天河伝説殺人事件

●590 天河伝説殺人事件 1991

 冒頭、同時期に起きた3つの事柄が描かれる。新宿高層ビルで男が死亡。奈良天川村での男女の逢い引き。ルポライター浅見光彦が密漁を疑われ警官に拘束されたのを女性に助けてもらう。

 新宿で亡くなったのは、京都の能衣装会社に勤める川島。死因は毒殺で彼が天河神社の五十鈴を持っていたため、仙波警部補が天川村へ捜査に向かう。浅見は能に関する記事を依頼され再び天川村へ。天川村で会っていた女性は、薪能の夜に出会った男女は結ばれないと周りに言われてしまう。男性は水上家の跡取りと目される和鷹だった。

 能に関する取材を始めた浅見は、天河神社で雨降の面を見せてもらう。その面は近く行われる水上家追善能で宗家水上和憲がつけるはずだとも。その水上家は跡取り問題で揺れていた。宗家の孫であり男性の和鷹と女性の秀美。水上家の長老高崎は和鷹を、母奈津は秀美を推していたが、和鷹は奈津の子供ではなく結婚前に他の女性が産んだ子供だった。

 高崎が殺される。浅見は最後に高崎に会っていたのを仙波警部補に目撃されており誤認逮捕されてしまうが、アリバイがあり釈放される。浅見はそれを知った秀美から高崎の死について調べて欲しいと言われる。仙波たちの捜査で、新宿で殺された川島が高崎と会っていたことが判明する。

 追悼能が行われる。道成寺の演目の最中、鐘が引き上げられると中にいた宗家が死んでいた。皆が驚くが、面を外してみるとそれは宗家ではなく、和鷹だった。宗家は後継とするため和鷹に道成寺を舞わせていたのだった。浅見は面に内側に毒が仕込まれていたのではと推理する。そして和鷹の本当の母親のことを調べ始める。

 その頃、天河館の女主人敏子が秀美を呼び出す。そこへ浅見もやってくる。彼は敏子が新宿で死んだ川島と中学の同級生であったこと、和鷹の実の母親であることを突き止めていた。敏子は3つの殺人事件について真相を語り始める…

 

 youtubeで石坂金田一のまとめ動画のようなものを見て、もう一度シリーズを観たいなぁと思っていたところ、BSで本作が放送されていたので思わず観てしまった。本作も角川映画であり、監督は市川崑。若い頃に何度か観た記憶はあるが、内容は忘れていたため、うってつけの作品だと思ったのだ。

 しかし改めて本作を観て感じたのは、監督による石坂金田一シリーズの完全なセルフパクリだということ(笑

 大滝秀治さんの神主、常田富士男の駐在、加藤武の警部補などは言うに及ばず。犯人が実の子供のそばでそれを告げずに見守ってきたのは「獄門島」と同じだし、探偵(浅見)が泊まる宿の主人が犯人なのは「悪魔の手毬唄」だし、探偵が終盤犯人の生い立ちなどを調べるために事件現場付近から姿を消すのは石坂金田一では定番だし。

 石坂金田一シリーズのファンなら、オープニングロールの最後に岸恵子の名前がクレジットされたところで90%犯人だとわかるし(笑 、トドメは映画冒頭で誤認逮捕されそうになっている浅見の無実を証言する女性の姿がなぜかハッキリと映し出されないが声はモロに岸恵子なところで、100%だと確信するだろう(笑

 なぜここまでシリーズに似せた作品にしたのだろう?角川春樹の差し金?それとも監督の趣味?どちらかは不明だが、この作品を作ったことがのちに「犬神家の一族」のリメイクにつながったのでは、と思えるほどだった。

 ストーリーとしては、犯人の動機など横溝作品と似ている感じもするが、設定が現在であるためか、どちらかといえば金田一シリーズ最終作「病院坂首縊りの家」に近いかも。そう言えば、「病院坂〜」だけあのシリーズの中で、ストーリー全体が記憶に残りにくい。どちらもシリーズ特有の「おどろおどろしさ」を出そうとしているのだろうが、それが空振りに終わり、普通のミステリーとなってしまっている感じ。

 それでも浅見光彦シリーズはこの後TVで定番のシリーズとなった。今回wikiで、この後映画のシリーズ化も考えられていたのだろうが、角川春樹の逮捕でその後の映画化はされていないそうだ。でもそれだけが原因ではないだろう、きっと。