神の悪手 芦沢央

●神の悪手 芦沢央

 将棋に関する5編のミステリ短編集。ネットで話題になっていたので読んでみた。

 

 「将棋に関する」ミステリではあるが、棋士とミステリなどという普通の設定ではない。一風変わった場面で起きるミステリと言える。

 各話の設定などは以下の通り。

 

弱い者」〜被災地で少女相手に指導対局をした棋士が気付いた事実
「神の悪手」〜奨励会リーグ戦最終日前日に起きた事件
「ミイラ」〜詰将棋雑誌に送られてきたルール無視の詰将棋の作品
「盤上の糸」〜事故により視覚失認を起こした棋士
「恩返し」〜将棋タイトル戦で使用される駒の候補となった駒師

 

 将棋に関してはずっと「観る将」だったので、どの話の設定もそれなりに理解できているつもりだが、どれも小説の舞台になったものは見たことがない。プロ棋士の世界が将棋の世界の中心だとすれば、これらの小説はその世界の中心からは少し外れた場所にあるものばかり。それでも将棋の世界にはしっかりと存在しているものでもある。

 このような舞台設定を選んだ著者のセンスに脱帽するし、それがしっかりとミステリになっているのも驚きだし、そのレベルも非常に高い。そりゃネットで話題になるわけだ。

 

 著者の他の作品も読んでみたいが、著者は将棋の世界をもっと書いてみたいと言っているようなので、そちらの作品を待ってみたい気もする。