心の旅路

●250 心の旅路 1942

 1918年秋、第一次世界大戦終戦間近、イギリス、メルブリッジ精神病院に一人の男が入院していた。彼は戦場での経験から記憶を失っていた。彼を息子かもしれないと訪ねてきた夫婦がいたが、彼と面会し息子でないことがわかる。病院から出たかった彼は失望する。そして散歩に出ると、終戦の知らせを聞いた病院従業員が飛び出してくる。彼もその後に続いて病院から抜け出す。

 街に着いた彼はメルブリッジの街を歩く。街は終戦を知った市民でごった返していた。騒ぎに嫌気がさした彼はタバコ屋に入る。しかし彼が上手く喋れないのを見た女主人が精神病院の患者だと気づき、連絡しようとする。偶然店に居合わせたポーラという女性が彼を店から連れ出す。そして酒場で酒を飲んだ後、別れようとするが、彼のことを心配したポーラは自分が出るショーを見にくるように誘う。

 楽屋で二人は話をする。ポーラは男が記憶喪失であることを聞く。彼はスミスだと名乗り、ポーラはスミシーと呼ぶようになる。ポーラはショーに出るが、その間にスミシーは倒れてしまう。ポーラはスミシーを看病するが、彼は病院には戻りたくないとうわ言を言う。ポーラはマネジャーのサムに話をしてスミシーを一緒に旅に連れて行くことにする。

 一座が出発する時間になる。その時店に病院の従業員がやってきて、患者が脱走したこと、彼を探していることを話す。それを聞いたサムはスミシーを連れて行くことはできないとポーラに話し、彼女はそのことをスミシーに話す。しかし彼の様子を見て、ポーラは一座を辞め、田舎に行きスミシーの治療をすることを決める。

 デボンに着いた彼らはそこで暮らし始める。スミシーは自分が書いた原稿が売れたことで自信をつけ、ポーラに結婚を申し込む。そして新しい家で暮らし始める。そして子供も生まれる。スミシーは子供におもちゃを、ポーラにネックレスをプレゼントする。その時電報が来る。それはリバプールの新聞社からで、スミシーを採用するというものだった。翌日スミシーはリバプールに出発する。

 リバプールに着いたスミシーは新聞社へ行こうとするが、途中で交通事故にあってしまう。幸い怪我はなかったが、彼は過去の記憶を取り戻し、その代わりに記憶喪失になっていた3年間の期間のことはすっかり忘れてしまう。

 記憶を取り戻した彼は自分がなぜリバプールにいるかもわからなかった。彼は家に帰ることに。彼の本名はチャールズといい、富豪レイニア家の息子だった。彼は3年ぶりに家に帰ることに。家では父親が亡くなったばかりで、他の兄弟やその奥さんたちが、このタイミングで帰ってきたチャールズを不審に思う中、姪で15歳のキティーは会ったことのない叔父チャールズに興味津々だった。チャールズは親族に3年間記憶喪失だったこと、この間のことは全く覚えていないことを話す。チャールズに会ったキティーは一目で彼のことが気に入理、頻繁に手紙を交換することに。

 遺言で屋敷を譲り受けたチャールズだったが、事業も受け継ぐことになる。そして年月が経ち、キティーは大人になり、チャールズは「イギリス工業界のプリンス」と呼ばれるまでになる。

 チャールズはキティーと食事をし、彼女と結婚の約束をする。

 ポーラはマーガレットと名乗り、チャールズの秘書となっていた。彼女はチャールズからキティーと結婚する話を聞き、事情を打ち明けてある医師に相談をする。そして夫スミシーの法的死亡の手続きをする。

 チャールズはスミシーとの結婚話を進める。式での賛美歌を決めるために教会を訪れるが、そこで賛美歌を聞いた彼は呆然となる。そんな彼を見たキティーは彼には忘れられない女性がいることに改めて気づき、結婚を取りやめる。

 チャールズが行方がわからなくなる。マーガレットは執事からチャールズがリバプールに行ったのではないかと聞き、行方不明から戻った時のことを尋ねる。そしてリバプールに行き、チャールズと会う。彼は失った記憶を取り戻そうとしていた。マーガレットは色々とヒントとなることを話し、チャールズが12年前に泊まったホテルの忘れ物を探しに行く。しかしその時の荷物を見ても、チャールズは何も思い出さなかった。

 チャールズは自由党に要望され、選挙に出て議員となる。当選した日に彼はマーガレトに結婚を申し込む。しかしそれは仕事の補佐としての役割を重視したもので、感情的なものではないと話す。そして彼女は結婚を承諾する。

 しばらくして。チャールズは叙勲する。首相も招いた夫妻主催の晩餐会の夜、それは二人の3年目の結婚記念日だった。二人は深夜に会話をし、マーガレットは昔彼からもらったネックレスを彼に見せるが、それでも彼の記憶は戻らなかった。彼女は旅行をしたいと彼に申し出る。

 旅立つマーガレットを見送ったチャールズは、ストライキ騒ぎが起きているメルブリッジの工場へ出向く。そしてストライキを解決、メルブリッジの街を歩く。そこでタバコを切らした彼は、タバコ屋に出向く。同行していた人間から、この地は初めてではないのか、なぜタバコ屋があそこにあることを知っているのか、と聞かれ、自分が記憶をなくしていた期間にこの場所にいたことを思い出して行く。

 マーガレットはデボンでスミシーと泊まったホテルに来ていた。そこで女主人から、先代の女主人や牧師のことを聞きに来た紳士の話を聞き、彼が以前借りていた家を探しに行ったと聞く。そして二人は一緒に暮らした家で出会い、スミシーは記憶を取り戻す。

 

 この映画の番宣?で、「メロドラマ」というフレーズが使われており、あぁ80年前のメロドラマか、とナメてかかって観ていたが、見事に裏切られた(笑

 伏線がスゴい。最初にポーラがスミシーを連れて入る酒場で主人が語る武勇伝、病院を抜け出したスミシーがなぜか歩く工場、二人が暮らす家に初めて訪れた時に鳴る庭木戸の音、リバプールに行く際に持つラベルだらけの旅行カバン、そして、出かけるスミシーにポーラが声をかけて確認させる家の鍵。これが全て見事に回収される。

 さらに驚いたのは、スミシーがこれで記憶を取り戻すだろうと思わせるシーンがこれでもか、と連打されるのに、全く記憶を取り戻す気配がないところ(笑 これだけ観客をイライラさせるのは、この時代には珍しいのでは?というか、観たことはないが、日本の昔の「君の名は」はこのイライラ感をモデルにしたのでは、と思わせるぐらい。

 それでも正体を明かさないポーラもスゴい。この慎ましさったらない。今の時代では考えられない、というか今の映画でこれをやったら、あり得ないと言われるだろうが、そこは80年前だから許されるんだろうなぁ。

 でも個人的に一番見入ったのは、本線から全く外れるが、キティーがチャールズの本心に気づき身を引くシーン。呆然とするチャールズとその顔を見て気づくキティー。セリフなしで顔の表情だけで、心の変化を見せてくれる。これはマイッタ。

 もう一つ。原題「Random Harvest」はどんな意味なんだろう?直訳は「なりゆきまかせの結果」?で良いのかなぁ。だとすると、ポーラが自身の気持ちを出さずに、チャールズの記憶が戻るのを待ったことを指しているのかしら?よくわからん。

 Yahoo映画の評価が4点をはるかにオーバーしているのも十分納得できる。久しぶりに「メロドラマ」の傑作を観た気がする。