒットした「木枯らし紋次郎」のパロディであることは明らか。先日見た17作「寅次郎夕焼け小焼け」の冒頭の夢も「ジョーズ」のパロディだったが、本作も同様。もう一つ「木枯らし紋次郎」がそうだったと思われるが、一連の芝居の背景に、コンクリートで作られた波止場や電柱などが写り込んでおり、時代背景を無視したつくりになっている。ちなみに吉田義男さん、本作でも夢シーンだけの登場。

 夢から覚めた寅さんはどこかの駅の駅舎におり、そのまま列車に乗り込んで行く。

 

 OP

 江戸川に帰ってきた寅さん。子供達がしている釣りに混ぜてもらうが、釣り針が散歩中のカップルの女性の帽子を釣り上げてしまう。その後寅さんは河川敷でゴルフの練習をしていたタコ社長を見つけ、社長のゴルフクラブを振り回す。

 

 OP後、とらや 寅さん不動産屋を回る

 さくらが帝釈天で御前様と門前にできたツバメの巣のことを話す。とらやへ戻ったさくらは軒先に「貸間あり」の掛札があるのを見かける。おいちゃんは家を建てるというさくらたちのために、部屋を貸し少しでも金を稼ごうというつもりだった。しかしおいちゃんは寅さんが帰ってきたらマズいことになると心配する。そこへタコ社長がゴルフから帰ってきて寅さんが戻ってきたと伝える。そして寅さんが戻ってくるが、「貸間あり」の札を見て怒って出て行ってしまう。寅さんは不動産屋を周り、部屋を探そうとするが、注文の多いことを呆れられ、不動産屋をたらい回しにされる。

 夕方、博が工場から戻る。おばちゃんは不動産屋から貸間を借りたいという人がいてこれから連れてくると話す。不動産屋が車でやってくるが、借りたいというのは寅さんのことだった。寅さんは怒るが、皆から謝罪を受けなんとか家に入る。すると不動産屋は紹介料として6000円を請求、寅さんがまた怒り不動産屋とケンカとなる。

 夜、寅さんの怒りは収まらずおいちゃんとケンカになってしまう。それを止めた博は自分たちが家を建てたいと言い出したからだと話すが、寅さんはひろしが建てる家のことをバカにしてしまい、それを聞いたさくらは泣き出してしまう。それを見た寅さんはお金をおばちゃんに渡しとらやを出て行く。そして一人寂しく柴又駅へ向かう。

 

 寅さんがとらやへ。しかし「貸間あり」の札が原因で飛び出してしまう。しかしそのまま旅に出るのではなく、柴又で下宿を探すが、行き着いたのはとらやだった、というオチ。そして夜、「貸間あり」の件でケンカとなり、怒りの収まらない寅さんは言わなくて良いことを博やさくらに言ってしまい、さくらを傷つけてしまう。そして旅へ。

 寅さんが不動産屋を回るのは珍しい。しかしそこでも、理想の下宿を語る寅さんが可笑しい。結局いつも通り旅出に出ることになるのだが、寅さんが一人さみしく柴又駅へ向かうシーンが描かれ、これは本当に珍しい。

 

 

 金沢福井 歌子との出会い

 若い女性3人組が金沢を観光している。観光地を巡る3人、途中バイをしている寅さんのそばを通るが、当然ここでは何もなし。仕事を終え宿へ戻った寅さん。そこでかつての舎弟登と出くわし、部屋で宴会となる。その隣の部屋には例の3人組がいた。3人は一緒に旅をする仲間だったが、年々旅の楽しさを味わえなくなっていた。さらにそのうちの一人みどりは秋に結婚することになっていた。3人は寝ようとしたが隣の部屋(寅さんと登)がうるさいため主人に苦情を言い、主人が寅さんの部屋へ連絡、寅さんたちは宴会を辞めおとなしく酒を飲むことに。

 翌朝、登は置き手紙を残し先に旅立っていった。そこには早く美人のお嫁さんをもらってくださいと書かれていた。3人組は福井へ。観光地を巡り、寂れた駅前で食堂に入る。そこには先客として寅さんがいた。寅さんは3人組に声をかけ話をする。店の女主人との会話で、寅さんが東京出身だが、30年家に帰っていないことを知った3人は寅さんに興味を持ち始める。そんな3人に寅さんはご馳走することに。店を出た3人は寅さんを待っており、一緒に記念撮影をすることに。そこで寅さんはチーズの代わりにバターと言ってしまい皆で大笑いすることに。そして4人は一緒に観光地をめぐる。とある駅で寅さんは3人組と別れることに。3人の中の一人、歌子は寅さんがいて本当に楽しかった、とお礼に土産物の鈴をプレゼントする。寅さんは驚き、歌子にお金を渡し弁当でも買うようにと話す。

