男はつらいよ 花も嵐も寅次郎

●786 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎 1982

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 

 冒頭の夢とOP

 ブルックリンの街。チンピラに扮したジュリーがSKDの娘たちと歌と踊りを披露。ジュリーはTORAYAの娘サクラを口説こうとするがそこへ兄のトラが現れたためジュリーは逃げる。その後とらやの面々も登場、寅さんは衣装を変え、テーマ曲も男はつらいよのものへ代わり、大団円風に終わる。

 目覚めた寅さんは神社の境内にいた。お参りをしようとしていた老婆の代わりに本坪鈴を鳴らすが、鈴が落ちて老婆とともに笑いながら逃げていく。

 OPは、土手で測量をしていた二人に寅さんが絡む。測量用の望遠鏡で寅さんがカップルを眺めそれを測量士の一人に勧めたことで、測量士同士のケンカに発展、なぜか眺められていたカップルもケンカに。

 

 冒頭の夢は華々しい歌と踊り。ウエストサイドストーリーのパロディ?と思われる。黒と赤の衣装のジュリーに対し、真っ白の寅さんがカッコ良い。冒頭の夢シリーズの中でもカッコ良さでは一番の寅さんではないだろうか。

 夢から目覚めた寅さんが鈴を落として老婆を笑い合うシーンは微笑ましい。

 通常、冒頭の夢はその後の本編のテーマを描いていることが多いが、本作ではそれはないようだ。

 

 

 とらや 寅さん帰る

 とらやでは御前様からいただいた松茸が話題に。その時店の向かいにある江戸屋の娘桃枝が里帰りしており、さくらに声をかけてくる。桃枝の旦那はやり手でゴルフ用品の販売で成功していた。そこへ寅さんが帰ってくる。寅さんは桃枝と卑猥な冗談を言い合うが、旦那が現れて桃枝は帰っていく。

 桃枝に旦那がいたことでガッカリする寅さん。店へ入り2階で休もうとするが、おいちゃんおばちゃんは冷たかった。

 

 マドンナ以外の美人が登場する珍しいパターン。桃枝役は朝丘雪路。寅さんは知り合いである桃枝といつも女性に対して行う冗談を言い合うが、ちょっと本気だったのかも。桃枝に旦那がいることがわかった後の寅さんの表情が寂しい。しかしここでの桃枝との会話でおいちゃん、おばちゃんが不機嫌となる。実は松茸の話をしていた時に、おばちゃんは寅さんにも食べさせてあげたいと寅さんを気遣っていたため、ホントに帰ってきた寅さんの桃枝との言動に呆れてしまった、というのが真相。このおいちゃんおばちゃんの不機嫌なことがこの後事件を起こすことになる。

 

 寅さん旅立つ おいちゃんの厳しい言葉

 夜となり、いつもの夕食風景。相変わらずおいちゃんは寅さんに冷たい。松茸を使った夕飯となるが、自分の松茸ご飯の中に松茸が見つからず、寅さんは満男の分を奪ってしまう。それを見たおいちゃんは激怒。寅さんも昼から冷たかったおいちゃんの態度を詰るが、おいちゃんは昼間の桃枝との会話を持ち出し、それが理由だと話す。おばちゃんもそれに賛同。寅さんは冗談だと言い訳するが、タコ社長のトドメの一撃がありケンカとなってしまう。それを見たおいちゃんが寅さんに「出ていってくれ」と叫んでしまう。寅さんは言葉通り出ていこうとするが、さくらも止めなかった。寅さんは土産を置いて出ていってしまう。おいちゃんはさくらが止めてくれるものだと思ったと話すが、さくらはおいちゃんが「出て行け」と言ったのがショックだったと答える。

 

 映画冒頭、帰ってきたばかりの寅さんがケンカをしてとらやから旅立ってしまうのは定番。さくらやマドンナの登場によってそうならないのも定番。本作は前者のパターンだが、冒頭でのシーンでさくらが出て行こうとする寅さんを止めないのは珍しい。

 さくらはそれをおいちゃんが「出て行け」と言ったからだとして涙する。確かにおいちゃんの「出ていってくれ」というセリフはあまり聞いたことがない。本作以外にこのセリフあったかしら。

 ちなみにおいちゃんに言われた寅さんは、「それを言っちゃおしまいだよ」の名セリフを吐く。

 

