男はつらいよ 奮闘篇

●727 男はつらいよ 奮闘篇 1971

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭、OP前

 いつもの夢シーンはなし。集団就職のため上京しようとしている子供を見送るために駅にいる親たちの中に寅さんもおり、寅さんは彼らに激励の言葉を送る。列車が発射の時刻となり、寅さんは親たちと一緒にホームから彼らを見送る。列車が発車した直後、寅さんは自分のその列車に乗るんだった、と列車を追いかける、というオチ。

 シリーズ第7作とシリーズの序盤のためか、まだ夢シーンが定番となっていないと思われる。寅さんのナレーションも珍しい。しかし本作のこの集団就職する学生たちのシーンは、本編で登場するマドンナ花子と似たような立場であるため、緩い伏線となっているのかもしれない。

 

 OP

 これも定番とは異なり、江戸川の風景のみが流される。河川敷を歩くカップルやスポーツをする学生など。寅さんは登場しない。

 

 

 OP後、とらや 寅さんの母お菊が訪ねてくる

 とらやにハイヤーで寅さんの母親お菊が訪ねてくる。その噂はすぐに広まり、帝釈天では御前様と娘冬子がその話をしていた。お菊は1年ほど前に寅さんから「近々嫁をもらう」と書かれた手紙を受け取っており、その時は忙しく会いに来れなかったため、今回寅さんの嫁を見に上京したとのことで、寅さんの嫁に会いたいとおいちゃんやおばちゃんに話す。そこへさくらが満男を連れてやってくる。お菊はさくらを寅さんの嫁だと勘違いしてしまうが、おいちゃんたちが説明をする。そして1年前の寅さんが恋した相手の話をし、結局まだ独り者だと話す。

 その頃寅さんは江戸川のほとりを歩いていた。お菊はハイヤーで帰って行くが、帝国ホテルに宿泊していると寅さんに伝えて欲しいと言い残して行く。お菊を見送ったおいちゃん、おばちゃん、さくらは寅さんのことを話題にし、今度帰ってきた時に出迎える練習をし始める。しかしおいちゃんが悪ノリをしたところへ寅さんが帰ってきてしまう。それを見た寅さんは怒って2度と帰ってこないと言いとらやから出て行こうとするが、そこへ冬子がやってきて母親と会えたのかと尋ね、寅さんはそれに話を合わせたため、とらやに居残ることに。

 

 寅さんの母お菊が第2作以来の登場となる。寅さんが結婚したと思いとらやへやってきたのだが、真実を知りガッカリする。その後寅さんがとらやへ帰ってくるが、おいちゃんの悪ふざけに怒り、旅に出ようとするのはいつものパターン。しかし本作は冬子の登場で寅さんは旅に出ることを断念することに。

 以前のマドンナがチョイ役として登場するのはこの第7作のみだろう。とらやのシーンの前に帝釈天で御前様と会話する冬子を登場させたのは、このとらや前でのシーンのためと思われる。先にも書いたが、まだシリーズの形が完全に出来上がる前の第7作ならでは、のシーンである。

 寅さんが帰ってくる前のおいちゃんの演技、そこへ帰ってくる寅さん。おいちゃんは寅さんが背後にいることに気づき驚く。この一連のシーンは、おいちゃん役森川信の見せ場。初代おいちゃんならではのシーンである。

 ちなみに、お菊の乗ったハイヤー帝釈天前を通るシーンが描かれ、そこに源ちゃんが写っている。その源ちゃんがとらやまでお菊を追ってきており、帝釈天で御前様と冬子が会話するシーンにも写っている。つまり源ちゃんがお菊がとらやへ来たことを二人に知らせたということが丁寧に描かれているのだ。

 

 

 寅さん お菊に会いにホテルへ

 夜、寅さんはタコ社長の工場へ行き、社長が残業をする従業員のために持って来た菓子パンをネタにする。困った博がとらやへ行くと皆が怒っていた。寅さんに母親に会いに帝国ホテルへ行くように話をしたが、寅さんが全く聞く耳を持たないばかりか、真面目な話の最中にオナラをしたためだった。そこへ寅さんが戻ってくる。博が皆をなだめようとするが、おいちゃんは怒りが収まらず寅さんとケンカを始めてしまう。

