三人屋 原田ひ香

●三人屋 原田ひ香

 ラプンツェル商店街にあるルジュール。三姉妹が営むこの店は朝昼夜で形態が変わる。朝は三女朝日が喫茶店を、昼は次女まひるうどん屋を、夜は長女夜月がスナックを営んでいる。この店の常連と三姉妹が織りなすドラマが描かれる。

 5編からなる短編集。

 

1 森野俊生(26)の場合

2 三觜酉一(52)の場合

3 飯島大輔(36)の場合

4 櫻井勉(32)の場合

5 志野原辰夫(故人)の場合

 

 1章の森野はルジュールに朝、偶然訪れ朝日に一目惚れする。店に通うようになるがある時昼に店を訪れ朝日がいないこと、店がうどん屋であることに気づく。さらにコンビニにいるときに、店の常連大輔に誘われ夜のルジュールを訪れ、そこで夜月と出会う。

 2章の三觜は商店街の鶏肉店の店主。昼の常連だが、同じ商店街のミートショップ金森の娘靖子に結婚を申し込もうとしており、まひるに相談する。しかし三觜は靖子にフラれてしまう。その理由として三觜はお互いの店の因縁をまひるに話すのだった。

 3章の大輔は店の常連で商店街のスーパーの店主。キャバクラ嬢の江梨奈と付き合っているが、ルジュールの三姉妹それぞれと関係があった。夜月とは昔恋人同士で彼女は大輔の子供を妊娠、二人は駆け落ちをしたことがある。まひるは結婚直前に当時大輔が住んでいた広島まで大輔を訪ねて来たことがある。朝日は学生の頃に母親が倒れ、疲れているときに大輔と旅行に行ったことがある。

 4章の勉はまひるの夫だが、勤務先の若い派遣社員彩友美と不倫の関係にあった。その彩友美と一緒になるために勉はまひるに離婚話を持ち出し、まひるは離婚する代わりに子供の養育費を求める。勉は彩友美の元へ行くが、喜ぶと思っていた彼女が養育費を出すことを聞いて怒り出す。まひるは離婚後の生活のことを考え、普段は話をしない夜月に相談をしようと考えるが、彼女はどこかに消えてしまっていた。

 5章。夜月は亡くなった父親がオーケストラで録音したというレコードを探しに北海道にいた。しかしそれは昔の男がらみの話であり、夜月はスナックで働くことを強いられ、さらに男をとることまで強制される。 二人の妹や大輔が心配するなか、夜月がレコードを手に入れ店に戻ってくる。

 

 「ランチ酒」シリーズが面白かったので、同じ著者の本を読むことに。紹介文から女性3姉妹が営む店の話だと思い、「ランチ酒」と似たような話だろうと選んだのだが、これが大間違い(笑 三姉妹は仲が悪く、そのため3つの時間帯でそれぞれ別々に店を開いている。特に長女夜月と次女まひるはお互いに話すこともないほどの仲。

 そんな三姉妹の店に初めて訪れた森野が店の形態を知る1章は、読者に店や三姉妹を紹介するための話。2章では商店街の人たちと店の関係が描かれると同時に、商店街の歴史なども知ることになる。3章はここまで三姉妹以外で話の中によく登場して来た大輔の紹介。大輔と三姉妹の過去が明らかになり、どうして彼が店によく訪れるのかがわかる。4章は商店街から離れ、次女まひるの結婚生活、夫とのトラブルが描かれる。ちょっと意外な方向の話だが、これが長女夜月の失踪につながっていく。

 そして5章。三姉妹、実は長女夜月だけのようだが、がずっと手に入れたいと思っているレコードの謎が明らかになる。さらに亡くなった父の友人を名乗る男性が現れ、そのレコードが本当に存在するのかという疑問が生まれる。

 しかし話はレコードがメインではなく、長女夜月が失踪したこと、次女まひるが離婚することで三姉妹がそれぞれお互いに求めていたものが見えてくる、というストーリー展開だった。

 

 「ランチ酒」もそうだったが、本作もある意味とてもリアルな話に思える。決して賑わっているわけではないだろう商店街。人生のいろいろな局面で姉妹といえども自分の思う行動を取るそれぞれの立場。年齢などに関わらず起こる男女の問題。

 

 決して善人ばかりが登場するわけではなく、むしろどこかにダメな部分を持った人間だらけの登場人物ばかりであり、読み心地が良いとはいえない小説だったが、最後に少しだけ見える希望が救いだったのかも。

 「ランチ酒」と同様、なかなか面白い話であり面白い結末だった。と思っていたら、どうやらこの話にも続編があるらしい。ラストで仲が悪かった三姉妹がお互いを認め助け合っていくように思える展開を見せたが、次の作品ではどんなことになるのだろう。これはちょっと楽しみである。