 別府 湯平荘

 旅立った寅さんは別府でハンググライダーをする人々を見ていた。その後田舎道を歩きバス停へ。そこへポンシュウが車で通りかかったため乗せてもらう。臼杵の福良天神でお祭りが行われ寅さんはそこで商売をしていた。湯平温泉。一人の青年三郎が湯平荘を探しており、2人の女性ゆかりと蛍子がその話を聞いて今晩の宿を湯平荘にすることに。

 湯平荘。仕事を終えた寅さんは主人と顔見知りである湯平荘に泊まりに来る。主人は寅さんが新婚旅行で来ると約束していたためそれまでは宿を続けると話す。ゆかりと蛍子は温泉に入りながら話をする。ゆかりは近々結婚をする予定だった。寅さんは主人の部屋で主人と酒を飲んでいた。そこへ三郎がやってきて、30年前に母が宿屋で働いていたと話す。主人は三郎の顔を見てそれはおふみだと答える。三郎は母が3年前に亡くなり墓に入れる前に骨壷を持って宿屋を訪れたと話す。話を聞いていた寅さんはおふみのために供養をしてやろうと言いだし、坊さんやおふみの知り合いなどを集めろと主人に話す。

 

 別府に来た寅さん。そこへ三郎、蛍子も登場、皆が一緒の宿に泊まることに。三郎の母親の話を聞いた寅さんが早速動く。シリーズを見て来た観客ならば、この寅さんの行動は納得できる。この行動こそがマドンナと三郎を結びつけるエピソードになっていくのが見事。ちょっとだけポンシュウが出てくるのも嬉しいかも。

 

 

 三郎の告白 寅さん三郎と東京へ 

 夜、湯平荘で供養が行われる。偶然通りかかった蛍子たちも寅さんに声をかけられ供養に参加する。お焼香となるが、皆に勧められ一番に前に出た寅さんは香炉に触れてしまい大騒ぎ。蛍子たちは大笑いする。

 翌日旅立った寅さんは蛍子たちを見かけ声をかけ、一緒に駅へ向かう。寅さんは蛍子たちがデパートで勤めている話を聞く。一方三郎は墓地にお骨を収め、車で東京へ戻ることに。途中、蛍子を見かけ声をかけるが、ゆかりや寅さんも一緒だったため、4人でドライブすることに。サファリパークや遊園地で遊んだところで、船で空港へ向かう蛍子たちと別れることに。挨拶をすませた皆だったが、蛍子が船に乗り込む直前、三郎は彼女に付き合ってくださいと言うが、蛍子は急に言われてもと返事をせず船で行ってしまう。残された三郎をからかう寅さん。恋の手ほどきをすると三郎は車で一緒に東京まで送りますと言い出す。

 

 供養が行われるが、寅さんのお焼香でのバタバタが可笑しい。そして船での別れの場での突然の告白。しかし観客にすればこれは突然ではない。三郎は車で蛍子を見かけた時に嬉しそうに車に乗って行かないかと誘っているのだ。もちろんその後、ゆかりと寅さんが現れてしまうのだが。

 

 

 寅さんとらやへ帰る

 さくらとおばちゃんがデパートで買い物をしてとらやへ帰ってくる。寅さんの服も買ったさくら。その時店の前に車が横付けに。疲れ果てた寅さんと三郎が現れる。とりあえず2階で休む二人。博が三郎の車を帝釈天の駐車場に止めさせてもらうために御前様に挨拶に行く。夜、いつもの楽しい夕食。自分のことを聞かれた三郎は赤ちゃんの話をし、皆は三郎の子供だと思うが、それは三郎が勤める動物園のチンパンジーのことだった。三郎は博とさくらの馴れ初めを聞く。寅さんだけでなく、満男までがそれに答える。羨ましがる三郎に寅さんはお前も頑張れ、と蛍子のことをほのめかす。帰ることにした三郎は寅さんに蛍子とのことを頼む。

 

 博から寅さんが車で帰って来たと言う話を聞いた御前様のセリフが可笑しい。「悪いことでもしたか。それほどの頭はないだろう」。三郎から蛍子のことを頼まれた寅さん、さくらからその内容を聞かれ、トーキーの弁士のごとく、三郎青年のことを話す。それではわからないとさくらが「ねえ」と言ったセリフも受けて「ねえと言っても…」と語りながら2階へ去って行く。まるで短いアリアのよう。

 

 

 寅さんが三郎の気持ちを蛍子に伝える

 デパートに勤務する蛍子、動物園で勤務する三郎の姿が描かれる。とらやに蛍子がやってくる。寅さんは留守。蛍子は寅さんが三郎の車で戻って来たことを聞き喜ぶ。そして旅先での写真をさくらに渡し帰っていく。

