野伏間の治助 北町奉行所捕物控 長谷川卓

●野伏間の治助 北町奉行所捕物控 長谷川卓

 裏表紙内容紹介より

 北町奉行所定廻り同心・小宮山仙十郎は、見回りのさなか殺しの報告を受けた。先月の殺しとの関係を考えながら駆けつける仙十郎。死体は、年の頃六十くらいで明らかに勒死(絞殺)であった。一方、仮牢の詰所で入牢者を調べていた北町奉行所臨時廻り同心・鷲津軍兵衛も報告を受けて現場に向かうことに。翌日死体の身元が〈善兵衛店〉の大家・善兵衛であることが判明し、殺される前の善兵衛の足取りを調べることになるのだが、そんな中、ある盗賊一味の存在が浮かび上がってきた……。大好評の北町奉行所捕物控シリーズ、第八弾!

 

 北町奉行所同心鷲津軍兵衛が、同僚の同心や岡っ引や下っ引と共に事件を解決していくシリーズの第8作。以下の5章からなる長編。

 「死神仙十郎」「赤腹の音蔵」「信太小僧松吉」「波銭」「隠居・柘植石刀

 

 同心小宮が3件の殺人に遭遇する。2件は袈裟斬りで殺されており、1件は絞殺と手口が違っていた。鷲津は絞殺で殺された善兵衛店の大家善兵衛の一件に手をつける。その長屋に新たに入ろうとしていた満三郎のことを調べていたが、満三郎の長屋への請け人一之助が請け人家と呼ばれる犯罪者を紹介することを商売にしている男だと宮脇の記憶で判明、研ぎ屋満三郎を見張ることに。

 満三郎が酒屋で会った男をつけた千吉ははおり屋にたどり着く。鷲津は町で偶然平三郎に出会う。3年前の事件で世話になった男だった。平三郎にはおり屋を調べさせ、主人音吉の言葉から備前出身だと推測、蛇骨の清右衛門配下の得治に確かめさせることに。得治は音吉が盗賊野伏間の治助の配下の赤腹の音蔵だと告げる。

 鷲津は島村に報告、さらに宮脇の調べで野伏間の治助一味は2年ごとに江戸と大阪で大仕事をしており、秋の月末、天気の悪い時に仕事をしていると判明する。

 鷲津は町で掏摸を斬ろうとする侍を見かけ止める。相手は八巻日向守の三男鼎之助だとわかる。2件の殺人を追っていた加曽利は、被害者が賭場に出入りしていたことを突き止め、2人が共通して出入りしていた賭場を探し当てる。そのうち1軒が八巻家で、三男が凄腕の剣士だと判明する。

 周一郎は妹尾に挨拶に行った帰りに、養生所へ来なくなった患者を見舞いに行くが、そこで幼い女の子、菊が迷子になっているのに出くわす。そして彼女の親、双吉と初に会う。そこには松吉もいた。彼らは野伏間の治助一味のもので、そこには治助、徳八、お澄などもいた。

 はおり屋を見張っていた新六は、店の障子を直した男をつける。老舗京屋に寄ったあと、長屋に帰るが、彼こそ双吉なのだった。治助は久しぶりに町に出る。その際鷲津と遭遇し、からかい半分で声をかけ、波銭を鷲津からもらう。

 加曽利は八巻家の賭場に侵入するために源三の手を借りる。そしてそこで知り合った客から賭場で大儲けした人間が2人殺されたという話を聞く。話を聞いた鷲津は、旗本が相手となるため、火盗改の松田に会いに行き事情を説明する。そして賭場で大儲けする手段を考える。

 家に帰った鷲津は徳八の人相書きを書き写す。それを見た周一郎が知った男だと話し、それを聞いた新六が京屋が野伏間の治助一味の狙いだと話す。鷲津たちは一味が住む家を見張ろうとするが、手頃な場所がなかった。向かいの西念寺を使おうと考えた鷲津は明屋敷番の柘植を訪ね、西念寺を見張所に使う許可を取ろうとする。柘植はすでに隠居していたが、3人の組頭たちが鷲津の話に乗り、西念寺で見張ることに。さらに3人は一味の家の床下に潜り込み、話を聞き出してくれ、一味の全貌が明らかになった。

 鷲津は源三の博打の才能を買って、八巻家に潜り込ませ大勝させる。その帰り道を狙った鼎之助たちを捕まえることに成功する。そして月末、野伏間の治助一味が動き出す。南町奉行所にも知らせ、火盗改、柘植たちとともに一味の捕縛に成功する。しかし松吉とお澄は取り逃がしてしまう。松吉は周一郎への復讐を誓う。

 

 前作に続く第8作にして、シリーズ最終作。完結作でないのが悲しい。

 シリーズの定番である、2つの事件が並行して描かれるパターン。袈裟斬りでの連続殺人と意外なことで発覚した野伏間の治助一味の件。

 軍兵衛は野伏間の治助一味の件で奔走。こちらがメインかと思わせるが、ひょんなことでその犯人である鼎之助とも出会ってしまう。加曽利の捜査で鼎之助が浮上、これまた例によって火盗改の力も借りることに。

 一方、野伏間の治助一味の方もこれまた例によって手下たちの見張りにより、次第に一味の全貌が明らかになってくるのだが、最終段ではなんと前作に登場した明屋敷番の柘植をはじめとする組頭たちが協力してくれ、あっさりと一味の内情が判明する。

 

 本作の見所は、何と言ってもこれまでのシリーズに登場したサブキャラたちが総登場することだろう。蛇骨一味はもちろん、火盗改、上司である三枝、明屋敷番の組頭たち。それぞれにキャラが立っているのはもちろん、見せ場もあり、シリーズを読んできた読者には最高のプレゼントだった。

 前々作で登場した松吉もいよいよ登場。今回捕まる一味の仲間となっているが、捕縛からは逃れ、次回作以降で登場する構想だったのだろう。

 その相手となるだろう周一郎が見事に成長している姿も描かれる。これまた例によって、本作の犯人たちとの遭遇もあるが、流れとしてそこまで不自然さを感じさせないのは著者長谷川卓の上手さである。

 周一郎と松吉との闘い、蕗と周一郎の行く末、軍兵衛のさらなる活躍、などまだまだ読みたいシリーズだった。著者が亡くなってしまったのが本当に残念で仕方ない。