ゼロの焦点

●593 ゼロの焦点 2009

 禎子は鵜原憲一と見合いをし結婚をする。金沢で仕事をしている憲一は東京に戻るため、引き継ぎのために金沢へ行くことになるが、1週間で戻ってくると禎子に話す。しかし憲一は戻らなかった。先に送られてきた荷物を片付けていた禎子は、建物が写った2枚の写真を発見する。禎子は憲一の兄宗太郎に相談するが、彼は心配ないとしか言わなかった。

 禎子は金沢へ。憲一が勤めている会社の所長と本多が禎子を迎えにくるが、海岸で自殺者の死体が上がったと報せ警察へ。しかし死体は憲一ではなかった。禎子は憲一のことを調べ始める。彼は禎子に告げていた下宿を1年半前に引き払っていた。仕方なく禎子は憲一が仕事で深い付き合いがあったという室田の会社へ。室田社長は妻の方が憲一と仲が良かったと話す。社長の妻佐知子は、女性初の市長を目指す候補者の選挙に協力していた。禎子は佐知子に連れられ、彼女の家へ。そこは、写真の建物だった。

 母からの電話で禎子は憲一が以前警察官をしていたことを知る。その夜街で禎子は宗太郎の姿を見かける。彼は京都での仕事の後、金沢へ駆けつけると連絡してきていた。しかし翌日宗太郎に会うと、彼は今金沢に着いたところだと話す。その夜宗太郎は鶴来の宿で何者かに毒を飲まされて死亡する。現場では赤いコートを着た女性が目撃されていた。禎子は、本多に後のことを任せ一旦東京へ戻る。

 本多は室田の会社の受付をしていた女性、田沼久子のことを調べるが、赤いコートの女性に殺されてしまう。連絡を受けた禎子は金沢へ戻る。久子の夫は憲一が戻ると言っていた日に自殺していたと警察から聞く。禎子は久子のことを調べる。彼女の家へ行くとそこはもう1枚の写真の建物だった。さらにその家には憲一がいたと思われる証拠が残っていた。警察では憲一が久子宛てに書いた遺書を見せてもらう。

 禎子は佐知子と会う。彼女から後のことは警察に任せなさいと言われる。東京に戻った禎子は憲一が警察官時代に勤めていたという立川へ。そこで憲一の昔の同僚から当時の話を聞く。憲一は娼婦の取り締まりをしていた。そのことを室田社長も調べに来ていたとも知らされる。禎子は娼婦たちがいた宿へ。そこで話を聞き写真を見せられた禎子はその中に尚子だけではなく、佐知子の姿も発見していた。

 禎子は全てを悟る。憲一は金沢で久子と再会、一緒に暮らすようになっていた。さらに佐知子とも出会い、東京へ行って生まれ変わる、久子の就職を世話して欲しいと言っていた。佐知子は昔のことを知られることを恐れ、憲一に偽装自殺をするよう勧めるが、現場で憲一を崖から突き落としていた。さらに久子の命も狙う。

 禎子は金沢へ。選挙で佐知子が押していた女性が当選し祝賀パーティが開かれる。警察は室田社長の元へ。しかし社長は妻の罪をかぶり自殺。パーティで挨拶をしていた佐知子へ禎子は昔の娼婦時代の名前を叫ぶ。佐知子は倒れてしまうが、禎子の前に現れ憲一のことを話し逃亡、1週間後佐知子は遺体で発見される。

 

 推理小説はこれまでかなりの数を読んできているが、実は松本清澄の作品は読んだことがない。点と線は、その有名なトリックが本やTVなどで紹介されることが多いので知っているが、この作品についてはタイトルしか知らなかった。

 映画前半は「これぞミステリー」といった感じでとても面白かった。突然姿を消す夫、いかにもな写真、仕事先での怪しい交友関係、夫の兄の謎の死とそれに関わる赤いコートの女性。本当にゾクゾクするような展開。

 しかし映画中盤からいきなり謎解きが始まってしまう。なぜか立川で写真を見た主人公禎子が全てを悟ってしまう。清張の作品は犯罪のトリックより、犯人の動機の方に焦点が当たるのだろう。しかしその謎解き(佐知子と久子のやりとりも含め)も30分ほどで終わる。つまり2時間の映画で1時間半終わったところで、全てが明らかになる。残りの30分どうするのさ、と思って観ていたら、佐知子の後日談のような展開。

 物語としては必要なラスト30分かもしれないが、単体の映画として観たらこの30分は冗長すぎると感じる。しかしこれが清張作品のキモなのか。戦後すぐの時代をたくましく生きた女性、というのがテーマなのだろうが、やはり現代にそれをそのまま持ってくるのはどうしても共感が薄れてしまうかも。