雨あがる

●724あ 雨あがる 2000

 大雨のため、川留めとなる。川を見ていた浪人、三沢伊兵衛が川越えができないことを悟り、宿へ帰る。宿には大勢の貧しい民たちが同じように雨で足止めを食らっていた。その時夜鷹を生業としている女が自分の飯が盗まれたと騒ぎだし、老人を疑い始める。伊兵衛は女をなんとか諌める。その足で出かけた伊兵衛は、夜多くの酒や食物を持って宿へ帰ってきて、皆にそれを振る舞う。仕事から帰ってきた夜鷹の女にも同じように酒を振る舞い、皆は騒ぎ出す。

 伊兵衛は中座し部屋にいる奥方たよの元へ。たよは伊兵衛が賭け試合をして金を得て、皆にご馳走を振る舞ったことに気づいており、もうやめると誓った賭け試合をまた行った伊兵衛をなじる。しかし伊兵衛が謝るとたよは伊兵衛のことを許すのだった。

 翌朝雨があがる。伊兵衛は一人稽古のため宿を出る。林の中で稽古をしていた伊兵衛は若侍たちがもめているのに出くわす。その中の二人が果し合いを始めたため、伊兵衛はそれを止める。そこに殿様と家来たちが来て、若侍たちを叱責し、果し合いを止めた伊兵衛に礼を言い、さって行く。

 伊兵衛が釣りをして宿に帰ると殿の家来たちが伊兵衛のことを迎えにきていた。伊兵衛はたよが用意していた着物に着替え城へ同行する。それを何者かが盗み見ていた。

 伊兵衛は殿様からこれまでのことを尋ねられる。奥州の藩で仕事をしていた伊兵衛だったが、仕事が合わず脱藩し江戸へ向かった。しかし路銀がなく道中の道場で一芝居を打って路銀を稼ぎ江戸へ到着。そこで辻月丹の道場へ行き、師範である月丹と立ち会ったところ相手に参ったと言われ、月丹に話を聞くことに。その後月丹の元で守護湯をし師範代となるまで腕を上げ、仕官したがそこでも仕事が合わず浪人の身となった、と正直に話す。殿様は伊兵衛のことを気に入り、伊兵衛もまた殿様の気さくな性格を気にいる。その夜、食事を共にした殿様は伊兵衛を指南番とすることを家老たちに宣言するが、彼らはどこの誰とも知らない伊兵衛を指南番にすることに反対する。そこで御前試合をして伊兵衛の実力を確かめることに。

 その頃、国の道場主たちが集まって相談をしていた。彼らは伊兵衛に賭け試合を申し込まれいずれも負けて金を支払っていた。そんな伊兵衛に指南番をされては面目が立たないと思っていた。そこへ伊兵衛が城に連れていかれるのを見守っていた男が帰ってきて、伊兵衛が引き出物を持って城から帰って行ったことを伝える。

 伊兵衛は駕籠で宿まで送ってもらう。そしてたよに仕官できそうだと話すが、たよはこれまでも伊兵衛が仕事を途中で辞めてしまっていたため心配する。伊兵衛は引き出物を宿の皆に振る舞う。

 御前試合が行われる。道場主3人も呼ばれていたが、その場には現れなかった。苛立つ殿様は、家来たちと伊兵衛を立ち合わせる。伊兵衛はいとも簡単に家来たちを打ち負かす。道場主が現れず、殿様の命でも家来たちは誰も立ち会おうとしないため、殿様自身が槍を持って伊兵衛と立ち会うことに。しかし伊兵衛は真剣に勝負し、殿様を池に落としてしまう。やり過ぎたことを後悔する伊兵衛は一人城から帰ることに。

 途中林の中を通りかかった伊兵衛は道場主3人とその配下の者たちに待ち伏せされる。指南番にはなれそうもないことを告げる伊兵衛だったが、彼らは関係なく伊兵衛を襲う。しかし伊兵衛は返り討ちにし、うち一人が味方の刀で斬られてしまう。

 その夜、殿様は奥方と酒を飲みながら伊兵衛のことを愚痴っていた。しかし奥方の言葉で殿様は伊兵衛の本当の姿に気づくことに。伊兵衛はたよに仕官できそうだと話す。翌日、宿の皆は川を越えて旅立って行く。伊兵衛は城からの使いが来るはずだと待っていたが、たよは仕官できなかった場合に備え、旅の準備を始める。

 家老が供の者を連れて宿へやって来る。彼は伊兵衛が賭け試合をしたことを理由に仕官できないと断りを述べる。それを聞いていたたよは家老に、主人が賭け試合をしてきた理由が初めてわかった、大切なのは何をしたのかではなく、何のためにしたのかではないか、あなたたちのような木偶の坊にはお分かりいただけないでしょうが、と話す。家老への言葉を諌める伊兵衛にたよは、これからはいつでも好きなときに賭け試合をして周りの人たちを喜ばせてあげてほしいと話す。それを聞いた家老たちは去って行く。

 伊兵衛とたよは宿を旅立つことに。そこへ夜鷹の女がやってきてたよに薬を渡す。二人は川を渡り旅立って行く。城では家老からたよの言葉を聞いた殿様が伊兵衛たちを連れもどせと命じるが家老は反論する。殿様は自分で馬に乗って伊兵衛たちを追う。

 

 

 これまた内容を知らない一本だったが、OPで山本周五郎原作と出たため、安心して見ることができた。原作本はもちろん、10年ほど前のBSテレ東の「山本周五郎人情時代劇」シリーズや数年前のNHKの「だれかに話したくなる山本周五郎」シリーズなどドラマ化されているものを数多く見てきて、この人の原作なら間違いないと思えるため。

 

 ストーリーは単純で、どこの国に仕官しても長続きしない主人公が、川留めされた場所でその国の殿様に見込まれ仕官できそうになるが…というお話。冒頭、主人公の妻が賭け試合をして金を稼いできた主人公のことを心配するシーンが少し謎めいて描かれ、主人公の過去に何があったのかと思わせるが、その後殿様に自分のこれまでの生き方を主人公が語るシーンがあり、その謎もあっさりと判明する。

 主人公が剣豪であることもわかっているため、御前試合や道場主たちに襲われるシーンも安心して見ていられるが、襲われたシーンで、敵同士の相打ち?でいきなり血しぶきが飛ぶのはちょっと驚いた。

 

 ぼんやりとしたテーマの映画だと感じながら観ていたが、ラスト、家老を前に主人公の妻が啖呵をきる場面でテーマがハッキリと明示され、しかも殿様も主人公たちを追うシーンがあり、爽やかな気分で観終わることに。

 

 尺も1時間半と短くサクッと見るにはもってこいの一本だが、正直言えば内容的には90分でも少し長いのでは。原作は読んでいないが、この内容ならばTVの1時間ドラマでも十分見応えのある作品になったと思う。もちろん映画なので1時間にするわけにはいかず、主人公の稽古?シーンや宿での皆の宴会騒ぎなどを長くする必要があったのだろうが。

 

 何れにしても黒澤監督脚本、というのがポイント。「乱」や「影武者」とは全く異なる平凡な一浪人を描いた黒澤映画も観てみたかったなぁ。