計略の猫 新・大江戸定年組 風野真知雄

●計略の猫 新・大江戸定年組 風野真知雄

 大江戸定年組シリーズの第8作にして、13年ぶりに刊行された新シリーズ第1作。

 町方同心の藤村慎三郎、三千五百石の旗本夏木忠継、町人の七福仁佐衛門はそれぞれ隠居をし、息子に家督を譲った。仲の良い3人は景色の良い家を探し、そこを「初秋亭」と名付け、隠れ家とすることに。しかしただ景色を観ているだけでは飽き足らず、様々な厄介事を解決するために奔走し始める。以下の4編からなる。

 

「予感の鯰」

 料亭千島屋の主人桃右衛門が初秋亭にやってきて、店の池に突如ナマズが現れたと言う。店のものの仕業ではなく理由がわからない桃右衛門は夏木に調査を依頼する。初秋亭の3人は店に行き、大工の棟梁、武家の奥方、洒落者の町人のような3人組の客を目にする。また、初秋亭に富沢虎山という老人がやってきて仲間にして欲しいと頼む。その富沢とまた千島屋に行った際に、同じ料亭の千両亭の主人夫婦が客としてきているのを目撃する。千両亭は千島屋と瓜二つの店を作っていた。仁左衛門は3人組がナマズの件で怪しいと睨み、彼らの隣の席に座り、3人の様子を見ていると、ナマズが池に放された理由が判明する。一方、千両亭夫婦の企みも明らかになる。

 

「計略の猫」

 初秋亭に隠居している藤兵衛がやってきて、飼っている猫がすり替わっていると相談に来る。猫探し担当の夏木と藤村が藤兵衛の家に行き猫を見せてもらうが、すり替えられた理由など全くわからなかった。しばらくして藤兵衛が、猫が戻ってきたと話に来る。さらに翌日、ニセモノの猫がまた現れたと言ってくる。夏木たちは猫を見に行くが、藤兵衛の家に飾ってあった絵に飼い猫そっくりの猫の絵が描いてあることを知り、ニセ猫騒動の理由を思いつく。

 夏木の息子洋蔵が京都から戻って来る。洋蔵は京都の建仁寺で父のことを知っている坊さんと出会ったと話すが、夏木は建仁寺などに行ったことはなかった。藤村はその坊さんの見た目を聞き、それが鮫蔵であると気づく。

 

「怨恨の石」

 金物屋多兵衛が初秋亭にやってきて、趣味の石集めに関して、店子の雉平が持っている珍しい石を手に入れたいと相談に来る。仁左衛門は雉平に会いに行きその石を見せてもらうが、雉平は多兵衛からの以来だと見抜いてしまう。後日、富沢と一緒にもう一度石を見に行くが、富沢はその石が人間の腹の中でできる石ではないかと話す。雉平は石を武家屋敷の門前で拾ったと話す。その武家屋敷は黒旗家であり、黒旗家のことを調べるうちに、坂井喜十郎が門前で腹を切ったこと、その坂井の娘千佳が黒旗家に奉公に上がっていること、その理由が黒旗家による陰謀だったこと、がわかってくる。

 藤村は黒旗に会いに行き千佳を返すよう、さらに企みを知っていると話す。黒旗は屋敷に戻り、配下の者が坂井の娘を引き込むために一芝居打ったことを知る。藤村たちは千佳に全てを打ち明けるが、坂井の遺体はすでにないものと思われた。藤村たちは例の石のことを思い出し、雉平に話をしに行く。

 

「疑惑の橋」

 夏木は水茶屋で一休みをしていた。茶屋の看板娘おまさから、不思議な客について相談を受ける。その客は必ず店に忘れ物をして、帰ってすぐに引き返して来るとのことだった。夏木たちはその客を見張ることに。客は忘れ物を取って返すと橋の上で若い女性にそれを密かに渡していた。客は京帯采女屋の若旦那であり、女性は帯屋立川屋の娘だった。藤村たちは、采女屋のことを棚倉屋五次郎に調べさせる。そして若旦那の狙いが京都で流行っている帯を立川屋に教えているということに気づく。藤村たちは采女屋に話をしに行くが…。

 

 前作はシリーズを通して描かれていたげむげむとの決着が着き、鮫蔵も旅立ってしまうラストだった。前作の発行が2008年、本作はそれから13年ぶりの新刊であり、新シリーズと銘打たれている。

 内容は前シリーズと何も変わらず、小説の中の年月もあまり経過していない。ほぼそのまんま、という感じ。

 事件は「料亭の池に突如現れたナマズ」「飼い猫がニセモノにすり替わり」「珍しい石」「忘れ物をして引き返して来る客」。例によって「日常の謎系」であるが、まるでホームズもののような不思議な謎ばかりである。通算8作目ということもあり、謎の方もだいぶ面白く仕上がっている。

 サブエピソードの方は結構満載。仁左衛門地震の夢を見てそれを正夢だと思い避難を考える件、それがきっかけで仁左衛門とかな女が親しくなって行く件、夏木の息子洋蔵が京都から戻って来る件、その京都で鮫蔵と出会っていた件、夏木の別の息子が町奉行になることを打診された件。妻たちの店「早春工房」が2軒目の店を出す件、など。

 これらだけで十分お腹いっぱいなのだが、最終章のラストで、藤村が吐血してしまう。最終章のラストで新たな大きな事件が起きるのは、このシリーズの定番だが、それにしても3人の中でも事実上の主役とも思える藤村が吐血、とは。彼ら3人の年齢を考えると13年ぶりの新シリーズなのに、いきなりクライマックスを迎えた感じ。

 こんな終わり方をされたら、次回作を早く読まないわけにはいかないよなぁ(笑