 翌日、朝日印刷の車で博とさくらは寅さんを帝国ホテルへ連れて行く。さくらがお菊に寅さんの赤ん坊の頃の話を聞くが、寅さんは一人ふざけてしまい、それを見たお菊が寅さんに説教を始める。フラれてばかりの寅さんに問題がある女性でも寅さんの嫁にきてくれるのならば感謝しなければというお菊の言葉に、今度は寅さんが激怒。産みっぱなしで放り出されたことを怒り、びっくりするほどの美人の嫁さんを連れてきてやると豪語し部屋を飛び出してしまう。部屋に残ったさくらはお菊に、寅さんをバカにした言葉について抗議をする。それを聞いたお菊はさくらが寅さんのことを大事に思ってくれていることに感謝し涙する。

 とらやに戻ったさくらと博。おいちゃんから寅さんが嫁を探しに行ってくる、と出て行ってしまった話を聞く。おばちゃんは今回はたった一晩しかいなかったねと残念がる。

 

 とらやでのおいちゃんと寅さんの定番のケンカ。これも初代おいちゃんの時が多いように思うのは気のせいではないだろう。

 そして寅さんはホテルへ。ここでのお菊との丁々発止のやり取りも本作の見せ場だろう。第2作でもあった母と息子のやり取りは本作でも見事である。そして寅さんが飛び出してしまった後、お菊が見せる涙。寅さんやとらやの皆が、いつも本当の気持ちとは裏腹に言わなくて良いことを言ってしまう、というパターンがここでのお菊にも現れている。

 ちなみに、この時の会話、驚くような美人の嫁を連れてくる、という寅さんの言葉がこの後の展開にむづ美ついているのは言うまでもない。

 

 

 寅さん旅先でマドンナと出会う

 とらやを飛び出した寅さんは静岡でバイをしていた。その夜、中華屋でラーメンを食べていた寅さんは、隣のテーブルでラーメンを食べていた娘花子を見かける。花子が食べ終わり代金を支払うが、お釣りがなく店の主人が隣の店へ両替に行く。二人きりとなった店で花子は寅さんに駅へに道を尋ねる。寅さんは優しく答える。そこへ主人が帰ってきて、お釣りを渡し花子は出て行く。主人は寅さんにあの娘は普通ではなく、ちょっと頭がおかしい、どこかの工場で働いていたが仕事ができず逃げ出してきたのだろう、そのうち水商売をするようになり、売り飛ばされてしまうのでは、と話す。

 店を出て駅に向かった寅さんは、駅前の交番に花子がいるのを目撃。交番に入り、警察官を恐れて話ができない花子に優しく声をかける。名前と青森へ帰るところだということ、さらにその辺のバーで働いていたが…ということを聞き出し、警察官と話をして青森に返してあげようと決める。しかし花子は切符代を持っておらず、警察官と寅さんが金を出して切符を買ってあげることに。寅さんは駅まで花子を送るが一人で帰らせることに心配になり、とらやの場所を書いたメモを渡し見送る。

 

 母親とのケンカでとらやを飛び出した寅さん、静岡へ。街の中華屋で知り合った娘花子が交番で困っているのを見て助けてあげることに。

 中華屋の主人を柳家小さんが演じている。寅さんシリーズには「超」がつく大物が何人も出演しているがその中の一人。花子の行く末を心配して語る口調はさすがである。

 花子と出会ったのは沼津駅周辺。青森まで帰るのに3000円ほどだと寅さんが話す。50年前の電車代の安さに驚く(笑 警察官役の大塚弘さん、シリーズのちょい役の常連の一人。48作ラストのタクシー運転手が印象に残る。

 

 

 再び、とらや 花子がとらやへ

 おばちゃんと朝日印刷の皆が江戸川で花見をしている。とらやでは、おいちゃんがさくら相手に先日の寅さんとのケンカを反省していると話をしていた。そこへ花子がやってくる。戸惑うおいちゃん、花見から帰った皆と花子をどうすれば良いのか相談をする。タコ社長は寅さんが花子に悪さをしたかもしれないと警察に届けるのは止めた方が良いとアドバイスするが、そこへ寅さんが変装して店先に。皆は気づくが寅さんは店に入らず何処かへ行ってしまう。そして寅さんは外から電話をし、花子が訪ねてきたかどうかをさくらに尋ねる。花子が来ていると聞いた寅さんは一目散でとらやへ。寅さんは花子と涙の再会を果たす。

 そして花子をとらやで預かることに。寅さんは花子が少し頭が弱いことを説明、安心して働けるところを探してやりたいと話す。翌日寅さんは早速タコ社長に相談、花子を朝日印刷で雇ってもらうこととなったが、タコ社長が昔は女遊びがスゴかったとおばちゃんに聞き、工場へ。タコ社長が花子にマッサージをさせていたため、朝日印刷を辞めさせる。その足で帝釈天に行き御前様に相談、働かせてもらうことにし帝釈天を後にしようとするが、門に書かれたスケベという落書きを見て、話はなかったことにと花子を連れ戻してしまう。

