モップの精と二匹のアルマジロ 近藤史恵

●モップの精と二匹のアルマジロ 近藤史恵

 大介は勤めるビルの外から、清掃作業をしているキリコを見つめている女性を発見し声をかける。キリコと話がしたいという女性の要望を本人に伝え、キリコは了承する。 

 女性は越野真琴、夫でありビルに勤める友也の浮気調査をして欲しいという依頼だった。友也はイケメンで有名な男性、対する真琴は地味な女性、二人は半年前に結婚したばかりだが、友也は真琴に残業だと嘘をついて、毎日退社後どこかで時間を潰し家に帰ってくるのだという。

 とりあえずキリコは退社後の友也を尾行することに。真琴には似合わないアクセサリーを買う現場を目撃したり、家ではないマンションに入って行くのを目撃したりする。キリコがその事実を真琴に伝えようと考えたいた日、大介は退社時に友也を見かける。会社の前で友也は車に轢かれてしまう。病院へ同行した大介とキリコは真琴と会うが、友也は事故の影響でここ3年間の記憶をなくしてしまっていた。

 友也は無事退院するが、記憶は戻らないまま。友也は事故現場で対応してくれた大介に頻繁に連絡をよこすようになる。少しずつ友也のことを知るようになる大介。一方キリコは例のマンションのことを調べ、その部屋で女性が暮らしていたということを突き止める。

 友也は真琴とケンカをし家を出てしまう。その友也は会社のデスクに脅迫状めいた手紙があったことを大介に告げる。その後、友也と真琴は離婚をすることに。その後、友也が自殺未遂を起こす。大介とキリコは病院へ向かうが、そこへ警察が来て、友也の自殺を真琴の仕業だと疑うそぶりを見せる。友也の遺書に財産を真琴に送ると書かれており、友也は真琴にも明かしていなかった大金を保有していたのだった。さらに警察から友也の母が10年前に殺された事件のこと、友也を一方的に好きになった女性が犯人であり、その兄が友也を車で跳ねた犯人だったことも聞く。

 大介は会社で清掃員の女性が、友也と同じコロンをつけていることに気づき、彼女に声をかける。温田というその女性のことをキリコに尋ねると、温田は女性ではなく、男性だった。さらに温田は友也と知り合いで彼に関する重要な情報を持っていた…

 

 シリーズ4作目にして、初の長編。ふとしたことがきっかけで、大介キリコ夫妻が知り合った越野夫妻の身の回りに起こる事件を二人が協力して解決していく。事件というより「謎」。

 初の長編でどうなるかと思って読み進めたが、やはりちょっとミステリの長編にするには無理があったような気がする。中盤に差し掛かる前の段階で、友也が秘密裏に通うマンションが出てくる。そこが女性との密会場所なような部屋になっていたことが中盤で明かされるが、この時点である程度真相に気がついてしまった。本当の真相とは少しずれた推理だったが。「Aセクシャル」という言葉は初めて知った。そんな人がいることも含めて。

 そして謎の手紙が登場。これで自分の推理とは異なる何かがまだあるのだとわかったが、さすがにこの温田の件は少し無理筋なのでは、と思ってしまう。この辺りで友也が真琴と結婚した理由も明かされ、これにも共感はできなかった。友也の苦しみは理解できるが、これではあまりに真琴が可哀想すぎる。物語前半で、どうして友也が真琴を選んだかが焦点のような書き方もあったので、なおさら。

 このシリーズは前にも書いたように、トリックなどがメインではなく、犯人となった人物の動機や考え方がテーマだと思う。今回はそれが友也だということになるのだろうが、3年間の記憶をなくした友也が感じる恐怖は強く共感できたが、それ以外はちょっと、という感じか。

 確かに短編にするにはテーマが重過ぎた感じはする。だから長編にしたのだろうけど。この作品は約10年前に書かれたものだが、ちょうどマツコデラックスがTVで認知され始めた頃だったと思う。思えばマツコの登場により、日本でもジェンダーに関する認知度は飛躍的に高くなってきたのかも。

 批判的なことをいくつか書いたが、タイトルにある「二匹のアルマジロ」は秀逸な言葉だと思う。「二匹のハリネズミ」とはまた異なる二人の関係性。人は一人では生きていけないのだ。