●塗りつぶした顔 戸板康二
戸板康二氏による中村雅楽シリーズではない推理小説短編集。以下の9編からなる。
稚児鎧
郷土館で起きた宝石盗難事件を捜査する刑事と客としてきていた婦人の独白
箱庭の雨
父を亡くした娘が父が隠し続けた親族との関係の謎に迫る
明治村の時計
大学教授が男女の学生の出生にまつわる謎を解き明かそうとするが…
一度見た顔
一度見た顔を忘れない女性が人気女優の失踪事件に巻き込まれる
目ざとい少年
伯父と住む少年が向かいの家で起きた殺人事件の謎に迫る
バイエルの8番
作家が盗作をしたことを師匠に知られ殺してしまうが、被害者の娘が真相に迫る
社長室のパンダ
社長室のパンダの人形を持ち帰った女性がパンダを盗まれた理由とは
塗りつぶした顔
古い写真を探していた主人公がその写真から7年前に死んだ伯父の死の真相を知る
団地午後3時
セールスマンを誘惑しようとした女性、後にそのサラリーマンが事件を起こす
中村雅楽シリーズではないため、各話で登場人物が異なる。解説にも書かれているが、不思議と若い女性が主人公の話が多いのが特徴か。また「日常の謎」系が多かった中村雅楽シリーズに比べ、本作では殺人が絡む話が多いのも本作の特徴かもしれない。
殺人が絡まない「日常の謎」系の話の方が断然面白かった。特に冒頭の「稚児鎧」はストーリーの中で事件が解決するわけではなく、それでいて読者のみが真相を知る、という珍しい形になっていて驚いてしまった。また「明治村の時計」も昔の事実を調べ上げていく主人公?の大学教授の捜査?が面白く、それでいて真相はその推理とは異なる結果だったのも面白い。ラストの「団地午後3時」はちょっとドキッとする話。団地と奥さんという「昭和」な組み合わせだが、実際にこんな話もあったんだろうと思わせるストーリーだった。
ブックオフで偶然見つけた一冊だったが、久しぶりの戸板康二さん、十分堪能させていただきました。