●あきない世傳 金と銀7 碧流篇 高田郁
江戸店が開店、帯結びを教える場を設けたことで顔馴染みの客が増える。その中の一人で指物師和三郎の姉、才。彼女の夫力蔵が染物師であることを幸は知ることに。武家のための小紋染めを町人のためにと思いついた幸は型紙を作り、それを力蔵に託すことに。亀三のツテで知り合った人気歌舞伎役者の富五郎がその新たな反物に興味を示し、彼のお練りの衣装として採用されることになる。
以下の12章からなる。
1章 初空 1751年〜1752年
幸 大晦日、湯屋で指物師和三郎の姉、才に会い帯結びを教えることを聞かれる
店の皆で元旦を迎え、決意を新たにする
2章 針供養
帯結びを教える初日を迎え、才が訪ねて来ておかみさんたちも店へ
浅草寺の針供養の日、お竹が前掛けをしている小女の帯結びを見て感心する
3章 縁を繋ぐ
幸 亀三から紹介された歌舞伎役者菊次郎を訪ね、弟子の吉次と会う
幸 吉次のため表は木綿、裏は絹の着物を作るよう菊次郎から頼まれる
4章 三思九思
幸 頼まれた吉次の着物を届ける それが評判となり歌舞伎役者が店へ
幸 才の夫、力蔵が染物師だと教えてもらう
賢輔 広小路で惣次を見かける
5章 手掛かり
賢輔だけでなく、以前お竹も惣次を見かけていたことが判明
幸 近江屋から江戸の染物師や小紋染めのことを教えてもらう
小紋染めを作ることを店の皆で話し、鈴紋を思いつき、型紙を依頼することに
6章 七夕
賢輔 型紙のため、大阪、伊勢へ向かう
幸 和三郎から力蔵が型付師には戻らない理由を教えてもらう
幸 力蔵と話をし、才の家を訪ね、力蔵がまだ型付師に未練があると聞く
7章 待ち人きたる
幸 お竹と歌舞伎を見に行き吉次から菊次郎が京へ行っていると聞く
賢輔 鉄助、結を連れて江戸へ戻る
8章 跡目
賢輔 伊勢で型紙を頼んだこと、型紙の仕事内容を話す
鉄助 女名前三年の延長話が出ていることを告げる
結 帯結びを教えるのを手伝い人気者に
鉄助 幸に八代目として賢輔を推薦する
9章 寒紅
人気歌舞伎役者中村富五郎が店へ
飛脚で型紙が届く
10章 それぞれの矜持
幸 型紙が届いたため力蔵に店に来てもらうが、力蔵は型紙を見ずに帰ってしまう
富五郎が店に来て型紙を見て、事情を知る 最初の反物を欲しいと話す
幸 型紙を持って力蔵に会いに行く 力蔵は型紙を見て決心をする
11章 江戸紫 1753年
大阪からの飛脚により、幸の3年延長が決まったことが知らされる
年始の挨拶に富五郎が来て、お練りの衣装を任せると話す
幸 お練りの衣装の色を江戸紫にすることを決める
12章 花道
幸 佐助とともに力蔵の染物の仕事を見に行く
反物が出来上がり富五郎が見にくる 女仕立てを頼む理由を明かす
富五郎のお練りの日がやって来る
シリーズ7作目。ざっくりとしたあらすじは冒頭に書いた通り。江戸店での1年目が描かれる。新たに指物師和三郎の姉、才や人気歌舞伎役者富五郎が登場し、話の中心となってくる。また大阪から幸の妹結も江戸へやってきて、一緒に商売の手伝いを始める。
幸は江戸店の新たなウリとして小紋染めを採用することに。型紙を伊勢で作ってもらい江戸で染物を作るという流れを作り出す。そこへ歌舞伎役者富五郎も絡んできて、話は大きく展開していく。
本作の見どころはやはり終盤の富五郎のセリフだろう。歌舞伎役者の見せ場であるお練りの衣装、五鈴屋江戸店にとっても大事なその衣装を女仕立てで、と頼む富五郎。それでも幸がやはり男仕立てで、と助言したのに対し富五郎が話す真相。富五郎は以前に智蔵と出会っており、それを支えにしてきたことを明かす。富五郎が話し出したその1行目を読んだ時に思わず涙ぐんでしまった。
本シリーズは感動する場面が少ないと何度か書いてきたが、この場面はシリーズ屈指の名場面だと思う。前作6作目の冒頭で智蔵の死が描かれたが、その後は本作まで江戸店の話がずっと続いてきた。その本作のラストでいきなり智蔵の話が出てくるとは。その相手が人気歌舞伎役者ということで、江戸店との繋がりが今後商売に良い影響を及ぼすのだろうなぁと思っていたところへこの話。そりゃ泣けるでしょ(笑
新たな江戸店のウリも完成、妹結も江戸へ出てきて、全てが揃った感じがする。前作終わりも希望に満ちた終わり方だったが、本作も前作を上回るほどの明るい未来を予想させてくれた。次の作品が楽しみだが、この著者はこんな時にまた悲劇を持ってくるからなぁ(笑 十分注意しながら次の作品を読むことにしよう。