ちどり亭にようこそ 〜今朝もどこかでサンドイッチを〜 十三湊

●ちどり亭にようこそ 〜今朝もどこかでサンドイッチを〜 十三湊

 京都の仕出し弁当屋「ちどり亭」を舞台にした短編集の3作目。店主花柚さんは20代半ば、毎週お見合いをしている。花柚さんに酔いつぶれた際に助けられた大学生彗太は店を手伝うことに。なぜか店に入り浸っている花柚さんの従兄弟美津彦さん、同じ大学に通うバイト仲間の菜月、花柚さんの昔の許嫁永谷総一郎、などが繰り広げる弁当屋での出来事の数々。以下の5編からなる。

 

「草露白、漆塗りと栗おこわ」

 彗太は目で見る色や口で感じる味が人それぞれであることを気づかされる。そんな中、彗太が作ったきんぴらを美味くなかったと常連客梶原さんに言われてしまう。店を手伝うことを決めていた彗太はこの事で落ち込んでしまう。花柚さんはそんな彗太にお使いを頼む。

 ポイントは「花柚さんが頼んだお使いの先」

 

「鶺鴒鳴、配膳さんと海老フライ」

 美津彦が研究室の後輩康介を店に連れてくる。彼は父親と喧嘩して家を飛び出して来たのだった。彼は喧嘩の理由をなかなか話さなかったが、美津彦により真相が明かされる。康介は父親の不倫、しかも相手は友人である男性、を疑っていたのだった。

 ポイントは「なぜ花柚さんは康介の父の友人が怪我をしていると考えたのか」

 

「鴻雁来、野菜嫌いとつくねの照り焼き」

 花柚さんと総一郎との結婚話が進む中、店で女子会が開かれ、ゆうやママのママ友福永さんが講師として呼ばれていた。子供達の運動会に皆で弁当を持ち寄ることになったが、福永さんは夫が極度の野菜嫌いであることを告白する。花柚さんはそんな旦那さんのために弁当を作ることに。

 ポイントは「花柚さんはどんな弁当を作ったのか」

 

「虹蔵不見、サンドイッチと琵琶の音」

 ちどり亭に花柚さんの失踪していた兄公篤が女性麻里衣を伴い現れる。花柚さんは混乱するが、翌日皆で紅葉狩りに行くことに。花柚さんは麻里衣に弁当を持参するように話す。翌日皆で集まり弁当を食べながら総一郎が公篤と話し込む。

 ポイントは「公篤が出した結論に花柚さんが答えたこととは」

 

「番外編 月見る月はこの月の月」

 これまでの話とは異なり、本作の1章から4章までの話を美津彦目線で語る。

 一方で、美津彦の学校の女友達村上莢子が病気となり、美津彦が彼女の部屋に行くことになる。莢子は過保護な母親を嫌っていたが、その母親から多くの野菜が送られて来ていた。莢子は料理などをしないため、美津彦は花柚さんを呼び寄せる。

 ポイントは「なぜ美津彦はちどり亭のオーナーになろうとしたか」

 

 シリーズも3作目となり、完全にフォーマットが出来上がったようだ。各章の初めに書かれるエピソードがその章の見事な前振りとなっているのだが、前振りのこの部分にハッとさせられることが多い。話は既に弁当だけに限らず、味や子供の頃食べる料理などにも触れられている。で驚くのは、この部分の2章でのサンドイッチの話。あぁそうだよね、と思って読んでいたが、これも見事に2章のオチに結びついている。

 シリーズ全体に関しても、花柚さんと総一郎の結婚話は着々と進行しつつあり、唯一で最大の問題だった、ちどり亭のオーナーの件も美津彦が出資することになり無事決着しそうな感じ。

 さらに言えば、あたらに登場した康介が野々花と仲良くなっていきそうな雰囲気だし、あの美津彦にも莢子という女性が現れ、しかも以前は付き合っていたということが暴露される。登場人物たちが皆幸せになり、大団円が予想される。次作あたりで花柚さんの結婚となるのか。