 

 3人組を見送った後、寅さんが駅のそばを一人歩くシーンがある。これも先の柴又駅へ一人歩くシーンと同様、シリーズではとても珍しい寅さん一人歩きのシーン。

 若い女性3人組が旅をしているのは、当時国鉄がしていた「ディスカバージャパン」の影響だと3人が話している。先日TV番組でこの「ディスカバージャパン」が及ぼした影響を報じていたが、若い女性が旅に出るというのに本当に一役買っていたらしい。

 寅さんの舎弟登が久しぶりの登場。シリーズの最初の数本で出演しており、第5作ぶりの出演らしい。登は、第50作のラストシーンでも登場しており、寅さんの舎弟といえばこの人、だろう。

 旅先でマドンナと出会うのは定番だが、初めて3人組と寅さんが絡む食堂のシーンでは、珍しく寅さんが影がある二枚目風を演じている。しかしそれも記念撮影時の「バター」一言でバレてしまうのだが(笑 ちなみにこの時家に30年帰っていない、と言った寅さんのセリフがこの後のシーンの伏線となっている。

 

 

 歌子の生活

 歌子が東京に戻り、実家へ帰る。歌子の旅行中、父親が一人で暮らしたと思われ、机の上などは散らかり放題である。それを見た歌子はため息をつきながらも片付けを始める。

 

 再び、とらや

 寅さんが江戸川を歩いている。ケンカして旅だったことが念頭にあるのか、まぁ行ってみるかとつぶやく。しかしそこで例の3人組の中のみどりとマリと再会。彼女たちは柴又に来れば寅さんと再会できるかもと思いやってきたのだった。そして寅さんの家を探すことを手伝う。彼女たちは寅さんが家に30年帰っていないと信じ込んでいたため。そしてとらやを見つけ声をかけるが、おいちゃんの態度やタコ社長のとどめの一撃などがあり、寅さんの嘘はあっさり飛ばれる。2人を家にあげ歓迎するとらや。2人は旅行の写真を見せ、歌子が小説家の父親と暮らしていること、歌子が寅さんに会いたがっていたと話す。その夜、寅さんは歌子に婿を紹介しようと皆に声をかけるが、適当な人物が見つからない。するとさくらがうちにも一人いたわね、と話し寅さんは喜んでしまう。

 

 寅さんがとらやへ戻ってくる。これも定番なのだが、本作では珍しく寅さんが帰りづらそうにしている。博たちの家の件でケンカしたことが頭にあったのだろう。しかし旅先で知り合った女性2人組と遭遇、旅先での嘘が物を言い、寅さんはあっさりととらやへ。そこで歌子のことを聞く寅さん。夜、歌子の婿として自分の名前をさくらに言ってもらい有頂天となった寅さんは2Fへ引き上げる際に、「いつでも夢を」を口ずさむ。寅さんが歌を口ずさむのはシリーズでも定番だが、マドンナ吉永小百合のヒット曲を口ずさんだのは流石である。

 

 歌子がとらやへ

 翌日、帝釈天へのお使い物を頼まれたさくら。おばちゃんが帝釈天にはご利益があるのだから家を建てることをお願いしてくればと言ったのを寅さんは聞き逃さない。さくらと一緒に帝釈天へいき、さくらの金でお参りをする。誰もいないとらやに歌子がやってくる。そこへ寅さんが帰ってきて歌子を迎えるが、店のものが誰もおらず寅さんはいつもの調子が出ず、机にあった団子を作り始めてしまう。そこへさくらが戻ってきてやっと寅さんはいつもの調子を取り戻す。

 歌子を家にあげおばちゃんの手料理で歓迎する。寅さんが歌子に気を使いすぎて場が盛り下がるが、歌子が寅さんになぜ結婚しないのかと尋ね、寅さんがしどろもどろになりつつ答えたことで皆で大笑いになる。駅まで寅さんとさくらで歌子を送り、歌子は本当に楽しかった、来て良かったと話し、寅さんはまたおいでよと話す。

 夜、歌子はとらやにお礼の電話を入れる。寅さんと話しまた来ると約束をする。

 

 

 マドンナがとらやへ来る定番シーン。しかし歌子と寅さん二人だけになってしまい、寅さんがいつもの調子が出ない。マドンナと二人っきりだと寅さんがこんな状態になってしまうというのはこの後のシリーズでもあまり見かけないシーンだと思う。マドンナ役が当時すでに大スターだった吉永小百合だったためなのだろうか。

