新・戻り舟同心 父と子と 長谷川卓

●新・戻り舟同心 父と子と 長谷川卓

 同心を息子に譲り隠居していた二ツ森伝次郎が奉行所から永尋(ながたずね〜未解決事件)の担当として復帰する。同僚だった染葉、現役時代に使っていた岡っ引き鍋虎と孫の隼などと一緒に事件解決に奔走する。4作品で終わったシリーズが、「新」と銘打って新たにシリーズ化。以下の7章+1からなる長編。

 

「序」

 盗賊夜宮の長兵衛は病で床に臥せていた。長兵衛は代譲りをしていたが、一味の富蔵が金を持って行方をくらませる。長兵衛は江戸に残してきた娘・妙を吉松に探させるが、3年が経過しても何の音沙汰もなかった。

 

「《山形屋》利八」

 伝次郎は3年前に行方不明になった山形屋利八夫婦の件を調べる。一方同心たちは葺手町で起きた玉屋(シャボン玉)殺しを追っていた。山形屋を調べに葺手町に行った伝次郎は家の床下から白骨死体とマツと彫られた匕首を発見する。

 その頃、小姓組頭俵木は、先の逢魔刻事件で御役御免となった関谷の無念を晴らすため、仲間たちとともに伝次郎と花島を殺す計画を立てる。また関谷家の用人高柳は殺しの請負人、通称鳶と接触、伝次郎と花島殺害を依頼していた。さらに関谷家の家臣だった菰田は真夏と再度の立ち合いをすることを望んでいた。

 

「闇討ち」

 伝次郎は山形屋で見つかった白骨死体のことを読売に書かせる。それを見たという安田屋徳兵衛が伝次郎を訪ねてくる。徳兵衛は江戸に出てきた長兵衛の偽名だった。マツと彫られた匕首を見た長兵衛は、それが吉松だと確信するが、伝次郎には何も話さなかった。伝次郎は徳兵衛を怪しみ後をつけさせる。

 伝次郎たちは時雨屋で酒を飲んでいた。彼らが店から出てくるのを俵木たちが待ち伏せする。しかし伝次郎と仲間たちで返り討ちにし、相手に怪我を負わせる。その頃、花島も家にいるところを殺し屋に狙われるが、相手に怪我を負わせ、その隙に逃げる。

 

「天神下の多助」

 伝次郎たちは、徳兵衛が山形屋のことを調べているのを知り、徳兵衛たちを見張ることに。また自分たちを襲った者が何者かを調べるため、襲われた時に負わせた怪我を治療した医師や薬屋などを調べさせる。多助は偶然から医師を突き止め、さらにその医師が小姓組岩間の家に通い治療をしているのを突き止める。

 

「掏摸の安吉」

 安吉は薬種屋を調べていて、伝次郎たちが襲われた翌日から大量の薬を買った浪人池永を突き止める。さらに伝次郎は医師を脅し治療内容を聞き出す。伝次郎たちは関谷家が自分たちに復讐しようとしていることを確信する。さらに安吉の活躍で殺し屋の塒も突き止めることに成功する。

 

「秘太刀《斎》(いつき)」

 伝次郎は百井から夜宮の長兵衛一味が江戸に向かったという話を聞く。長兵衛は、娘・妙が同心として奉行所で永尋の仕事をしていることを突き止め、奉行所に顔を出しに行く。伝次郎たちは殺し屋たちを追っていたが、菰田と出会い、真夏は立ち合いをすることに。真夏は秘太刀斎で菰田を倒す。

 伝次郎の家に俵木がやってくる。事情を知っている正次郎は驚くが、俵木は何もしないと話し帰っていく。

 

「夜宮の長兵衛」

 伝次郎は夜宮一味のことを知る人間を見つけ、一味のことを聞き、富蔵も含め一味の似顔絵を描かせる。山形屋の事件、そこで見つかった白骨死体など、すべてが判明する。一方、話を聞いた花島は夜宮一味のいる宿へ近と向かってしまう。伝次郎は一ノ瀬や真夏とともに花島を追う。花島は殺し屋たちに狙われるが、そこへ一ノ瀬が現れ、殺し屋たちを討ち取る。

 関谷家の用人高柳は、鳶と会っていたが、彼らに殺されてしまう。鳶たちは仕事に失敗したため、依頼人を殺し逃げるためだった。

 伝次郎は一ノ瀬と真夏のことで話をする。お互いの話から、夜宮の長兵衛が真夏の実の父であることを二人とも確信する。

 伝次郎は正次郎を相手に秘太刀斎の練習を始める。

 

「父と子と」

 長兵衛たちを見張っていたが、いよいよ一味が動き出す時が来た。伝次郎たちは後をつけ、一味が富蔵の家に押し入った瞬間に踏み込む。富蔵はすでに死んでおり、一味はおとなしく捕まる。伝次郎は床に臥せている長兵衛を訪ね、捕まえ牢に入れる。牢で伝次郎は長兵衛から経緯を聞き出し、真夏のことを話す。

 小姓組が集まり不穏な動きがあると知らせが入り、伝次郎は関谷の屋敷を直に訪ね、事情を話す。関谷は話を受け入れ、小姓組の者たちを説得する。納得のいかない俵木を相手に、伝次郎は勝負を挑み、秘太刀斎で勝利する。後日、伝次郎は小伝馬町の牢屋敷に長兵衛に会いに行き、真夏を引き合わせる。

 

 前作「戻り舟同心 更待月」が刊行されたのが2012年。5年後の2017年に新シリーズとして本作が刊行されている。新シリーズとなっているが、登場人物や背景は全て同じであるのが嬉しい。

 物語は、冒頭から物騒な展開を見せる。前々作「戻り舟同心 逢魔刻」で伝次郎たちが解決した事件で御役御免となった関谷家配下の者たちが、3者に別れて、伝次郎たちへの復讐を計画する。自分たちで復讐しようとする者、殺し屋を雇った者、真夏一人に立ち合いを求める者。3者の想い、考えが第1章「《山形屋》利八」で明かされる。ミステリではないが、倒叙型で話が進んでいくため、これまでとは違い面白さが増している。しかも次の第2章「闇討ち」でいきなり伝次郎と花島が襲われる。新シリーズとなったのは、ここでレギュラーが殺されてしまうのか、と思ったが、見事に返り討ちに仕留め一安心。

 話はこの復讐劇と並行して、関西の盗賊夜宮の長兵衛一味の事件も語られる。これが伝次郎たちが調べ始めた永尋の一件と関わりを持つ。

 

 これまでもそうだったが、著者は本当に話の展開が上手い。二つの事件が並行して書かれているのも見事だが、これまでのシリーズで途中から永尋に関わった多助と安吉が本作でしっかりと活躍し、仲間になっていくのも見事。さらにはこれまであまり活躍のなかった真夏の父一ノ瀬八十郎にも最高の見せ場がある。もちろん、娘真夏の生い立ちに関しても明らかにされる場面もある。

 以前、シリーズのレギュラーメンバーの数が多くなり過ぎでは?という感想を書いたが、彼らが本作では見事に躍動している感がある。

 せっかくの新シリーズだが、著者の逝去により、次回作がこのシリーズ最後の作品。読むのが惜しいような気もするが、やはり読んでみたい。