 蛍子は家に帰る。母が具合が悪いため、弟のために夕飯を作る蛍子。母はお見合いのことを蛍子に話すが…。蛍子は仕事帰りに寅さんと常連の酒場で落ち合う。寅さんは三郎の話を持ち出し、三郎が片思いしていること、その相手が蛍子だと話す。付き合ってみるかと寅さんに言われた蛍子は断ってしまう。寅さんに理由を聞かれ、あまりに二枚目だもんと答える蛍子。

 その日とらやでは三郎が寅さんの帰りを待っていた。酔って帰って来た寅さんは三郎に聞かれ、あまりに二枚目だもんという蛍子の返事を伝える。三郎は怒り、寅さんに恋をしたことがあるかと尋ねるが、怒って帰ってしまう。

 

 寅さんが三郎と蛍子の仲を取り持とうとし始める。まず蛍子に三郎の気持ちを伝えるが、蛍子は断る。その理由がフルっている。まさかのこんな理由とは(笑

 ここでの最後、恋をしたことがあるかと聞かれた寅さんの答えは「俺から恋を抜いたら造糞機だ」という名セリフ。

 

 

 蛍子と三郎が付き合うことに

 蛍子の家。蛍子はお昼に呼ばれたと柴又へ出かける。その頃。三郎が寅さんに呼ばれてとらやへ。寅さんはフラれた三郎のために二人を再度とらやで会わせることにした。寅さんは偶然を装うように三郎に話し、デートでの話しかたも教える。そこへ蛍子がやってくるが、案の定寅さんは自分が作ったはずの設定を吹っ飛ばし、全てがバレてしまう。江戸川に行った三郎と蛍子だったが、三郎はやはりうまく話せなかったが、寅さんに教えてもらったセリフを言うがそれも上手く行くはずはなかった。

 しばらくして、とらやに湯平荘から温泉水が届く。博や満男はそれを飲む。さくらは三郎や蛍子から連絡がないことを心配していた。

 蛍子の家。父親からお見合いを断れられたと告げられる蛍子。相手は蛍子が男と付き合っていると興信所で調べたらしい。そういう人がいるかと聞かれ蛍子はいると答える。その時寅さんから電話が入り、蛍子はとらやへ出かけていく。

 とらやでは蛍子を迎えるために寅さんが皆にハッパをかけていた。そして蛍子を迎えに駅に行く寅さん。とらやで蛍子は昼ご飯をご馳走になる。そして三郎と同じように博とさくらの馴れ初めを聞く。おばちゃんの漬ける白菜を見ながら、寅さんは蛍子に三郎とのことを尋ねる。蛍子は迷っている、三郎が何を考えているかわからない、会話が続かずツラい、寅さんとなら何でも話せるのに、と答える。寅さんは恋する男の気持ちを話すが、蛍子はそれはわかっているが自分も19、20の娘ではない、結婚は現実の問題なのと話す。寅さんは三郎のことが嫌いなのかと尋ねるが、蛍子は好きだから悩んでいるのと答える。寅さんは蛍子の気持ちがわからず、2階へ上がって行ってしまう。蛍子は寅さんに叱られたとつぶやく。さくらやおばちゃんが蛍子を慰める。

 

 寅さんは三郎のために二人をとらやに呼び引き合わせる。まず、この準備段階での寅さんと三郎の会話が傑作過ぎる。三郎に恋の手ほどきをする寅さん。蛍子との想定会話を話し始めるのだが、ここだけでも見事なアリアとなっている。そして目線の演技指導、三郎によるリハーサル。寅さんを蛍子だと思って見つめる三郎が思わず吹き出してしまう。これは本当に演技なのだろうか(笑 その前のアリアあたりでも、周りにいるおいちゃんやさくらが素で笑っているように見えるのだが。

 蛍子がとらやに訪ねて来た後の打ち合わせをぶち壊しにする寅さんはシリーズの定番。「偶然」という言葉をキーワードにして、見事に自分の失敗を笑いに昇華させてしまう。

 ここでおおいに笑った分、その後の蛍子が一人でとらやを訪ねて来たシーンはちょっと重い。三郎とのことを悩む蛍子に寅さんの本作3度目?のアリアが炸裂する。恋をした男の気持ち、喋れない、会う前にはいろいろと話そうと考えているがその子と会うと…と語る。それでも蛍子の悩みは深く、寅さんのアリアは不発に終わる。

 おばちゃんの慰めの言葉。おいちゃんはカマキリみたいな男だったらしい(笑

 

 

