幽女の鐘 新・大江戸定年組 風野真知雄

●幽女の鐘 新・大江戸定年組 風野真知雄

 大江戸定年組シリーズの第11作にして、13年ぶりに刊行された新シリーズ第4作。

 町方同心の藤村慎三郎、三千五百石の旗本夏木忠継、町人の七福仁佐衛門はそれぞれ隠居をし、息子に家督を譲った。仲の良い3人は景色の良い家を探し、そこを「初秋亭」と名付け、隠れ家とすることに。しかしただ景色を観ているだけでは飽き足らず、様々な厄介事を解決するために奔走し始める。以下の4編からなる。

 

極悪の鯰

 仁左衛門が予言していた大地震が江戸を襲う。藤村、夏木、仁左衛門の3人は家族とともに無事だった。しかし地震発生時に入江かな女と一緒にいた仁左衛門は彼女を突き飛ばし家族を優先していた。地震から3日後、3人は初秋亭に集う。街の惨状を見た3人は困った人の力になろうと街を歩き、猫や金太を助けたりする。その後、妻たちとも協力し、初秋亭を病気やケガの人のために開放することにし医師である真崎仁斎を呼びに行かせるが地震で亡くなっていた。代わりに虎山を連れて来る。そんな折、町にナマズ男の人相書が貼られ懸賞金がかけられる。藤村は人相書を貼り出した易者斎藤天眼に会いに行き、彼の狙いに気づく。地震の前日、金の七福神が盗まれており、天眼は盗人仲間を近づけないために人相書を貼ったのだった。


怪力の家

 初秋亭での虎山は忙しく働いており、庄吉と言う弟子までできる。その庄吉が初秋亭以外に患者を診るための屋敷を見つけて来る。3人はその屋敷を見に行くが、ひどく頑丈に作られており、誰が何のために作ったのかわからなかった。仁左衛門は偶然その屋敷が料亭になる予定だったことを知る。それを聞いた仁左衛門はその料亭を作らせた料理人の噂を聞き、その狙いを見抜くことに。



秘密の骨

 夏木の家に富士屋の俵右衛門という男が相談にやって来る。半年ほど歩けなくなっていた彼の娘おきぬが地震の日に歩くようになり、その後も毎日どこかへ出かけているという話だった。3人はおきぬの後をつけることに。おきぬは毎日決まった場所へ出向きしばらくすると家に帰ることを繰り返していた。理由がわからない3人、夏木が息子の洋蔵に絵が好きなおきぬに絵を教えることを思いつく。洋蔵はおきぬと仲良くなり、地震があった時におきぬが考えたことを聞き出すことに。それは友人から聞かされていたある怖い話だった。


幽女の鐘

 地震の後、幽霊を見たという噂話が流行ることに。夏木は八百屋お七の幽霊が出たという話を何人かから聞き、その件を調べることに。現場で聞き込みをすると、何人かが火の見櫓に登り鐘を鳴らした若い女性を見ていた。夏木は聞き込み先で文を拾う。それは入江かな女が書いた文で、八百屋お七の幽霊を読んだものだった。その内容から現場のそばにあった大名屋敷が関係していると考えていたが、幽霊が屋敷の女中おみつだったという話を康四郎から聞く。夏木はおみつの父から大名屋敷の藩内で物資の横流しがあったという噂を聞き、幽霊話の全貌を推理することに。

 

 

 新シリーズ4作目。

 約1年ぶりに続編を読んだことと新シリーズ最初から予言されていた大地震が発生したことで、本作の雰囲気はこれまでのそれと随分異なると感じる。1話目は大地震発生直後の主人公3人の様子が描かれており、皆家族も含め無事だったが、これまで初秋亭に関係した人物が地震で亡くなったり、街の様子も散々なものだったり。

 そんな中で3人は、街の人々を助けようと奮闘し始める。そしていつも通り事件が発生。この事件がこれまで通り、初期のホームズものを思わせるような不思議な事件なものばかりで安心して読むことができた。

 本作で登場した不思議な謎は、

地震直後にその原因だとされたナマズ男の人相書きが出回る」

地震でもビクともしなかった屋敷、そこで料理屋をしようとした男の狙いは」

地震前には歩けなくなっていた娘が地震をきっかけに歩くようになる、その理由は」「地震発生時に目撃された八百屋お七の幽霊のような若い女、その目的は何だったのか」

の4つ。どれもちょっと不思議なものばかりだが、キチンとした解決がされるのが気持ち良い。2話目の頑丈な料理屋、というのはちょっと行き過ぎの感はあったけれど(笑

 

 本作ではこれまた読者を不安にさせて来た、藤村の吐血も医師虎山により診断が下される。どうやら思っていたよりは軽い症状のようだが、本当に藤村大丈夫なのだろうか。

 そして入江かな女。地震発生時に仁左衛門と一緒にいたようだが、彼は家族を選び、彼女は行方をくらましたまま。最終話で文を残すが、本人は登場せず。このままドロップアウトしてしまうのか、はたまた3人の前に姿を現すのか。

 

 とうとう地震が発生し物語は大きく動きそうな感じもするが、どうやら次の作品が本シリーズの完結編らしい。シリーズが終わるのは残念だが、どのような結末をつけるのだろう。