弁当屋さんのおもてなし 夢に続くコロッケサンド 喜多みどり

弁当屋さんのおもてなし 夢に続くコロッケサンド 喜多みどり

 恋人に二股をかけられた上でフラれ、その上札幌に異動となった千春。彼女は偶然見つけた弁当屋「くま弁」に立ち寄る。従業員ユウと会話をし、注文した弁当とは異なる弁当を食べた千春は元気を取り戻し、弁当屋の常連となる。弁当屋「くま弁」と千春にまつわる短編集、シリーズ第6作。以下の4編からなる。

 

「廃墟に消えるコロッケサンド弁当」

 くま弁のバイト桂が体調を崩す。そこへ榎木という客が来て桂の様子がおかしくなる。千春は黒川から幽霊屋敷の話を聞くが、その家から榎木が出てくるのを目撃していた。榎木はその家でパティスリーを開こうとしており、桂は榎木の手伝いをしていたのだった。桂は榎木の店に移ることを考えていたが、ユウに言い出せないでいた。そんな桂にユウがコロッケをあげるよう指示する。

 

「ほろ酔い気分の手毬寿司弁当」

 桂が榎木の店開店準備のために不在になり、千春がくま弁を手伝うことに。そんな時、くま弁に酔っ払い客が妻への弁当を注文しにやってくるが、そのまま店で寝てしまう。客の名前は海老沢、出産したばかりの妻がいるということを聞いた千春は寿司を作ろうと熊野に提案、しかし熊野は怪我をしてしまい、千春が熊野指導のもと手毬寿司を作ることに。

 千春はユウにくま弁を一緒にやっていきたいと話すがユウは良い顔をしなかった。戸惑う千春だったが、店に会社の上司である亀地次長がやってくる。

 

「甘エビ限定海老フライ弁当」

 事情を話した亀地は千春に地域限定社員になることを提案してくる。千春は亀地と何度か話すことになるが、ある時亀地が息子が病気で早退し、千春が書類を届けることに。千春は亀地から、エイスケという息子がいること、シングルマザーで子育てをしていることを聞く。後日エイスケが家出をしたことを千春は知り亀地の家へ行くが、エイスケは亀地の実家にいた。そのエイスケがくま弁にやってきて母のために弁当を作って欲しいと頼む。ユウはエイスケからエビフライを食べた話を聞き、大量の甘エビフライを作ることに。

 

「夢を見つけたはじまりの弁当」

 ユウのアメリカ時代の恩人ジュディが亡くなったと連絡が入り、ユウは葬儀参加のため渡米する。ユウが休む3日間、熊野、桂とともに千春もくま弁の手伝いをすることに。初日は無事に乗り切ったが、2日目に熊野が腰を痛めてしまう。3日目無理をした熊野の調子が悪くなる。それを見た黒川が店の手伝いを始める。その後も混雑する店に、常連客である片倉、宇佐、若菜、さらに熊野の義理の息子である竜ヶ崎も手伝いにやってくる。皆の手伝いで無事店は閉店にこぎつける。閉店後ユウが帰国する。翌朝ユウは千春に思い出の鮭かま弁当を作り、一緒にくま弁をやって欲しいと話す。

 

 シリーズ第6作。前作で結婚をすることを決めた千春とユウだったが、もう一つ問題が残っていた。それは千春の仕事。札幌に残るために転職まで考えていた千春だったが、上司から地域限定社員の話まで提案される。千春が選んだのはくま弁でユウと一緒に働くこと。しかしユウは良い顔をしなかった。さてどうなる?という本作。

 「廃墟〜」で唯一のバイト桂が店を辞めることになり、「ほろ酔い〜」では千春が初めて客のために弁当を作ることに。「甘エビ〜」で千春は客のために働くということを強く思う。そして最終話でユウが自信を持ち千春を受け入れることに。

 

 見事な大団円。最終話でユウ不在のくま弁がピンチに陥った時に、かつての登場人物たち=常連客たちがくま弁を手伝う姿がカタルシスのよう。最終話冒頭のユウ目線でのこのシリーズ最初の場面を描いたのも良かったし。ラスト、二人が夫婦となってくま弁をやっている姿が少しだけ明かされていたのも上手い締め方。

 二人の恋物語は大団円となったが、本シリーズはまだ続くようだが、どうやら主役が変わるみたい。その手があったか、という感じだがどんな話になるんだろうか。