向田邦子シナリオⅢ 幸福 向田邦子

向田邦子シナリオⅢ 幸福 向田邦子

 向田さんのシナリオ集の中の一冊。1980年の放送されたTVドラマ「幸福」のシナリオ。もちろんドラマは見たことがない。でも配役が書いてあって、その俳優さんをイメージして本を読み進めた。

 登場人物の設定の旨さからもう凄い。兄弟と姉妹がいて、兄が姉と結婚寸前までいくけど、会社での昇進を狙っての政略結婚のため、姉を捨てる。でその姉と弟が一夜の過ちを犯す。でもって、弟は妹と付き合い始めるが… というのが大筋。兄弟には下に妹がいて、その妹と弟が一緒に暮らしていたり、姉妹の父が校長先生を辞めて今は飲み屋の女と一緒に暮らしていたり、と登場人物の設定を見ていくだけで面白さが感じられる。

 阿修羅のごとくのような短期集中でもなく、寺内貫太郎のような長期でもなく、1クールの13話で構成されている。現在に続くドラマの基本形のような作りだが、常に見せ場があって最後まで見続けてしまう作品。視聴率はあまりよくなかったようだが。

 寡黙な弟が本当は惚れている姉と結ばれるものだと思ってみていると、最後に別のクライマックスが来て、それを機会に弟の生き方が変わり、妹との結婚を決意する、というストーリー。昔見ていたら、なんだそれ、と思ったかもしれないが、向田さんお気に入りの1本だと知っていると、本当に書きたかったのは、幸福の意味?感じ方?なのだと理解できる。

 どの役の役者さんの演技も見たいが、何より姉妹の父であり、昔校長先生、辞めたら飲み屋のお姉さんと同居、でもボケが入って来てお姉さんにも捨てられる、という役を笠智衆さんがやっているところは是非見たい。どっかのローカル局でいいから再放送してくれないかなぁ。