いのちの朝

●396 いのちの朝 1961

 武者小路実篤の「」を原作とした映画。話の流れは「暁」とほぼ同じであるが、映画だからなのか、微妙に異なる点もある。以下原作との相違点。

 ・冬子は春子の夫が勤める保険会社で働いている

 ・映画冒頭から沢辺の名前が登場、春子の夫が冬子にその帰京を伝えている

 ・小次郎の個展に村野の協力があることが最初から小次郎に伝わっている

 ・村野が百号の絵を描く小次郎の家を訪れた際、沢辺の絵を持参し小次郎に見せる

  それを観た小次郎は沢辺のことを許さない

 ・沢辺を許さない父を見た冬子はモデルとして表情が上手くできない

  それを見た小次郎は百号の絵を破ってしまう

 ・沢辺は絵が認められ外国へ旅立ってしまう

 

 実篤の作品が映像化されたものは初めて観た。上記した原作との違いに少し違和感もあるが、小説とは異なり、映画は一定時間の中で全てを見せなくてはいけないので仕方ないか。実篤ワールドが上手く表現されていたと思う。「暁」で書いた「絵を題材にする難しさ」も映画のため少し緩和されていた感じがする。

 しかし芦川いづみさんは美しい。実篤の世界のヒロインにきっちりハマっている。

 父親の宇野重吉さんの画家は、どうしても「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」の池ノ内青観を、そして岡田嘉子さんとのシリーズ屈指のあの名場面を思い出してしまう。そう言えば「夕焼け小焼け」にも佐野浅夫さんが悪い役で出ていたなぁ。

 願いが叶うなら、学生の頃に読んだ実篤のベタベタな恋愛モノを映像化したものを観てみたい。今の時代には観る人もいず、それは無理だろうけど(笑