天使はモップを持って 近藤史恵

●天使はモップを持って 近藤史恵

 新入社員梶本大介が配属されたのは、オペレータルーム。周りの女性社員からからかわれながらも仕事に励んでいる。ある日、大介はビルの清掃員の若い女性を見かける。その女性はキリコといい、清掃の天才と呼ばれていた。そんな大介の周辺で大小様々な事件が発生するが、キリコはいとも簡単にその真相を見抜いて行く。

 以下の8編からなる短編集。

 

オペレータールームの怪

 大介が作った資料が机から消える事件が連続する。キリコがそれを外回りのゴミ箱で発見する。


ピクルスが見ていた

 大介は財布を落としお金を稼ぐためにキリコの深夜清掃の手伝いをする。その日生命保険営業の橋爪さんがビルの非常階段から落とされるという殺人事件が発生する。


心のしまい場所

 大介の同期女性社員が結婚、大介は式に参加する。引き出物が紛失してしまい、社員の中川が代わりの引き出物を用意する。彼女はホットライフというマルチ商法を行なっていた。同期の原西がホットライフに勧誘されるを見たキリコは彼女を救おうとする。


ダイエット狂想曲

 派遣のオペレータ日比野さんがやってくる。彼女は社員の妹だったが、太っている姉とは異なりスリムな女性だった。その日比野さんが給湯室で倒れる事件が発生する。


ロッカールームのひよこ

 キリコが不在となった時期、女性ロッカールームに泥棒が入る。忘れ物をして会社に戻った大介はキリコと出会う。その時なぜかヒヨコが会社に何匹もいた。上司からセクハラを受ける女性社員との関係は。

 

桃色のパンダ

 キリコの誕生日を知った大介はプレゼントを探しにデパートへ。そこで他部の副部長永井と会いアドバイスをもらう。その永井の上司である吉田部長が娘のプレゼントとして用意していたピンクのパンダのぬいぐるみがバラバラにされる事件が起きる。


シンデレラ

 キリコの機嫌が悪い。会社のトイレを故意に汚されることが連続する。キリコに恨みを持つ人間を探すうち、営業の松岡がキリコにアタックしているのを知る。


史上最悪のヒーロー

 大介は結婚するが、妻に祖母の介護を全面的に任せてしまっていることを後悔していた。

 

 だいぶ前にネットでお勧めとして選ばれた一冊。近藤史恵さんの本は初めてだが、彼女の本が原作であるドラマ「シェフは名探偵」は楽しく観させてもらった。

 本作は3つ大きな特徴がある。一つは、女性清掃員が探偵役ということ。もう一つはそれぞれが30ページ前後の超短編ということ。さらにワトソン役の大介と探偵役キリコや同僚の女性社員との会話が多いため、さらに短く感じ、非常に読みやすい。

 最後の一つは、事件のトリックではなく、犯人?の動機に焦点が当てられていること。8編のほとんどは女性が犯人?なのだが、その動機がある意味女性特有のものばかり。人間関係の不安、女性総合職としての焦り、恋愛、ダイエット、不倫など。だからなのか、男性の私から見て、唯一?男性が犯人である7話目「シンデレラ」だけ犯人に対する共感は全くない。

 そして最終話。それまでの7編と異なる雰囲気でスタートし、おやっと思わせる展開が続くが、見事なオチがつく。「カラット探偵」もそうだったが、2000年代のミステリーはこのような最後の大どんでん返しがブームだったのかも。

 非常に読みやすく、シリーズ物として続刊もあるようだ。次の作品を読むのが楽しみである。