難事件カフェ 似鳥鶏

●難事件カフェ 似鳥鶏

 喫茶店プリエールは、季と智の兄弟で経営している。智は元優秀な警部であり、彼の推理力を頼って、県警の直ちゃんが事件を持ち込んでくる。以下の4編からなる短編集。

 

「喪服の女王陛下のために」

 25歳の男性が崖から落ちた事件を直ちゃんが持ち込む。ゆるい崖であったため被害者がとどまれそうあったこと、被害者の腕時計から判明した犯行時刻に現場には誰も近づいていないことから迷宮入りしていた。智は被害者と別れたという恋人の存在に着目する。

 

「スフレの時間が教えてくれる」

 マンションで工員が殺害され第一発見者が容疑者となるが、容疑を否認。他の容疑者たちにはアリバイがあった。智は現場に残された不自然な喫煙の跡、他の容疑者のアリバイの証拠から、真犯人を特定する。

 

「星空と死者と桃のタルト」

 季と智の兄弟と最初の事件で知り合いになった女性弁護士、直ちゃんの4人で別荘へ出かける。1泊した翌朝別荘の玄関に死体があることを知らせるメモがあり、その通り死体が発見される。なぜ犯人は死体を早期発見されるように仕向けたのか。現場周辺で揉め事となっていた放射能の問題も絡め、智は真相を見抜く。


「最後は、甘い解決を」

 直ちゃんは別荘に一緒に行った弁護士が智に解決して欲しいと思っている事件について語り出す。それは弁護士の母、仲良くしていた近所の主婦が射殺された2つの事件に関することだった。同じ拳銃が使われた2つの事件を智が解決する。

 

 以前読んだ、「レジまでの推理 本屋さんの名探偵」の似鳥さんの作品。「レジまで〜」の最終話が衝撃的だったので、別の作品を読んでみたいと思い、2冊ではあるがシリーズ化されている本作を読んでみた。

 正直、第1話の最初のページを開いた時に、文字がぎっしり、改行もほとんどなく、それでいて4話約400ページの作品のため、読むのがキツイかと思ったが、作品の舞台設定の紹介が終わると、県警の直ちゃんとの会話がメインとなり、読みやすい作品だった。

 ネットでは、その直ちゃんの言葉遣いを嫌う人も多いみたいだったが、今時の若者言葉風のため、自分にはスッと入ってきて読みやすかった。

 ストーリーは、殺人を扱った正統派の推理小説と思える。短編ではあるが、1話約100ページのボリュームであり、読み応えも十分。ただ「レジまで〜」でも思ったことだが、事件の現場の状況説明がわかりづらく、それが事件そのものに関係していることもあって、致命傷かもしれない。

 展開としては、女性弁護士的場さんを1話目で関係者として登場させ、2話目でプリエールの常連にさせ、3話目で一緒に別荘へ、最終話でその的場さんにまつわる大事件の真相に迫る、という短編でありながら、一つのテーマを持って展開させたのは上手いと思う。

 事件のトリック?については、これまた「レジまで〜」と同様、少し強引さも目立つ感じ。特に、2話目の「スフレが〜」で使われるレシートに関して言えば、レシートとは、お客が店を出る時=金を支払う時、に発行されるのが普通ではないのか。本文では、このレシートが客(容疑者の一人)が注文した時に発行されていることになっているが。事件解決のためには、注文時の時刻でなければいけないのはよくわかるのだが。

 

 「レジまで〜」も、本作も2話目までは直ちゃんの語り口もあり、気軽に読んでいた。しかし、3話目4話目でのラストで登場人物のセリフが現実社会での重い問題を提起していて驚かされた。3話目の農業における放射能問題、4話目の被害者と加害者の人権問題、知識としては知っているし、頭では理解できているつもりであるが、このような小説にされると改めてその問題に苦しんでいる人がいることを実感させられる。

 

 「レジまで〜」が最終話がすごすぎて続編が期待できないのに対し、本作は続編が出ている。本作を終えての続きをどのように展開するのか、楽しみに読んでみたい。