 結局花子はとらやを手伝うこととなり、寅さんもおいちゃんもなぜ最初から気がつかなかったかと安心することに。しかし店の客が花子に声をかけたため寅さんは怒ってその客を追い出してしまう。

 

 とらや以外にいるおばちゃんの姿は珍しいかも(笑 花子がメモを頼りにとらやへやってくる。映画の中では描かれないが、花子は青森へは行けなかったと思われる。花子の言葉につられておいちゃんも青森訛りで答えるのが可笑しい。

 その後寅さんの変装シーン。帽子の形を変えるのはよくやるパターンだが、本作では寅さんがサングラスをかけヒゲまでつけている。母親とのケンカで帰りづらかったということもあるのかもしれないが、本当の意味は花子ととらやで再会したシーンで現れる。変装した寅さんを見た花子は恐怖を感じ逃げてしまう。それに気づいた寅さんが変装を解いてやっと二人は涙の再会となる。

 寅さんは花子の仕事を探し、タコ社長や御前様に頼もうとするが、どちらも結果的に寅さんが心配しすぎでダメに。とらやで働き始め一安心かと思うが、ここも同じ理由でダメになってしまう。この一連は寅さんのマドンナへの愛というより、父性を強く感じる気がするが、どうだろうか。

 

 

 花子との結婚?

 おばちゃんがさくらたちの家へ、花子の今後をどうすれば良いかと相談に来る。さくらたちは青森の花子の家へ手紙を書いたが、その返事はまだ来ていなかった。寅さんは花子を連れて河川敷へ。そこで花子は歌を歌い、故郷青森のこと、福士先生のことなどを寅さんに語る。寅さんは福士先生に会いたいかと尋ね、福士先生のお嫁さんになりたいかと聞く。しかし先生には奥さんがいると花子は答え、寅さんの嫁さんになると言い出す。それを聞いた寅さんは喜んでしまう。

 寅さんはその夜さくらの家へ行き、結婚をほのめかす。さくらは相手が誰かと尋ね花子だと気づく。寅さんはテレて家を出て行ってしまう。翌日さくらはとらやでそのことをおいちゃんおばちゃんに相談する。おいちゃんおばちゃんは寅さんと花子が一緒になることに難色を示す。そこへ話を聞いたタコ社長や御前様もやってきて同じく心配する。

 その頃寅さんは花子を連れてデパートへ。様々な商品を見て回り、化粧品売り場で花子はメイクをしてもらう。夜、お菊がさくらに電話をかけてきて、寅さんからまた嫁をもらうと連絡があったと伝える。お菊はどんな子でも寅の元に来てくれるならば、と言いさくらによろしく頼むと話す。

 寅さんはバイに出かける。花子はおばちゃんと河川敷でヨモギ摘みをしていた。おばちゃんは花子に田舎に帰りたいのではと聞くと、花子は寅ちゃんが帰るなと言ったと答える。

 

 花子の就職活動?が上手くいかずとらやの面々が困り始める。おばちゃんがさくらの家に相談に来る。花見のシーンに続いて、おばちゃんがとらや以外にいる珍しいシーン。

 そして河川敷で花子から故郷青森のことを聞いた寅さん。花子に寅ちゃんの嫁になろうかなと言われ有頂天に。さくらにもそのことを話してしまう。それを聞いたとらやの面々、タコ社長、御前様は皆心配することに。さらに母親であるお菊にも寅さんは連絡をしてしまい、さくらがお菊からの電話を受けることになる。

 周りは心配するが、寅さん本人とさくらが乗り気となった結婚話。さぁどうなるか、というところだが、そこは寅さんシリーズ、いつもの結末が待ち構えている。

 

 

 福士先生がとらやへ そして終盤へ

 福士先生がとらやを訪ねてやって来る。さくらの書いた手紙が福士先生に渡るのに時間がかかったこと、また東京に出て来て電車に迷ったことなどを話す。そして花子との経緯を話し、花子が半年前から行方不明だったことを伝える。花子の近況を聞き安心したところへ花子が帰って来る。二人は涙の再会となる。おいちゃんは花子は先生と一緒に帰った方が良いと話すが、おばちゃんは寅さんは怒るよと話す。

