空蝉ノ念 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

●空蝉ノ念 居眠り磐音江戸双紙 佐伯泰英

 磐音シリーズ第45作。季節は引き続き春。河股新三郎道場に、お杏江戸へ、お杏松平家訪問と番太一造の活躍、道場での辰平お杏祝いの席、松平定信邸動向と河股新三郎との戦い。

 前作で田沼一派に拉致されてしまった辰平が本作でも中心となる。福岡箱崎屋次郎平が娘お杏を連れ江戸にやって来る。前作まで辰平が婿入りを強要されたらどうするかと皆が心配していたが、次郎平は全くそのような考えは持っておらず、さらに福岡藩での仕官話まで持ち上がる。もちろん利次郎の時と同様、辰平も磐音たちが田沼一派との争いに決着がつくまでは、という断りを入れる。

 一方ここに来て田沼一派とは関わりのない剣豪がまた登場。河股新三郎、肱砕き新三と異名をとった古剣豪だが、すでに高齢で病にもかかっている。今更感のある感じだったが、最終章でその登場理由が明かされる。意外性はあったが、必然性はあまりなかったような(笑

 一番の見せ場は、おこんの父金兵衛の言葉か。若い者を巻き込んで田沼父子を退治したところでその先どんなことが待ってるんだ、という言葉。この突然金兵衛が発する言葉が重い。史実との兼ね合いもあるだろうが、このセリフを磐音に言うことができる人物は金兵衛しかいない。登場人物たちそれぞれに見せ場がある中、金兵衛がさすがの一言か。

 松平定信周りが慌ただしくなる最終章。1784年3月23日で幕を閉じる。いよいよ次作で大事件が起きる、はず。