遺跡発掘師は笑わない 悪路王の右手 桑原水菜

●遺跡発掘師は笑わない 悪路王の右手 桑原水菜

(ネット紹介記事より抜粋)

 若き天才発掘師・西原無量が陸前高田の古い神社跡で掘り当てた、指が3本しかない右手の骨。地元民は「鬼の手ではないか」と噂する。一方、亀石発掘派遣事務所の忍が訪れた平泉の遺跡発掘センターでは、出土品の盗難事件が発生。現場には毘沙門天像が描かれた札と“悪路王参上”の文字が残されていた。犯人の「犯行声明」が意味するものとは。そして更なる事件が起こり…!?大人気シリーズ第4弾、文庫書き下ろしで登場!

 

 前作に続きシリーズ第4作。

 冒頭、萌絵が忍の婚約相手として笙子と会う、萌絵の恋愛体質をイジったところからスタート。今回の舞台は陸前高田市。震災から2年後という設定。例によって無量が鬼の右手と言われる3本指の骨を発掘する。発掘現場の責任者田鶴が襲われる一方、盗難事件が発生し、現場には悪路王という名前が残されていた。

 

 今回はいつもの殺人事件が起こらず、暴行事件となる。相変わらずの盗難事件は発生するが(笑 歴史的なものとしては、阿弖流為坂上田村麻呂源義経、平泉金色堂桓武天皇、など。阿弖流為については、他の著者さんの小説で題材にされていたので多少の知識はあるが、全般的に東北の歴史についてはあまり知識がないので、へぇと思わされることばかり。この辺り、本シリーズは勉強になる。

 

 一方で本作での注目は、震災後の復旧地域での発掘調査に対する思い。「調査よりも復旧を」という住民の思いは至極真っ当なものだが、そこに残されていた「過去」と向き合う無量の思いもよくわかる。本シリーズは小説の形を借りて過去の歴史と向き合う大切さを思わせてくれてきたが、現代の日本人にとってあまりに大きな出来事だった震災と発掘の関係性を本作ではテーマとしており、なかなか難しい問題提起であった。

 

 が、本作は実は前後編の前編。タイトルだけではそれが知らされず、最後まで読み進めてそれがわかりビックリ。例によって終盤、主人公3人が危機に陥るところまでいつも通りだったのに、解決編がないまま本作は終了。消化不良なのは当然で、後編が読みたくなるのは当たり前。あぁこのシリーズにハマりつつあるのがわかる(笑