12人の優しい日本人

●290 12人の優しい日本人 1991

 ある裁判の陪審員として12人が集められ、判決の会議が始まる。早速決が取られ、全員一致で無罪とする。しかし1人がもう少し話し合いましょうと言いだし、その1人が有罪に票を入れる。

 彼は無罪を主張する11名にその理由を尋ねる。そして被告の行為が正当防衛かどうか、殺意があったかどうかで議論になる。しかし1人がどうせ執行猶予になるのだから無罪とすれば良いとの提案があり、再度決を採ることに。そこで11対1ならばこの判決で決めるとなったが、別の1人が議論をもう少ししようと言いだし、有罪に1票を入れ、結果有罪が2人となり、議論は続くことに。

 新たな1人が、有罪の理由として正当防衛が成り立たないと言い出す。その議論の中で最初に有罪を言い出した1名が、現場の位置関係などから、被告には計画殺人の可能性もある、と言い出す。そこで3人目の陪審員が有罪に意見を変えるが、2人目が無罪に主張を戻す。2対10での議論が続く。

 無罪を主張する1人が、被告の人間性を表すものとして、被害者に会いに家を出る際に子供にピザを取っていたことを言い出す。それを受けて2人目が意見を有罪に戻す。やはり計画性があるという理由で。これを受けての決が採られ、6対6となる。

 無罪を主張する中の5名が作戦会議を開くが、5名の中でも意見が分かれてしまう。うち1人が再開された会議の中で、自分と被害者との人生について語り出し、愚痴を聞く場ではないと諌められる。またも決が採られ、無罪は3人となる(愚痴を言った1名を除く。

 意外にも陪審長が無罪の主張を続けていたため、最初の1人がその理由を問う。彼は以前陪審員をしたことがあり、その時に出した有罪判決がトラウマになっていた。この話を受け、傷害致死罪で有罪にする提案がなされ、また決を採る。すると有罪11、無罪1となる。1人のオジさんだけが無罪を主張する。オジさんが皆の説得も受けずにいると、オバさんも主張を覆し、無罪を主張、結果2対10となる。

 そこで評決不一致の申し出がなされ、過半数の同意で決定されるが、同意したのは5人だった。そして2人の無罪主張に1人が加担する。

 加担した1人がピザの注文が計画殺人の証明となった点を問いただし、ピザは被告が食べるつもりだったと主張、ピザの出前でそれを確かめることに。さらにオバさんが事件の証言3つ(トラックの運転手、通りすがりのおばちゃん、被告)についての食い違いを指摘。そこから、証言の食い違いや被告が発した言葉などから計画殺人の可能性が低くなる。さらに、犯行時の状況を再現し、トラックの運転手が嘘をついていた可能性を示唆する。そこにピザが届き、その大きさから5歳の子供1人で食べきれる量でないことが明白となる。そこで決が採られ、無罪11対有罪1となり、最初の状態に戻る。

 最初から有罪を主張していた1人が、被告は有罪なのだと主張を繰り返すが、裁かれているのはアナタの奥さんではない、と言われ、会議は終了する。

 

 三谷幸喜の名前を有名にした1作(だと思う)。オリジナルはハリウッドの映画でそれのパロディとも言えるが、十分に見応えのある1本。元々が舞台なので、固定の場面での会話劇とも言えるが、全く飽きさせない。

 裁判の対象となった事件の内容が、様々なセリフでだんだんとわかってくる上手さ。12人いる陪審員それぞれに個性があり、しかしその特性上名前では誰1人呼ばれていない上手さ。オリジナルが無罪有罪の逆転劇だったのに対し、こちらは議論の末に最初と同じ票数に戻るが、その意味合いが全く異なることの上手さ。最後に、トヨエツにアナタの奥さんを裁いているんじゃない、と言われ、その一言で諦めるという潔さは、三谷幸喜が好きなコロンボの犯人像を彷彿とさせる。

 三谷幸喜の作品は面白いものが多いが、やはりベストはこの1本かな。