配達されない三通の手紙

●783 配達されない三通の手紙 1979

 外国人が萩市にやってきて、唐沢光政の家を訪ねる。彼は光政の甥ボブで、アメリカから東洋の文化の研究のために叔父の家を訪ねてきたのだった。光政の家には妻のほか次女紀子、三女恵子が暮らしていた。その夜、光政は夕食会に招いた牛山医師、判事、検事の峰岸をボブに紹介する。峰岸は恵子の恋人だった。その場に紀子も顔を出すが体調が悪いと言って部屋に戻ってしまう。

 夕食会が終わりボブは滞在中に使って良いと離れの一軒家に案内される。そのあまりの豪華さに驚いたボブはなぜこの家を使っていないのかと恵子に尋ねる。その家は紀子が3年前に結婚し暮らす新居となる予定だったが、結婚式直前に相手の藤村敏行が行方不明になったため結婚が取りやめになったと恵子は説明する。

 紀子に電話がかかる。それは長女麗子からだった。彼女の営むバーに敏行が現れたと聞き紀子は出かける。その夜、紀子は敏行を家に連れて戻ってきて、父親光政に敏行と結婚したいと言い出す。光政は怒るが、敏行が自分の銀行に勤め、二人が新居で生活するならという条件を飲むなら結婚を許す。そして二人は結婚、新婚旅行に出かける。

 新婚旅行から帰った二人は幸せそうだった。そして智之は銀行勤めを始める。そこへ敏行の妹智子がやってくる。彼女は紀子たちの新居に居候することに。智子は最初こそおとなしくしていた智子だったが、徐々に本性を表すようになる。

 ある時、敏行の荷物を紀子、ボブ、恵子が運んでいた。その時敏行の本から三通の手紙が見つかる。その手紙を読んだ紀子の表情が変わる。後日、家族皆で文楽を見に出かけることになったが、恵子は体調不良だといい家に残ることに。ボブも研究があると家に残る。二人は例の手紙を探し見つける。そこにはこの先紀子が体調を崩し、死んでしまうという内容が敏行の手で書かれており、相手は妹となっていた。さらにその手紙が挟んであった本を見つけるが、その本は毒について書かれた本であり、挟んであったのはヒ素のことが記されたページだった。二人は意味がわからず手紙を元の場所に戻す。

 一通目の手紙にあった日にちに紀子がワインを飲んで調子を崩す。ボブと恵子は心配する。ボブがワインが入っていたグラスを取っておいたため、恵子はそれを知り合いに頼んで鑑定してもらうことに。しかしワイングラスからは何も検出されなかった。

 ある夜、紀子が寝付いた後、敏行はベッドを抜け出しシャワーを浴びる智子の様子を見に行く。

 ボブは街での研究を続けていたが、その時偶然敏行が質屋に入っていくのを目撃する。その頃敏行は会社からの帰りが遅くなっていた。その晩も麗子の店で酔いつぶれた敏行をボブと恵子が迎えに行くことに。家に帰った敏行は紀子に金を貸して欲しいと言い出すが、使い道のわからないお金は出せないと断られる。その後もボブは敏行がサラ金で金を借りるところを目撃する。

 ある朝、皆で朝食を取っていた時、紀子が突然洗面所に駆け込む。皆が心配して様子を見に行くと彼女は洗面所にあった解毒剤を飲んでいた。牛山医師が呼ばれ、紀子がヒ素を飲んでいたことが判明、しかし光政は検事である峰岸に事件を調べるように言い、表沙汰にはしないように話す。峰岸は紀子にも話を聞くが、彼女は毒は自分が持っていたといい自分の不注意だったと話す。峰岸は恵子に紀子のことを注意して見守るように話す。

 会社で光政は敏行を呼び出し、最近の勤務態度について注意する。家に帰った光政は敏行の誕生日パーティをすると言い出す。それを聞いた紀子は喜び、敏行に言いに行くが、新居で敏行と智子が言い争っているのを目撃してしまう。

 パーティが開かれる。それは三通目の手紙にあった9月1日だった。パーティの場で智子は酔っ払い酒を飲んでいた。敏行に酒を持って来させた智子だったが、自分のグラスを落としてしまい、その場にいた紀子のグラスを奪って飲む。すると酒を飲んで紀子が倒れてしまう。皆が典子を心配して集まるが、その時智子が死んでいることが発覚する。

 警察が来て事情聴取が始まる。紀子の事情聴取は峯岸が行ったが、そこで紀子は手紙のことを口走ってしまう。峯岸たちはボブと恵子に手紙を見せてもらう。その結果、敏行が逮捕、連行されてしまう。警察で敏行は何も語らなかった。紀子は光政の子供を妊娠していることも発覚する。

 新聞の記事を読んだという敏行の大学時代の後輩大川という女性が唐沢家を訪ねて来て、光政に敏行は人を殺せるような人ではないと話すが、光政は聞く耳を持たなかった。光政は峰岸に我が家から犯罪者を出してはいけないと話すが、峰岸は光政の意向を無視する。

