必死剣 鳥刺し

●153 必死剣 鳥刺し 2010

 海坂藩藩主の右京太夫と側室蓮子が能を見ていた。それが終わり引き上げる際に、兼見三左衛門は蓮子を刺し殺す。騒然とする中、兼見は静かに中老に身を預ける。

 兼見の処分について話し合いが行われるが、中老津田は斬首に反対をしていた。処分は1年の閉門及び減石だった。兼見は処分の軽さに驚くが、津田は殿の決定なので異議申し立てはならんと告げる。

 兼見は処分を静かに受け入れる。兼見の家に勤めていた夫婦を里に返すなどするが、姪の里尾が兼見の世話をする。里尾は死んだ兼見の妻睦江のことを思い出していた。睦江は病気で伏せがちだった。里尾は庭に畑を作ろうと言い出し、一人残った奉公女と一緒に畑作りに精を出す。

 過去の藩内のことが語られる。蓮子は藩の財政に口を出し、藩主に意見した勘定方の役人に切腹を申付けるなどしていた。また藩の御別家の帯屋が藩主に意見をしてきた際もその場に同席し、帯屋に意見するなどしていた。帯屋が意見したのは、年貢をきつくしその金で寺を再興させ、蓮子の身内がその寺を納めるということにだった。

 里尾は変わらず兼見の世話をしていた。兼見は木を削り鳥の彫刻を作っていた。それを見た里尾は兼見夫婦と3人で景色を見に行った際に、子供達がスズメを採ろうとしてのを兼見が見事な腕前で手伝ってやったことを思い出していた。それから間も無く睦江は亡くなった。

 1年が経ち、兼見の閉門は御免となった。兼見が風呂に入り、里尾はその背中を流す。皆が会いたがっていると話すが、兼見はしばらく人には会いたくない、藩内を見て歩きたいと話す。藩内を歩いている際に兼見は帯屋を見かける。兼見は、以前農民たちの直訴騒ぎを見事に抑えた帯屋のことを思い出していた。帯屋の言葉を信じ農民たちは騒ぎを納めたが、後日主犯格の農民は斬首され、それを知った帯屋は驚いていた。

 兼見は新しく出来た寺を訪れ、蓮子の墓に参っていた。そこへ以前蓮子に仕えており今は尼となった多恵が現れる。彼女は兼見に蓮子を殺めた理由を尋ねるが、兼見は答えずにその場を去る。

 2年後、兼見は石高が元に戻り、近習組となる。津田は未だ身内にも会わないことを殿が気に入った、蓮子のことは今では反省している、と話す。兼見は近習として勤め始めるが、殿は兼見の顔を見たくないと話す。兼見は津田に職を変えて欲しいと話すが、津田は兼見の剣の腕について話し始める。津田は兼見が剣の達人で必死剣鳥刺しの使い手であることを知っていた。最近帯屋が殿を狙っている、それを守って欲しいと話す。

 家に戻った兼見は里尾に嫁に行くように話すが、里尾はこのままそばに置いて欲しいと願う。その夜二人は結ばれる。翌日兼見は里尾に知り合いの村へ行くように話す。必ず迎えにきて欲しいと里尾は話し村へ向かう。

 城に帯屋が殿を訪ねてくる。その様子は尋常ではなかった。知らせを聞いた兼見は殿に隠れるように話し、帯屋を迎え撃つ。見事な剣さばきで帯屋を斬るが、それを見た津田は、兼見が乱心して帯屋を斬った、討ち取れ、と周りの者に話す。多勢との斬り合いになり、兼見は致命傷をおう。最期は津田の前で切られ絶命する。津田が兼見の死体の前で語りかけようとした際に、兼見の剣が走る…

 

 藤沢周平の隠し剣シリーズ三部作の一作ということだが、前2作「鬼の爪」と「武士の一分」は山田洋次監督だったが、これは映画会社も監督も異なる。で、その通りの作りになっている。

 山田作品は見終わった後に優しくあたたかい気持ちになれるが、この作品は虚しさしか残らない。必死剣そのものはスゴいものだったが、残酷な殺陣ばかりが印象に残るラストになってしまった。兼見と里尾の思いは映画冒頭からわかりやすかったが、あからさまに描く必要はあったのか。ラスト、村で待つ里尾が物語の悲しさを伝えるんだろうが、その前の残酷なシーンが台無しにしている感じ。

 帯屋との斬り合いはなかなか見せたのに。ちょっと残念な映画かな。