かくしごと承ります。 ~筆耕士・相原文緒と六つの秘密~ 十三湊

かくしごと承ります。 ~筆耕士・相原文緒と六つの秘密~ 十三湊

 相原文緒の仕事は筆耕士。幼い頃から憧れている都築のもとで仕事をしている。文緒は書かれた文字をなぞることで、書いた人間の気持ちを読み取れるという特殊な能力を持っている。そんな文緒が仕事をしていく中で謎を解いていく短編集。以下の6編からなる。

 

 

「故人に触れるお品書き」

 和菓子屋から商品の名前の筆耕を頼まれた文緒。打ち合わせをしていた際に店主の義母の書いた文字を見せられた文緒はあることに気づく。

 

「百年のちの命名書」

 文緒は子供を産んだばかりの美郷から命名書(誕生からお宮参りまで飾る)の依頼を受けるがその後、美郷から曽祖父の日記に書かれた謎について相談される。曽祖父の謎を解いた文緒は美郷に込められた想いにも気づく。

 

「つながる秘密の暗号文」

 文緒の幼馴染で今は頼朝役で活躍している流星から、ファンからのアンケートに書かれた漢字ばかりのメッセージが読めないと相談を受ける。それが暗号であることに気づいた文緒は、流星に内容を知らせ、代わりに返事を書くが。

 

「青ひげ氏、五度めの招待状」

 文緒は高校時代の同級生夏野から結婚するという連絡を受け、結婚式の招待状の筆耕を頼まれる。文緒は相手の名前神定主税の名前に覚えがあった。彼の結婚は文緒が知るだけで3回目だった。不安を感じた文緒は夏野に事実を告げるが。

 

「だれかのための嘆願書」

 文緒に告発文の代筆の筆耕が依頼される。それを書いた文緒は学生時代、先生だった続きが巻き込まれたある事件のことを思い出す。女子学生の嘘の訴えにより窮地にあった続きを救うために文緒は告発文を匿名で書いていたのだった。しかし続きはそのことに気づいていた。その後、文緒の元に事件の主、若村彌生からメールが届く。

 

「彼女とわたしのラブレター」

 彌生からのメールのことを文緒は都築に黙っていた。宛名書きの仕事の依頼を受けた文緒だったが、その相手は彌生だった。文緒は全てを都築に打ち明けることに。都築は彌生に警告文を送ることに。

 

 「ちどり亭」シリーズが面白かったので、同じ作者の本を読んでみた。

 「筆耕」という仕事は初めて知った。確かに賞状や案内状、見事な文字で書かれているもんなぁ。こんな仕事もあるんだなぁ、というのが正直な感想。

 文字に対する想い、というのが新鮮。それでも2話目の子供の名前に対する想いはよくわかる。誰しもが一度は考えたことではないだろうか。

 文字にまつわる謎がテーマの短編集だが、最終話に向けた伏線がチラホラ置かれており、主人公文緒の続きに対する想いも伏線になっている。ラス前でその伏線が明らかにされ、最終話で見事に回収されるという展開は、いかにもこの作者らしい見事なもの。

 「ちどり亭」が主人公の恋をシリーズ最後で見事にまとめたのに対し、この作品は最終話で読者を「悶々とさせる」終わり方(笑 現時点で続編は出ていないようで、このままシリーズ化されないのか大変気になるところ。テーマが筆耕という難しいテーマだけに続編は難しいのか、それともこのような「悶々とさせる」終わり方が最初から狙いだったのか。どちらにしてもちょっと面白い一冊でした。