 ちなみに歌子が訪ねてきたことに気づいた寅さんが店に出るため、店の中の暖簾に引っかかってしまうシーンは名シーンである。

 この場面の最後に歌子がとらやへその日のうちにお礼の電話を入れる。現代で考えるととても丁寧な対応だと思うが、自分の親世代のことを思い出すと、当時はこんなお礼電話を入れる風習があったなぁと懐かしく思い出した。

 

 

 歌子の結婚 歌子再びとらやへ

 歌子の家。歌子が父親と日々の生活のことを話していた。珍しく機嫌の良い父親を見て歌子はマサクニさんにもう一度会ってほしいと頼むが、父親は結婚したければ勝手にしろと言い残し去ってしまう。

 その頃とらやでは寅さんが歌子がまた訪ねて来るのを待ちわびていた。日々同じことを繰り返す寅さんのことをおいちゃんがネタにする。寅さんは帝釈天で仕事を始める。

 夕方、とらやの皆は歌子のことを心配していた。さくらが言った一言を寅さんと歌子が上手くいくようにと勘違いしたおいちゃん、それを皆で笑っているところへ寅さんが帰って来る。話を聞いていた寅さんは旅に出ようとするが、そこへ歌子がやって来る。皆は歌子を歓迎し、また夕食を一緒にする。夕食後の話で歌子は失恋話を語る。その後帰ろうとする歌子をさくらが泊まっていけばと誘う。歌子は泊まることにするが、さくらだけに実は泊めてもらうつもりで来たと告白する。何かあったのかと聞くさくらに、歌子は父とちょっとねと答える。

 翌日、寅さんが歌子を散歩に連れ出す。帰って来た歌子はさくらの家に泊りに行くことになっており、寅さんは機嫌を損ねるが、寅さんがいると話しづらい愛情問題とかと博に言われ寅さんは喜んでしまう。

 

 

 歌子が父親に恋人にあってほしいと頼むことで、歌子が好きな男性がいることが明かされる。しかし父親は娘の結婚には反対だった。そして歌子が再びとらやへ。待ちわびていた寅さんは喜ぶが、歌子はある決意を持ってとらやを訪ねて来ていたのだった。

 珍しくマドンナのとらやでの2回目の夕食シーンとなるが、ここでもとらやの皆はぎこちない。というか、寅さんのアリアがあるわけではなく、寅さんの失恋話で大笑いするだけ。寅さんが歌子の前ではいつもの調子が出ないのはここでも現れている。

 

 

 

 歌子がさくらの家へ そして終盤へ

 歌子はさくらたちに結婚を考えている相手の仕事(陶芸家)のこと、父親が歌子の結婚に反対していること、父親は一人では何もできないことなどを話す。博が自分の父親もそうだと同情しつつ、歌子が結婚しても父はそれを乗り越えるられるはずだと歌子の結婚を後押しする。

 寅さんが歌子を迎えに来る。寅さんは歌子がどんな話をしたか気になって仕方ない。寅さんは歌子を送りつつ話を聞くが、歌子は自分の結婚話をしていたと答え、さくらたちのおかげで結婚する決意ができた、寅さんと出会えたことに感謝すると話し、泣き出してしまう。

 寅さんは旅立つ準備をしてさくらや満男と河川敷にいた。歌子のことを話した後、またフラれたか、のセリフを呟いてしまう寅さん。

 夏。とらやに歌子の父親がやって来て、歌子が世話になったことの礼を言う。歌子からの手紙もきていた。歌子は結婚をして夫の陶芸を手伝っている様子が書かれていた。さらに歌子のもとを寅さんらしき人が訪ねてきたが会えなかったとも。

 寅さんは旅先にいた。橋を渡っていた寅さんは川べりに登がいることに気づき、声をかける。そして通りかかったトラックに二人で乗せてもらう。

 

 シリーズ第9作。

 さくらの家で博に言葉に結婚を決意する歌子。その後、歌子はさくらや博から見れば自分はみっともないわねと話すが、それに博が「いいじゃありませんか、みっともなくたって」と答える。実は本作を観る直前にBSテレ東で放送されていた第48作を観ていた。48作に、泉が奄美にいる満男に会いに来て詰め寄るシーンがあるが、それを見ていた寅さんがみっともないねぇと言うと、リリーが「いいじゃないか、みっともなくたって」と答えるシーンがある。偶然観たのだが、第9作と第48作の重要なシーンで同じセリフを言っていたとは。ちょっと驚いた。

 歌子が寅さんに結婚を告げるシーンは、帝釈天の中という設定だが、セットで作られた帝釈天であり、ちょっと違和感があった。セット内だからなのだろうが、吉永小百合の顔が妙に白く映っているのだ。

 本作のラストは登との再会シーンだった。寅さんのフラれ方が結構壮絶だった(本人の勘違いでしかないが)ためか、二人の再会時のバカ騒ぎにちょっと救われる感じがする。