 蛍子が動物園に そして終盤へ

 とらやからの帰り、蛍子は気持ちを伝えようと動物園で働く三郎の元へ。三郎は休憩をもらい、蛍子を観覧車へ誘う。そしていつも通りチンパンジーの話を始め蛍子をがっかりとさせるが、突然蛍子にプロポーズをし、二人はキスをする。

 とらや。さくらが蛍子からの電話を受け、プロポーズされたことを喜ぶ。そしてとらやへ来るように二人を誘う。その時、寅さんが2階から旅の支度をして降りて来る。寅さんはさくらに三郎を慰めてやってくれと話すが、さくらは今の電話のことを伝える。寅さんは驚きつつ、とらやを出て行く。そしてさくらに「やっぱり二枚目はいいなぁ。ちょっぴり妬けるぜ」と言い残し去って行く。

 正月。とらやでは蛍子が店の手伝いをしていた。三郎は仕事だった。そこへ寅さんから電話がかかる。さくらは蛍子に電話を変わる。蛍子はなぜ急にいなくなってしまったのかと話すが、しばらくして電話は切れてしまう。寅さんは電話を置き、鉄輪温泉の街へ。そして初詣客で賑わう参道で商売をするのだった。

 

 

 シリーズ第30作。本作のマドンナが田中裕子であることに気づいた瞬間、なぜか第50作ラストのマドンナラッシュでの田中裕子のシーン〜柴又駅で寅さんに手を振る〜を思い出した。マドンナラッシュは、マドンナの笑顔や悲しい表情など各作品を象徴するシーンが使われているが、田中裕子の場合、そのどちらでもない。少し不安げな、それでいて寅さんを見つけ喜んで手を振るシーン。映画を観終わって確かにこのシーンが本作を象徴するシーンだったのかと思う。

 

 もう一つ、観終わってすぐに驚いたこと。本作が第30作であるということ。久しぶりの鑑賞だったこともあるが、本作では「寅さんのアリア3回」「冒頭の寅さんが出て行くのを止めないさくらの理由」「寅さんの定番名セリフの連発」「寅さんの恋指南」「『寅さんに叱られちゃった』という名セリフ」など傑作だと思えるシーンが多かったため、傑作揃いのシリーズ序盤から間もない頃に製作された作品だと感じた。しかし実際は、シリーズ中盤から終盤へ向かう第30作。

 確かに言われてみれば、一つ前は傑作と誉れ高い「あじさいの恋」だし、二つ後は「口笛を吹く寅次郎」だし。中盤ダレ気味になったと感じることもあるシリーズだが、こんな傑作もあったんだと今更ながら思う。

 

 傑作と思える本作だったが、一つだけ疑問。寅さんのマドンナへの恋について。

 ラスト、寅さんはいつものようにとらやから旅立って行くが、これは三郎青年の恋を成就させてやれなかった自分の不甲斐なさを悔いたからではないのか。ネットを見ると、さくらから蛍子と三郎が上手くいったことを知った際、寅さんは自分のマドンナへの恋心に気づいたと書かれているものが多かったが、そうなのだろうか?本作では終始寅さんは三郎を応援し続けているように思えるし、蛍子に対しても同じ。寅さんが蛍子と会った最後、つまりとらやに訪ねて来た蛍子に対して男の気持ちをアリアをして語ったではないか。例えば本作の4年前に公開された第22作「噂の寅次郎」では、離婚をしたという大原麗子のセリフに寅さんはその喜びを隠せなかった。しかし本作では蛍子から三郎とのことを悩んでいると聞かされて、寅さんは3回目のアリアを披露する。

 だが。ちょっと待てよ。序盤の湯平荘での三郎青年の母親の話を聞いた寅さんの行動は?見たことも会ったこともない三郎の母おふみさんのために供養の場を設けたのは伏線なのか。つまりラストで蛍子と三郎が上手くいったのを知った寅さんならば、二人の結婚を祝福する場をとらやに設けるのが当たり前か。その方向へ動かなかった寅さん、つまりここで自分の本当の気持ちに気づいたということなのか。

 そう言えば最初の部分でも書いたが、冒頭の夢が本作のテーマに絡んでいない理由はここにあるのか。湯平荘が伏線だったのか。あ゛ー。40年観ていても気づけていないことがまだあるのか。あ゛ー。

 

 このブログで「男はつらいよ」を取り上げたのは13本目となった。もう少し増えたらカテゴリーに「男はつらいよ」を作らなくちゃいけないなぁ。ってかBSテレ東がまた寅さん全作品を放送するらしい。どうするよ(笑