●弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇3 喜多みどり
夫婦となったユウと千春はくま弁を営んでいた。会社を退職した雪緒がくま弁を訪れバイト募集の紙を見て応募、宅配を主に受け持つことになる。新たにくま弁の一員となった雪緒がくま弁で働く姿を描く短編集、シリーズ第9作、新シリーズ3作目。以下の4編からなる。
「友情の塩レモンタルト」
雪緒は以前くま弁で一緒に働いていた桂が働く店、パティスリーミツに配達に行く。店の外装に何かをしようとしていた男を見かける。そのことを桂に話した雪緒はその後、その男タモツから声をかけられる。タモツは桂の先輩だった。雪緒は桂から相談を受ける。桂がタルトを試作しタモツに食べてもらうが、それは分量を間違えた失敗作だった。しかしタモツはそれを美味しいと評価したことに桂は怒っていた。その後、キチンと作ったタルトも食べてもらうが、やはりタモツは前のものが美味しかったと話す。
雪緒はタモツが美味しいと言った理由を推理する。
「貴女と作る馴れ初め弁当」
千春とユウの結婚から1年が経過、その結婚記念日にくま弁の仲間たちでパーティをすることになる。黒川が幹事を勤めることとなり、雪緒も手助けをする。ユウが千春へのサプライズを考えることになり、会場でそれが明かされる。
「誰そ彼時のフクロウ弁当」
雪緒はSNSでowlを名乗る相手とメッセージのやり取りをしていた。ある日、そのowlからのメッセージに「くま弁」の名前があり、雪緒は驚く。owlからのメッセージが最近変わってきたこともあり、千春に相談する。メッセージの内容から、くま弁の客だと推測、その相手は、粕井だとわかる。雪緒は粕井に連絡を取り、一部のメッセージが粕井の甥直武が書いたことが判明する。
この事件のため粕井はくま弁に来なくなってしまう。雪緒はスーパーで偶然直武と出会ったことをきっかけに彼にあるアドバイスをする。直武は粕井にメッセージのなりすましをした理由を正直に話す。粕井をそれを聞いて雪緒にメッセージを送る。
「秋味いくら親子弁当」
雪緒は弟薫から、両親が雪緒のため親同士の婚活パーティに参加していることを聞く。雪緒は実家に行き両親と話すが、婚活だけではなく再就職のことまで言われ閉口してしまう。薫がくま弁のことを持ち出し、一度食べてみるといいと両親に話す。
雪緒は千春に相談、両親のために弁当を作ってもらうことに。円山公園で家族4人でくま弁の弁当を食べようとするが、両親は弁当をそっちのけでまたも婚活や再就職の話をしだす。雪緒は弁当を置きくま弁へ帰ってしまう。薫の機転で両親はくま弁へ。そこには薫に頼まれた雉村や粕井がいた。彼らは雪緒の両親に彼女の働きぶりを説明する。
新シリーズの3作目となった。前作でも書いたが、新シリーズは1冊ごとにテーマがあるように思える。1作目が仕事への思い、前作2作目が過去が現在に与えている影響、だとすると、本作はズバリ結婚、だろう。1話目だけは異なるが、2話目以降はどの話も「結婚」を意識せざるを得ない話になっている。
2話目は、千春とユウの結婚パーティ。ただし式から1年が経過している。シリーズ6作目で無事二人が結婚までこぎつけるところまでは描かれていたが、その続編の新シリーズ1作目でありシリーズ7作目では、いきなりそこから時間が経過しており、二人の結婚式などは全く描かれていなかった。 新シリーズとなり、千春とユウはサブキャラ的な扱いになってしまっていたが、久しぶりに話の主役となり、シリーズのファンとしては嬉しいところ。
3話目はまさに現代的な話で、雪緒がSNSで知り合ったowlの話。しかもそれがリアルな世界とつながるというオチがつく。そしてその相手owlこと粕井と雪緒の仲が急接近して行く。
で4話目。以前にも少し話に出てきたが、雪緒の両親が登場。そのダメ親っぷりがスゴい(笑 新シリーズ1作目にも書いたが、新シリーズでは、キツイ内容が多めとなっているが、この話に登場する雪緒の両親は、雉村や元同僚鷹森などを超える不愉快キャラ。話が通じないというのはこういうことかと思い知らされる。
そんな中で雪緒が気づく「分かり合う」と「分かち合う」の違い。私にも年頃の娘がいるので、これは教訓にしたい(笑
さて新シリーズも少し煮詰まってきた感じ。続編が楽しみ。