モップの精は深夜に現れる 近藤史恵

●モップの精は深夜に現れる 近藤史恵

 前作で大介と結婚したキリコは新たに清掃の仕事を始めるが、その先々の職場で起きる事件を解決していく。

 以下の4編からなる短編集。

 

 

悪い芽

 中間管理職の栗山は中学生の娘ひかりとの仲が上手くいっていない。そんな時清掃員のキリコと出会う。栗山は新入社員と新しい部長を迎える。しばらく後、彼はキリコから社内のゴミの量が減ったと指摘を受ける。

 

鍵のない扉

 編集プロダクションに勤めるくるみは飲み会後、財布がないことに気づく。タクシーにも乗れない彼女は会社へ戻ることに。そこでキリコと出会う。しばらく後、くるみの会社の社長が喘息で死んでしまう。しかしキリコは社長が死んだ日のゴミ箱に猫の毛が大量に捨てられていたと話す。

 

オーバー・ザ・レインボウ

 モデルの葵は同業の彼氏ケンゾーに二股をかけられていたこと、もう一人の相手同業のサーシャが妊娠したことを知り絶望する。ケンゾーからの連絡を待つ葵はビルの屋上へ向かうが、いつのかにか締め出されてしまう。翌朝葵はキリコにより発見される。キリコと話し吹っ切れた葵だったが、その後、葵がサーシャへ嫌がらせをしているかのような事件が続く。

 

きみに会いたいと思うこと

 大介と結婚した後も、仕事に家事に大介の祖母の介護に、と奮闘していたキリコが突然旅に出たいと話し、行き先も告げずに家を留守にする。メールのやり取りは続くが、大介はキリコの真意がわからず困惑する。祖母に来た手紙がキリコの筆跡だと気づいた大介は手紙を読んでしまいさらに不安に陥る。

 

 シリーズ2作目。前作が1編30ページの8編だったのに対し、本作は1編約70ページの4編となった。「鍋奉行犯科帳」も同様だったが、意趣が全く異なる。思い出したのは、昔読んだ小林信彦さんの「神野推理の華麗な冒険」と続編「超人探偵」。1作目が1編約25ページの12編だったのに対し、2作目は1編約40ページの9編。1作目は1話1話が非常に短めでしかしテンポよく話が進んだのに対し、2作目は話が長くなった分内容が充実したものとなった。本作も全く同じ感想である。

 前作が主人公大介の勤める会社で起きる7つの事件+1だったのに対し、本作は4作とも事件が起きる舞台(会社)が異なる。キリコが結婚したことも関係するのだろうが、同じ会社で事件が起き続ける違和感を除くためというのが大きいように思える。実際前作の1話目の犯人?が、次の話で何もなかったかのように登場しているのにはちょっと違和感があったし。

 本作は1話1話ゲストキャラとなる登場人物の人物像を描くところから始まるので、前作より余計に感情移入がしやすい。特に娘をもつ父親としては、1話目は身にしみた部分が多い(笑 2話目の弱小プロダクション編集者も、3話目の売れないモデルも、社会的弱者の立場を見事に表現され、著者の巧さが発揮されている。

 前作同様、本作もミステリとしてはトリック云々よりは、犯人の感情、動機に焦点が当てられるが、どれも読者がすっきりと共感できるものではない。むしろ嫌悪感を抱く犯人像となっているのが、前作とは異なる点かも。

 最終話は本作で出番がないと思われた大介が主人公。前作の最終話と同様、キリコが対象となりちょっと謎めいた展開を見せるが、前作のようなオチではなく、いかにもミステリっぽい真相が明かされる。しかしまさか「舞踏会の手帳」がネタとなるとは。3年ほど前に観た映画だが、ハッキリと記憶に残る良い一本だった。

 新たな展開を迎えた2作目。続編がまだまだあるようで楽しみである。