痛快 山本周五郎テーマ・コレクション 山本周五郎

●痛快 山本周五郎テーマ・コレクション 山本周五郎

 山本周五郎の小説の中から、「痛快」をテーマにしたものを縄田一男氏が選んだ短編集。以下の7編からなる。

 

「ひやめし物語」

 柴山家四男の大四郎は古書好きでおおらかな性格。好きな女ができたが、四男ではどうしようもなかったが、意外な出世をしていくことに。

 

「新説吝嗇記」

 飛田門太(とんだもんた)は吝嗇で知られる甥、鑓田宮内(やりたくない)から金を借りることでなんとか生活していたが、甥が結婚をすることになりそれまでの借金を甥の妻が要求してくる。困った門太だったが、甥が急死してしまい…

 

「おしゃべり物語」

 饒舌で知られる宗兵衛が城に上がることとなり、藩内の揉め事を解決していく。

 

「わたくしです物語」

 忠平孝之介は江戸への使者の役目を終え帰国した際、婚約を破棄、仕事も務まらないと言い出す。さらに藩内で起きた事件を全て自分がやったと言い出す。彼の面倒を見ていた茂平は驚くが、後に真相が明かされる。

 

「百足ちがい」

 秋成又四郎は住職の教えで何事にも慎重に対応する。あまりに対応が遅いため、一足違い、ではなく百足ちがいと言われてしまう。彼は5年ぶりに帰国し古い友人たちを訪ねるが…

 

「貧窮問答」

 又平は内藤孝之進の家へ中間として出向くことに。金のない孝之進の代わりに金を用立てる又平。1日限りの約束だったが、孝之進ことが気に入った又平はその後も通うことに。金を巡って妻と諍いを起こした又平、孝之進の妻からも文句を言われた彼の取った行動は…

 

「しゅるしゅる」

 藩内で娘たちの教育をする老女尾上の指導方法に不満が出て、由良万之助は尾上に意見することを求められる。躊躇する由良だったが、ある日料亭で尾上と相対することに。由良は強気な尾上を懲らしめようと船遊びを一緒にするが…

 

 「痛快」がテーマの一冊だったが、カタルシスを感じる話がそんなに多くはない。むしろ意外な結末、という感じの話が多い。もちろん、意外といっても悪い方ではなく、良い方の結末、ということだが。

 解説に書かれているが、ここに挙げられたような作品は「滑稽話」として若干批判されていた時期もあったらしい。しかしこれも解説に書かれているように、本作に納められた作品は、ちょっと変わった人物が主人公で、その普通ではない生き方を礼賛しているように思える。

 

 それにしても、「新説吝嗇記」の門太や「貧窮問答」の孝之進は、私が大好きな「あだこ」の主人公を思い出させるダメっぷり。逆に言えば、こんな風でもなんとか生きていける時代だったんだろうなぁとちょっと羨ましくもある。

 

 蛇足。「しゅるしゅる」に出てくる老女尾上。「老女」とあるので、年老いた女性だと思って読んでいたが、そうではないとわかってくる。疑問に思って調べたら、「老女」は侍女の筆頭を表す言葉だったのね。勉強になりました。