 恵子はボブと事件の話をする。ボブは例の手紙は昔書かれたものではないかと言い、光政が行方不明だった3年間過ごしたという北海道に行くことに。そこで当時の光政のことを知る人々に話を聞く。智子は光政の妹ではなく、彼が北海道で知り合った女性で一時期はその母親も含め一緒に暮らしていた女性だった。

 恵子は敏行が一度は書いた殺人計画の手紙を実行に移したのねと話すが、ボブはその考えを否定する。パーティの時二人は敏行と紀子をしっかりと見張っていたが、敏行にはグラスに毒を盛るチャンスはなく、そのチャンスがあったのは紀子だけだったと話す。

 その頃紀子は病院で錯乱状態に陥っていた。紀子はあの時の夜、敏行がシャワーを浴びていた智子に言い寄られているのを目撃していた。錯乱した紀子は、敏行に許しを求める一方で、殺してやると叫んでいた。

 ボブは恵子に、紀子は智子を殺しその罪を敏行になすりつけるということをしたのだ、手紙も恵子が発見するだろうと考え、峰岸の前で話したのも、すべて紀子の命をかけた芝居だった、と話す。

 紀子は子供を産むが、その後なくなってしまう。麗子は紀子が死んだのはあなたのせいだと光政に話す。峰岸は敏行に紀子が死んだことを告げ、特別に葬儀に立ち会えるよう手配したと話す。葬儀場に峰岸に連れられた敏行が姿を見せる。そこへ大川が車でやってくるが、敏行はその車に乗って逃げる。そして車ごと崖から落ちて死んでしまう。

 海から引き上げられる車を見ながら、ボブ、恵子、峰岸が話す。峰岸は敏行は紀子が全てやったことを知った上で、罪をかぶって死んだ、それを手助けしたのが大川という女性で、彼女こそ敏行の妹だったのだろう、と話す。ボブは峰岸に全てを公表するかと尋ねる。峰岸は今さら公表したところで誰も救われないと答える。恵子は真実を知っているのは私たち3人だけと話すが、峰岸はもう一人いると言い、光政のことを見る。全てを知っていたから、事件の解明を拒もうとしたんだ、と。

 

 

 子供の頃に公開された映画で、タイトルだけは知っていたが今回が初見。エラリークイーン原作と知って観ることに。エラリークイーンといえば、北村薫さんが大好きな作家であり「ニッポン硬貨の謎」も読んだし、子供の頃「世界推理小説全集」みたいなヤツで「エジプト十字架の謎」とかを読んだ記憶もあるが、正直内容は良く覚えていない。

 本作は1979年公開。石坂金田一が1970年代後半に大ヒットしたのを受けて製作された作品なんだろうと想像がつく。日本の推理小説ではなく、外国の作品を日本を舞台にしたものに変えて映画化したのだろう。当時本作がどこまでヒットしたかはわからないが、約40年後の現在本作を観ると、なるほどと思わせてくれる作品に仕上がっている。

 

 「結婚式前に行方不明になる新郎」「その新郎が3年ぶりに戻って来て結婚」「新郎の妹が突然登場」「新郎が書いた殺人予告の手紙」とあの頃の推理小説の世界観そのままのようなエピソードが映画前半に次々と起こる。映画中盤は、その「殺人予告」の手紙の通り、新婦の命が狙われる事件が連続して発生。映画終盤、残り1時間を切ったあたりで殺人事件が。

 期待通りの展開で古い推理小説ファンを喜ばせる作品。子供の頃に観たかった、というのが正直な感想(笑 この歳になっての鑑賞だとどうしても登場人物の怪しさに気づいてしまい、真犯人もその狙いもわかってしまうのが残念。

 ラスト、ボブの語りや紀子の回想で全てが明かされるが、途中にあった伏線?めいたシーンがあまりに露骨すぎて、そうだろうなぁ、というものばかり。

 

 最後までよくわからなかったのは、新郎である敏行は、なぜ結婚式前に姿を消したのか。ここについては全く描かれていなかったがどうしてなのだろう。原作ではその辺りをキチンと説明しているのかしら。

 さらに敏行の気持ち。手紙を書いた時点では紀子を殺して財産を奪うつもりだったようだが、ラストでは紀子の罪をかぶって自殺。財産目当てで戻って来たのか、それが途中で気が変わったのか、よくわからない。ズバッと言ってしまえば、殺人予告の手紙を残していたのも推理小説として以外に理由があったのか(笑 というか、妻の殺人予告?をそうして妹に手紙で知らせなければいけなかったのか、全くよくわからない。

 

 北村薫さんがリスペクトするような作家なのだから、原作では上記したような疑問点はしっかりと明かされているのだろうなぁ。そこが上手く描けていれば、この映画も傑作となっただろうに。ラストの峰岸のセリフは、あまりに昔の日本の家族的なものであり、古さを感じられずにはいられなかったのが残念。