 夕方寅さんが仕事から帰って来る。花子がいないことに気づいた寅さん、怒りを爆発させようとするが、そこへ冬子がやって来て怒りは一時的に収まる。冬子が帰った後、さくらは花子が田舎に帰ったことを伝える。寅さんは怒りを爆発させ花子を無理やり田舎に帰らせたのではと問うがそれは違うと博が答える。収まらない寅さんは、自分のそばにいるより田舎に帰った方が幸せだというのかとさくらに詰め寄る。さくらはその通りだとはっきり答える。寅さんは旅に出る準備をし、さくらが止めに入るが寅さんはさくらを殴って出て行ってしまう。

 後日、とらやの皆は寅さんのことを話題にする。そこへ寅さんからの速達が来る。そこに書かれていたのがまるで遺書のようで皆は心配する。手紙が花子の故郷青森からだったため、さくらは一人青森へ向かう。列車を乗り継ぎ、福士先生の勤める学校へ。そこで花子は学校の手伝いをしていた。さくらは福士先生と話をし、寅さんが学校を訪ねて来たときの話を聞く。そして花子とも対面、元気な花子の様子を見て安心する。そしてとらやへ電話をし状況を伝える。さくらは帰ることに。バスに乗っていたさくら、海沿いで自殺者が出たと聞き心配するが、その後のバス停で寅さんの声を聞き驚く。寅さんはバスを待っていた人々と楽しく会話をしながらバスに乗り込んで来る。さくらは寅さんにハガキを見せ問い詰めるが、寅さんは正直にその時の心情を答える。そして俺が死んだと思ったかと聞き、冗談じゃないわよとさくらが答えると、死ぬわけないよなと笑う。二人を乗せたバスはそのまま進んで行く。

 

 花子の故郷での先生である福士がとらやへ。おばちゃんがさくらの家で連絡がないことを気にしていたが、花子がとらやへ来た日を0日目とすると、朝日印刷や帝釈天で仕事をしようと探したのが1日目、寅さんと花子が河川敷で遊んでいたのが2日目、寅さんが仕事へ行き、花子がおばちゃんと河川敷にいたのが3日目と考えればこの3日目に福士はとらやを訪ねて来たわけで、さくらが出した手紙が直接福士に届いていないことや当時の列車事情を考えれば、妥当な訪問と言えるだろう。

 冬子が再度登場しているのも見逃せない。冒頭での登場シーンは旅に出ようとする寅さんを結果的に引き止める役割を担っているが、ここでの冬子は寅さんの怒りを一時的に収めるだけ。それも何度か戻って来る冬子を寅さんが早めに帰そうとする仕草が見られ、寅さんは第1作のマドンナに全く未練がないことが伺える。

 そして花子は福士とともに青森へ帰ってしまう。そのことを寅さんに伝えるのはやっぱりさくらの役目。しかもはっきりとどちらが花子にとって幸せかまで断言する。

 シリーズでは寅さんの失恋が常に描かれるが、そのタイプは、マドンナに好きな人がいたことが発覚するタイプAと寅さんが何らかの事情でマドンナから身を引くタイプBがある。本作は間違いなくタイプBであるが、ある意味強制的に(花子が帰ったことで)タイプBを選ばざるを得なかったという珍しいパターンである。

 このことがラストも変えてしまう。通常であれば、失恋した寅さんが旅に出たところで季節が変わり、マドンナもしくは寅さんからの手紙がとらやに届く一方で、寅さんは旅の空の下で商売をしている、ラストになる。しかし本作での寅さんからの手紙は遺書めいており、さくらが青森まで出張ることに。そこで福士先生や花子と再会、寅さんもこの地を訪れていたことが知らされる。その場面は映画では描かれないが、寅さんがラストでマドンナに会いに行くのは最近見た第17作と同じ。そう言えば、第9作も寅さんが歌子に会いに行ったと手紙に書かれていた(実際には会えていないらしいが)。

 さくらが寅さんを追って旅に出るのは、最近見た第11作でもあったパターン。第11作は北海道で疲れ果ててしまった寅さんを迎えに行ったが、本作ではラストシーンとして描かれる。さくらがラストシーンにいるのはシリーズの中で本作だけだろう。

 

 シリーズ第7作。シリーズの中でもまだまだ序盤の作品であり、上記したようにこれまでにはない、そしてこの先のシリーズでもないような展開を見せてくれている。おそらくシリーズの形がまだ定まっておらず、山田監督がいろいろと試行錯誤している段階なのではないかと思われる。

 

 これで正月のリリー3部作、寅さん55周年を記念して放送された4作品を見終わってしまった。このまま寅さんの他の作品も観たいところだが、またTV放送され流のを待とうと思う。それでもやっぱり寅さんは面白い。