あきない世傳 金と銀8 瀑布篇 高田郁

●あきない世傳 金と銀8 瀑布篇 高田郁

 江戸店が勝負をかけた小紋染めが売れ安泰かと思えたが、江戸の街を麻疹が襲い物が売れない日々が続くことに。幸と結は音羽屋と知り合い、結は音羽屋に見初められる。麻疹が治り一息つく幸だったが、お上から高額の上納金を求められることに。そんな中、惣次と出会い上納金に対し助言を得る。八代目を周助に託すことになり、賢輔は新しい図柄を考えつくが、賢輔と一緒になれないと悟った結がその型紙とともに行方をくらましてしまう。

 

 以下の12章からなる。

 

1章 追い風 1753年

 富五郎のお練りのおかげで、江戸店での小紋染めが爆発的に売れる

 本両替商蔵前屋の手代が店にある、修徳からの掛け軸になんと書いてあるか尋ねるが誰も読めなかった

 日本橋田所屋が金持ちだけを相手の商売をしていると聞く

2章 修徳からの伝言

 田所屋が小紋染めを同じような価格で売り出す

 江戸店で新しい小紋染めの柄を考え始め、賢輔が蝙蝠柄を考えつく

 店のてが足りず奉公人を探すが見つからず、近江屋の壮太と長次が手伝いに

 店先で倒れた人間を店へ、同行していた学者風の男が掛け軸を読み解く

3章 凪

 麻疹が大流行、店の売り上げが落ちる

 店におかみさんたちが来て、四寸ほどの江戸紫の反物を求める

 茂作が江戸店へ 力造の仕事を見た後、賢輔八代目とすることを治兵衛が早すぎると言っていると話す 帰り道、更地に家を建てる時の注意事項を聞く

4章 恵比須講

 関西帰りの菊次郎が恵比須講の日、薬種問屋小西屋へ小紋染めを送ることに

 幸 結と小西屋へ反物を納めに行き、両替商音羽屋と会う

5章 百花繚乱 1754年

 賢輔が考えた蝙蝠柄の小紋染めが完成

 小西屋が結と音羽屋の縁談話を持ってくるが、結は賢輔に惚れており苦しむ

6章 賢輔

 お才が賢輔の婿養子話を持ってくるが幸が断る

 佐助 今年の売り上げが銀1千貫となる予測を幸へ伝える

 幸 賢輔に八代目を継いで欲しいと話をする

7章 不意打ち

 幸 結と浅草の店で音羽屋忠兵衛と出会う、その後も音羽屋は店へ来る

 幸 お竹から賢輔の幸せを祈っていると言われる

 鉄助が江戸店へやって来る 賢輔八代目の件での親旦那の話 型紙師梅松の話

 呉服仲間の会合へ呼ばれる おかみから上納金1500両の話

8章 思わぬ助言

 幸 上納金の件で蔵前屋へ そこで井筒屋三代目保晴こと惣次と出会う

 惣次 幸に上納金のために借金をするな、知恵を絞れと話す

 お才 梅松を江戸へ呼べないかと幸へ話す それを実現させるため奔走する

 幸 女物だけでなく男物の反物を作ることを店で話す

9章 肝胆を砕く

 鉄助 大阪へ帰る

 幸 上納金の件で結が音羽屋に会っていたことを知り、注意

 幸 上納金の件で役人に3年払いにすることを提案し了承される

 周助 梅松を連れ江戸店へ

10章 響き合う心

 梅松を迎え、男女に気に入ってもらえる新しい図柄を皆で考え始める

 紙問屋千代友屋の娘が賢輔に会いに店先へ 結婚前で騒動になりかける

 周助 八代目を引き受ける、賢輔に九代目となることを考えるよう話す

11章 百丈竿頭

 賢輔 新しい図柄で悩む 幸とともに力造の家へ そこで干支の文字を見つける

 小西屋が音羽屋と結の件でまたもや店へ 結がきっぱりと断りを入れる

 梅松 賢輔が考えた新しい図柄の型紙作りに専念

 江戸店開店3周年に樽酒が届くが誰が送ったかわからずじまい

12章 怒濤

 3周年の3日後、江戸店を休みにし、皆それぞれ休みを過ごす

 結は賢輔と出かける そこで嫁にして欲しいと頼むが断られる

 田所屋が潰れ、両替商音羽屋が買い取る

 師走29日、梅松の図柄を確かめに出かけるが、青竹が倒れて来る

 梅松の型紙が完成、皆で喜ぶが、翌日結が型紙とともに行方不明に

 

 シリーズ8作目。ざっくりとしたあらすじは冒頭に書いた通り。前作7作目で江戸店が開店、最後には人気歌舞伎役者の助けもあり順風満帆に見えたが、本作では不穏な空気が漂い始める。

 麻疹の流行、音羽屋に見初められる結、賢輔八代目の件。それでも麻疹は治り、音羽屋にはしっかりと断りを入れ、八代目は幸が様々な助言を元に考え直し周助に託すことに。全てがまた良い方向に向かったかに思えたが、ラストに驚きの結末が待ち構えていた。

 型紙師梅松を江戸に迎え、新たな図柄を賢輔が考え出し、やっとそれが陽の目をみることになりそうになった段階で、その型紙とともに結が行方をくらましてしまう。その直前にあった出来事で結は賢輔の心が自分に向いていないことに気づいた結。

 

 それにしても最後に出て来る新しい図柄が生まれた経緯や梅松の仕事に対する情熱ぶりを読んだ後にこんな展開が待っているとは。前作でトントン拍子で江戸店が発展していく様を読んだばかりだったので、この著者の主人公に対する残酷さを忘れていた(笑

 あまりに気になったので、すでに次の9作目を少し読んでしまったが、結はとんでもない行動に出てしまっている。「みをつくし」シリーズにもなかったようなあまりにヒドい展開。「みをつくし」にも又次が火事で亡くなるという悲劇があったが、あれは人助けのためであって、その悲劇も受け入れることができたが、本作ラストと次回作での結の行動はただただ腹が立つ振る舞い。

 あまりに順調だった江戸店をこんな悲劇が襲うとはなぁ。唯一の救いは梅松が行った型紙への仕掛け。これがどのように使われるのだろう。そして姉妹の仲はどうなるのだろう。シリーズも残り少なくなってきている中、どんな展開がやって来るのか、次作が楽しみである。