梅雨ノ蝶 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

●梅雨ノ蝶 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

 磐音シリーズ第19作。季節は初夏。佐渡からの無宿者五人組逃げ出し情報と砂糖漬嵯峨一放火と番頭殺し、佐々木(尚武館)道場後継の件と磐音強襲され怪我、庚申の仲蔵一味の続報と若狭小浜藩篠田多助との稽古、尚武館道場杮落とし大試合準備、大試合と庚申の仲蔵一味今津屋襲撃事件。

 前作で今後のシリーズの展開を少し心配したが、今作でまた大きなイベントが発生。佐々木道場が改築され、尚武館と名を変え、杮落としの大会が開かれることに。今作はこの道場改築と試合が大きなテーマとなった。

 もう一つの大きな話は、尚武館の後継問題。前作で師範鐘四郎が用紙に行くことが決まり、師範枠が空くことになった。その後釜に磐音が…と予想していたら、玲圓から後継を頼まれる。おこんとの結婚後の磐音の生活と考えるとなるほど、となるがこの展開は予想していなかった。前作の師範の結婚話はこのための伏線だったか。

 この2つの話も大きな出来事だったが、さらにそれを上回る出来事が。それが磐音が急襲され怪我を負うという事件。命に別条はない、という怪我だったが、シリーズこれまでの18作で一度として負けたこともなければ、傷すら負ったことのない磐音が初めて敵にやられ怪我までする、という大事件。

 事件後磐音は自らの足で今津屋までたどり着くが、そこからが大騒ぎ。しかしこれまでで得た仲間が磐音を助けてくれる。おこんも弱いところを見せ、このシリーズとしては珍しいちょっと泣ける話になっている。

 怪我を負わせた相手とは最終5章で仇を討つが、城内に磐音のことをよく思っていない人間がいることをほのめかすも、その正体は不明のまま。これは次作が楽しみになる展開。